覚えておきたい キケンな動植物による患者の症状【はじめに・総目次】
守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授
はじめに
その症状の原因が「まさか」の場合がある
救急外来では、さまざまな症状を訴える患者に遭遇します。
中でも、嘔吐や気分不良など、中毒症状を訴えて来院する患者の中には、まれに「え?これが?」と驚くようなものが原因の場合があります。
もちろん、さまざまな検査や医師による診察を経て原因を突き止め、確定診断に至ります。しかし、患者が来院したときの特徴的な症状などは診断へのカギとなることが多く、看護師が「この症状って、もしかしたら…?」と疑うことは、苦しんでいる患者の症状を一秒でも早く和らげるきっかけとなることもあります。
この連載では、救急外来などで比較的遭遇する確率の高い「毒」に関して、その特徴的な症状や患者の雰囲気など、教科書では教えてくれない実際について説明していきます。
ぜひ、看護師には患者の症状や傷の見た目、または問診時の患者の雰囲気などから、「あれ?もしかしたら○○が原因?」と疑える力(知識)を身に付けていただければと思います。
そもそも、毒って何?
突然ですが、「毒って何?」と改めて聞かれたら、あなたは正確に答えられますか?おそらく、「毒」と聞くと「体に悪いもの」といった、漠然としたイメージを持っているのではないでしょうか?
毒とは、生物の体内に入った時にその生物の生命活動にとって不都合な状態、つまり危険な状態にする物質の総称であり、毒を持つ物質を毒物と言います。
すなわち、皆さんが使用する「毒」という言葉は「人間にとって不都合を引き起こす物質」です。そして、人間がこの不都合な症状を起こした状態を中毒症状と呼びます。
この連載では「毒」=「人間にとって危険を引き起こす物質」と定義します。
ちなみに、人間が食べる物でも犬などほかの動物にとっては毒となる物がたくさんあります。
たとえば、キシリトール入りのお菓子やチョコレートって美味しいですよね。だからもし、あなたが犬を飼っていたとしたら、かわいい飼い犬にもあげたくなっちゃいませんか? でも、絶対にダメです!他にもネギ類、レーズン、アボガドも犬にとっては毒になってしまいます。もっと知りたい方は米国動物虐待防止協会 中毒事故管理センターで紹介されているので一度確認してみてください(英語ですが)。
毒の歴史は、人類の歴史
毒の歴史は、人類の歴史といっても過言ではありません。歴史をひも解くと、紀元前4,500年ほど遡ることになります。
現在、皆さんが食べている物は昔の人々が実際に食べてみて大丈夫かどうか判断してきた歴史です。つまり、皆さんの今日の食卓は、過去の多くの人々の犠牲の下で成り立っているのです。
また、人類にとって良い形でも使用されてきました。たとえば、古代は、毒が付いた矢尻を狩猟に使用したり、薬の一部として使用することもありました。逆に、暗殺・殺人などに用いられるなど悪い形で使用されることも多々ありました。
毒の種類は2種類
毒にはさまざまな種類がありますが、大きく分けて2種類になります。一つは人間が化合して作った人工的な毒と、もう一つは自然界に存在する自然毒です。
人工的な毒は多岐にわたり、食用に作られていない工業用薬品や家庭用用品の多くは人間にとって毒となります。対して、自然毒は「植物性自然毒」と「動物性自然毒」に分けられます。しかし、実は自然界にはまだ解明されていない毒類は多く、逆に詳細に解明されている毒類の方が少ないと考えられているのです。