その症状、もしかしたらヒアリかも?!|キケンな動植物による患者の症状【7】
今回は、現在世間を騒がしている「ヒアリ」について紹介します。最近ニュースで「○○港で、××倉庫でヒアリが発見!」「刺されたら死に至る可能性も!」なんて聞いたことないですか?なぜあんなに騒いでいるのでしょうか?どれくらい危険なのでしょうか?刺されたら本当に死んでしまうのでしょうか?
また、もしかすると、救急外来などに「ヒアリに刺された!」なんていう患者さんが来る可能性だってあります。そんな時にはどうしたらよいのでしょうか?…安心してください。しっかりした知識を持てば怖いことはありません。ヒアリに刺された時の症状や対処法を含めて、簡単に説明します。
守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授
〈目次〉
- ヒアリって?
- ヒアリに刺されたらどうなる?
- ヒアリの毒
- ヒアリに刺された場合の症状
- ヒアリに刺された場合の処置・治療
- 「ヒアリに刺された!」と来院した患者さんへの問診やムンテラのポイント
ヒアリって?
ヒアリはハチ目・アリ科・フタフシアリ亜科に属する小型なアリの一種です。漢字で書くと「火蟻」、つまり刺されると火傷のような激しい痛みを伴うことが名前の由来になっています。
ヒアリは全体的な体色は赤茶色で、腹部が赤黒いのが特徴です。尻に毒針を持っており、体長は2.5~6mmとばらつきがあります。また、外来生物法により「特定外来生物」に指定されています。南米中部が原産国のアリですが、貿易などが盛んになり始めた1948年にはアメリカ合衆国で発見され、その後はさまざまな国から発見の報告があり、今では、マレーシア・オーストラリア・ニュージーランド・台湾・中国など世界中に生息するようになりました。現在は、中南米以外の環太平洋地域を中心に14の国と地域で生息が確認されています。
memo外来生物法
外来生物法は、正式には「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律」というもので、2005年に施行されました。略して「外来生物法」と呼ばれています。
この法律は、生態系・人の生命や身体・農林水産業に被害を及ぼし、または及ぼす可能性のある「特定外来生物」を指定して、取り扱いに関して規制をしています。特定外来生物はヒアリなどの昆虫だけでなく、哺乳類・魚類・鳥類などから、植物までも含まれています。詳しい内容は環境省のホームページで確認することができるので、興味がある方はご参考にしてください。
アメリカでは毎年1,000万人以上のヒアリによる被害が報告されています。今回の日本での発見例は、中国や台湾からの貨物に紛れて国内に入ってきたと考えられます。日本ではすでに何か所かで発見はされていますが、生息は確認されていません。したがって、現在、国内への侵入を防ぐべく、各自治体が対策を練っていますが、港湾地域だけでなく、内陸地域でも発見されているため、すでに国内に拡散し、将来的に生息してしまう可能性も指摘されています。
もし、ヒアリを見つけたら地方環境事務所などに報告してください。また、ヒアリに刺された可能性が高い患者さんを診察した場合には、所轄の保健所などに連絡して相談をしてください。
ヒアリに刺されたらどうなる?
ヒアリの毒
ヒアリは、尻の先にある毒針から毒素を注入します。毒性は比較的強いですが、個体の大きさから考えると毒素は少量なので、毒自体で死亡することはまれです。
ヒアリの毒の主成分は、水不溶性のピペリジンアルカロイドであるソレノプシンです。しかし、ハチ毒にも含まれるホスホリパーゼやヒアルロニダーゼなども含まれています。気を付けなければならないのは、そのホスホリパーゼやヒアルロニダーゼなどを含んでいるために、ハチ毒アレルギーやハチに刺されたことがある人は、初めてヒアリに刺されても、アナフィラキシーを発症する可能性があることです。ヒアリに刺された場合の死亡例は、アナフィラキシーによるもので、その場合には早急な治療が必要になります。
ヒアリに刺された場合の症状
ヒアリに刺された場合の症状は、人によりさまざまです。刺された瞬間は「熱い!」「ビリッとした」と感じ、その後から激痛を自覚するようになります。局所は腫脹・発赤(図1)し、時間が経つと痛みより痒みが強くなり、そのまま軽快して治癒します。多くの場合は、この程度の軽症で経過していきます。
中度の場合は、刺されてから数分~数十分後に局所や全身に痒みを伴う蕁麻疹が出現し、時間が経つと軽快します。
重度の場合は、刺されてから数分~数十分後に、蕁麻疹に加えて中枢神経症状(意識障害・不穏など)、呼吸器症状(上気道;喉頭・声帯浮腫、下気道;気管攣縮など)、消化器症状(腹痛・下痢など)、循環器症状(不整脈、血圧低下など)が出現し、アナフィラキシーとなります。
ニュースなどでは、ヒアリの毒は猛毒で、刺されると死亡することもあるような報道も散見されますが、基本的にはアナフィラキシーに注意すれば、致死的になることはありません。
ヒアリに刺された場合の処置・治療
ヒアリに刺された場合、刺されてからの時間が重要になります。
刺されてからすでに1時間以上たっていて、痛みが強いために来院した場合には、基本的に対症療法のみとなります。毒の成分から考えれば、局所の冷却は除痛には効果があると考えられます。効果は不明ですが、鎮痛剤の投与を考慮しても良いと考えます。
刺されてすぐの来院の場合には、数時間の経過観察を行って全身症状が出現しないことを確認してください。中枢神経症状や呼吸器症状などの、局所症状以外の症状が出現している場合には、アナフィラキシーに準じた治療を早急に行う必要があります。
「ヒアリに刺された!」と来院した患者さんへの問診やムンテラのポイント
ヒアリは刺された後の「熱い!」「ビリッとする!」という感じと、その後の激痛が特徴的で、これらのキーワードが問診で出てくれば、ヒアリを疑う必要があります。実際に、刺されたアリを見たのであれば、大きさや色を聞き出すのもポイントとなります。ただし、国内に生息するクシケアリなどは外見や大きさがヒアリに似ており、こちらも毒針を持っており刺すので、区別が難しくなります。ただ、クシケアリでもヒアリでも、基本的には、処置や治療は変わりません。
現在、テレビやニュースで大々的に報道されているので、一般の人たちは過剰に反応してしまうこともあります。以前、デング熱が流行した時は、過剰に反応する人たちも多く、「蚊に刺されたからデング熱が心配」「単なる風邪ではなくてデング熱では?」などと心配して、救急外来を受診する人が増えました。おそらく、今回も、昆虫などに刺されたときに「ヒアリではないか?」など、過剰に心配する患者さんが来院する可能性もあります。そのため、医療者は冷静に正しい知識を持って、正しい情報を患者さんに伝えるようにしましょう。
[引用・参考文献]
- (1)United States Department of Agriculture.Red Imported Fire Ant.(2017年7月14日閲覧)
- (2)環境省自然環境局.ストップ・ザ・ヒアリ.(2017年7月14日閲覧)
[Design]
ロケットデザイン