その症状、もしかしたらマムシ咬傷かも?!|キケンな動植物による患者の症状【9】

嘔吐や気分不良など、中毒症状を訴えて来院する患者の中には、まれに「え?これが?」と驚くようなものが原因の場合があります。
この連載では、外来などで比較的遭遇する確率の高い意外な原因について、特徴的な症状や気を付けておきたいポイントなどについて説明します。ぜひ、看護師の皆さんには「あれ?もしかしたら○○が原因?」と疑える力(知識)を身に付けていただければと思います。

 

守田誠司
東海大学医学部付属病院 外科学系救命救急医学講座教授

マムシ

 

〈目次〉

 

ヘビ咬傷って?

ヘビは爬虫綱有鱗目ヘビ亜目に分類される爬虫類の総称です。長さは10cm程度から10m程度と幅広く、毒性を持つものや持たないものなど、多種が確認されています。「ヘビ=毒」のイメージが強いかもしれませんが、日本のヘビは比較的毒性を持つものは少ないのが特徴です。

 

日本における臨床上、危険なヘビはマムシ・ヤマカガシ・ハブの3種類に絞って良いと考えます。そのほかのヘビは毒性を持たないヘビです。

 

ただ、問題があります。咬まれたヘビを見ていても患者さんが「マムシに咬まれました」「ハブに咬まれました」などと言ってくることは少なく、ヘビの特徴などを患者さんから聞いて図鑑などから推測する必要があります。したがって、ある程度ヘビの特徴を覚えておく必要がありますが、自信がなければ図鑑など用意しておくと便利です。

 

マムシ咬傷の患者さん

 

外来に一冊、生物図鑑を準備しておくと便利かも

 

では、草むらの中で突然ヘビに咬まれ、特徴すら分からないといった場合はどうすればよいでしょうか?実は、ヘビに咬まれた痕で推測ができるのです。これは覚えておくと便利なので、参考にしてください(図1)。

 

図1ヘビの種類による毒牙の有無と位置

ヘビの種類による毒牙の有無と位置

 

マムシやハブは毒牙が前方に2本あり、毒牙が刺さりやすくなっています(図1A)。一方で、ヤマカガシは毒牙が奥にあり、深く咬まないと毒牙が刺さらないようになっています(図1B)。そのため、過去にはヤマカガシは無毒といわれている地域もあったようです。アオダイショウなど毒のないヘビは毒牙を持っていません(図1C)。

 

今月は「キング オブ 毒蛇」であるマムシについて説明します。

 

マムシって、どんなヘビ?

マムシは、クサリヘビ科マムシ属に分類されるヘビで、沖縄地域を除く、日本全国に生息しています。そのため、マムシ咬傷は比較的遭遇しやすいヘビ咬傷です。
マムシの全長は45~80cm程度で、全長に比べて胴体が太いのが特徴です。また頭は三角形で、体色は個体によりさまざまですが、淡褐色が一般的です。中央に黒い銭型の楕円形の斑紋も特徴的です(図2表1)。

 

図2マムシとマムシの特徴的な模様

マムシとマムシの特徴的な模様

 

マムシの体色は個体や生息地域で多少変化しますが、淡褐色~褐色で、黒の楕円とその内側に体色より濃い褐色の模様が特徴です。

 

表1マムシの特徴

マムシの特徴

 

マムシは、基本的には夜行性で、平地から山地の森林に生息し、マムシ咬傷は春~秋に多く、推計2,000~3,000人/年程度の咬傷被害者が報告されていますが、死亡に至るのは数人です。

 

マムシに咬まれるとこんな症状が出る

マムシに咬まれた後、約数十分後から患部に激しい疼痛・腫脹が出現します。数時間後から皮下出血・水疱形成・リンパ節の腫脹が出現します。多くの患者さんは、来院時には激しい痛みを訴え、患部に発赤・腫脹を認めます(図3)。このような症状がある場合には毒が体内に入っていると考えることが大切です。

 

図3マムシに咬まれた傷

マムシに咬まれた傷

 

写真左:患部に(手背)毒牙による牙痕を2カ所認める()。このような牙痕がある場合には毒蛇の可能性が高い。全体的に腫脹し、手背は青っぽく皮下出血を認める。
写真右:前腕全体に腫脹が広がっている。上腕をテープで緊縛している()。

 

当然のことですが、ヘビも何でもかんでも咬みつくわけではなく、危険を感じるから咬みつくのです。したがって、咬まれる部位の多くは四肢末端(特に上肢、手)になります。なお、マムシ咬傷は症状により重症度分類があります(表2)。

 

表2マムシ咬傷の重症度分類

ヘビ咬傷の重症度分類

 

マムシ咬傷の処置・治療法

マムシ咬傷の場合、過去には牙痕周囲に小さな小切開を多数作り、毒素を絞り出す「乱切」という処置を行っていましたが、現在ではエビデンスがなく行われていません。 ただ、牙痕から毒素を絞り出し、毒素量を減らす必要があります。当院では以下の方法で処置をしています(図4)。

 

図4シリンジを使用した持続吸引方法

シリンジを使用したヘビ毒持続吸引方法

 

10cc程度のシリンジの下端を切り、切断部を牙痕に当て内筒を引く。引いた状態で針などを刺して固定し、牙痕部に持続的に陰圧をかけることで牙痕から浸出液(毒素)が出てくる。

 

マムシの毒は、表皮に近いリンパに沿って中枢側に流れていくので、腫脹している中枢側をテープなどで軽く緊縛します。これにより腫脹の広がりを予防しますが、緊縛部位を越えて腫脹する場合には、さらに中枢側で緊縛します。牙痕は消毒、抗生剤や破傷風トキソイドの投与を考慮します。基本的には保存的治療を行いますが、腫脹の進行が止まるまで入院で経過を診た方が安全です。

 

抗毒素血清

マムシ咬傷の治療で使われることのある抗毒素血清は、ウマの血清から精製するため、アレルギー反応が出現することがあります。このアレルギーは使用直後に出現する即時型のアナフィラキシーと、数日~数週間後に発症するⅢ型(免疫複合体による)アレルギーである血清病があります。したがって、ルーチンで使用するのではなく、そのメリットとデメリットを考慮する必要があります。

 

抗毒素血清の明確な投与基準はありませんが、短時間で重症度分類のgradeⅡorⅢ以上に達するような症例で使用することが比較的一般的です。ただし、マムシ自体は日本固有のヘビであり、大規模な二重盲検などの研究はありません。理論上は抗毒素血清は有効と考えますが、実際の臨床上の有効性は不明です。私見ですが、個人的にはマムシ咬傷患者に抗毒素血清をほとんど使用していませんが、臨床上問題になったことはありません。

 

マムシ咬傷はここにも注意!

マムシは毒の量は少ないですが、毒性自体は強いため、小児や体格の小さい患者の場合には重症化する可能性があるため注意が必要です。

 


[Design]
ロケットデザイン

 

[Illustration]
山本チー子

 


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