NO(一酸化窒素)吸入療法の特徴・適応は?
『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「NO(一酸化窒素)吸入療法」に関するQ&Aです。
三浦規雅
東京都立小児総合医療センターPICU主任
NO(一酸化窒素)吸入療法の特徴・適応は?
NO(一酸化窒素)は、体血管拡張には作用せず、肺血管のみを選択的に拡張させます。肺高血圧症に適応があります。
〈目次〉
NO吸入療法の特徴
1NO吸入療法の作用機序
NO(一酸化窒素)*吸入療法は、強力な平滑筋拡張物質であるNOを、直接、経気道的に肺胞に投与する肺血管拡張療法である。
吸入されたNOは、対流と拡散により肺胞へと運ばれてすみやかに組織に吸収され、血管平滑筋で細胞内のグアニル酸シクラーゼを活性化してcGMP(環状グアノシン一リン酸)*を増加させ、血管平滑筋を弛緩させる。
平滑筋弛緩に関与しなかったNOは、血管内でHb(ヘモグロビン)と結合して数秒で不活化されるため、体血管拡張には作用せず、肺血管のみを選択的に拡張させる(図1)。
2NO吸入療法の効果
NO吸入療法では、NOが気体として経気道的に吸入されるため、換気のよい肺胞により多く取り込まれ、その肺胞周囲の血管拡張に作用することから、換気血流比不均衡を改善させる。また、肺血管抵抗を減少させることにより、右室機能の負荷を軽減させる。
一方、経静脈的血管拡張薬は、換気の悪い肺胞周囲の血管だけでなくすべての肺血管を拡張させるため、換気血流比不均衡を悪化させる恐れがある。
NO吸入療法の適応
吸入装置としては、アイノベント®・アイノフロー®吸入用800ppm(いずれもエア・ウォーター株式会社)があるが、新生児の肺高血圧を伴う低酸素性呼吸不全に限って保険適用となっている(平成22年4月診療報酬改定)。
NO療法の適応としては、小児や成人の可逆性の肺高血圧症とそれに伴う右心不全をきたす疾患および周手術期管理、低酸素血症が挙げられ、工業用一酸化窒素を施設負担で用いている現状がある(表1)。
肺血管抵抗の上昇 |
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肺血管抵抗の上昇に起因する右心不全 | |
肺内シャント増加に起因する低酸素血症 |
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- NO(nitric oxide):一酸化窒素
- cGMP(cyclic guanosine monophosphate):環状グアノシン一リン酸
[文献]
- (1)斉藤修:HFOV.救急・集中治療 2010;22:360.
- (2)宮坂勝之,中川聡:肺循環障害とNO.CLINICIAN 1996;456:64-70.
- (3)中村知夫,高田正雄,宮坂勝之:一酸化窒素(NO)と小児肺高血圧症.小児科1995;36:997-1005.
- (4)志馬信朗,橋本悟,問田千晶:小児ICUマニュアル改訂第6版,永井書店,大阪,2012:50/121-122.
- (5)坂井裕一:小児ICUにおけるNO吸入療法.ICUとCCU1995;19:1037-1043.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社