縫合不全を起こしたら絶対に絶飲食?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「縫合不全を起こした際の絶飲食」に関するQ&Aです。
西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
縫合不全を起こしたら絶対に絶飲食?
〈目次〉
飲食には、腸管機能や免疫能維持のメリットがある
もともと縫合不全のある患者を絶飲食にするのは、縫合不全部からの漏れを少なくし、腹膜炎の拡大を防止するためでした。
しかし、直腸がんの低位前方切除後の縫合不全症例などでは、縫合不全部からの腸液の漏れが確実に瘻孔化し、腹腔内に広がらない状態(図1)であれば、経腸栄養剤や通常の食事をとりながら縫合部の治癒を待つ、という手段がしばしばとられています(1)。
絶飲食にすると、縫合不全部に物が通らないので早く治ると考えられがちですが、腸管の粘膜の萎縮が進み、かえって縫合不全部の組織修復が進まないと現在では考えられています。
この分野ではここ20年くらい前から縫合不全の瘻孔が確実に形成されている症例に食事をしながら治癒した、という報告が見られはじめ、今ではむしろ食事をしたほうが腸の粘膜の再生がよい、という点で推奨している施設もあります。
同じエネルギーを投与しても、経腸投与のほうが、経静脈投与よりも腸管機能や免疫能が維持されることに通じるためと考えられます。
飲食を開始する前には、「瘻孔」「通過障害」「腸液の漏れ」のアセスメントが必須
ただし腸液の漏れが確実に瘻孔化していることが条件であるため、胃がんや結腸がんでは瘻孔化しにくく、多くは直腸がん症例が対象になります。
まず、(表1)の3点が条件となります。
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これらを確実に満たしているかは、
をアセスメントしましょう。
経口摂取は通常のお粥や常食でもいいのですが、経腸栄養剤、それも成分栄養剤から始め、半消化態栄養剤、通常の食事と段階的に上昇させている施設もあります。最初は低残渣の経腸栄養剤の投与から始めて、それでも3条件の悪化がなければお粥に切り替えていく場合が多いようです。
経口摂取量が少ない場合は、高カロリー輸液との併用でさらに投与エネルギー量を確保しようとしている施設もあります。このような方法で行うと、直腸がんの低位前方切除後の限局した縫合不全は通常3週間前後で閉じる場合が多いです。
経口摂取を実施する際は、発熱の程度、腹痛の部位と強さ、ドレーン排液の量と性状、排ガス・排便の有無に注意して観察しましょう。もし高熱の出現、腹痛の広がり・増強、ドレーン排液の増加、イレウス(腸閉塞)の症状が見られた場合は医師に相談し、経口摂取の中止を検討しましょう。
口腔ケアは、絶飲食でも必ず行ってほしい日常ケアです。 「食べていないから」「チューブが入っているから」といって 歯磨きを行わない患者さんがいますが、口腔内には多くの微生物が生息しています。
唾液の作用を引き出し、誤嚥性肺炎の予防や安全な摂食につなげるためにも、絶食時における口腔ケアはとても重要です。
[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社