VAP(人工呼吸器関連肺炎)は、どうして起こるの?
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『人工呼吸ケアのすべてがわかる本』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「VAP(人工呼吸器関連肺炎)」に関するQ&Aです。
塚原大輔
日本看護協会看護研修学校認定看護師教育課程特定行為研修担当教員
VAPは、どうして起こるの?
〈目次〉
VAP(人工呼吸器関連肺炎)の発症
VAP(人工呼吸器関連肺炎)は、気管チューブを留置することにより、細菌が下気道に侵入することで発症する(図1)。
通常、上気道は、外部から侵入してくる細菌やウイルスなどを下気道へ侵入させないための機能(フィルター機能、クリアランス機能、加温加湿機能など)を備えている。
人工呼吸器装着患者は、気管チューブや気管切開チューブなどの人工気道を留置する。つまり、人工気道によって上気道がバイパスされるため、細菌が下気道に侵入し、特に免疫機能が低下した重症患者では、VAPを発症しやすくなるのである。
VAPの発症経路としては、①上気道の細菌や逆流した胃内容物の誤嚥、②汚染した回路や回路開放に伴う細菌の吸入の2点が挙げられる。
上気道の細菌や逆流した胃内容物の誤嚥
気管挿管時は、口腔で細菌が繁殖しやすい状況にある。原因として、以下の3点が挙げられる。
- ①経口摂取していないため、自浄作用のある唾液の分泌が抑制されるうえ、オーラルケアが十分に実施できないこと
- ②消化管潰瘍を予防する薬剤や早期の経腸栄養によって胃液がアルカリ化し、消化管で繁殖した細菌がチューブを伝って逆行性に口腔へ移動すること
- ③経鼻挿管の場合、副鼻腔炎を合併しやすいこと
特に、カフ上部に貯留した分泌物の垂れ込み(不顕性誤嚥:silentaspiration)は、VAPの主要因といわれている。そこで、カフ圧管理を適切に行い、カフ上部吸引による分泌物の除去や、頭部挙上を行うことによって、胃内容物の逆流を予防することが必要となる(→『気管チューブのカフはなんのためにあるの?』)。
汚染した回路や回路開放に伴う細菌の吸入
人工呼吸器回路自体の汚染や、気管吸引など
による頻繁な着脱により、直接人工気道を介して細菌が侵入する。
VAPを引き起こす回路汚染の原因として、以下の2点が指摘されている。
- ①加温加湿器の水(結露)を除去する際の不潔な操作
- ②気管吸引や回路交換などで気管を開放した際の回路内の細菌汚染
回路開放を伴う処置(吸引など)を行う際は手洗いと手袋の装着などスタンダードプリコーションを遵守すること、人工鼻や閉鎖式吸引を使用し回路開放しないことなど、対策をとる必要がある。
略語
- VAP(ventilator-associated neumonia):人工呼吸器関連肺炎
[文献]
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『新・人工呼吸ケアのすべてがわかる本』 (編集)道又元裕/2016年1月刊行/ 照林社