FOLFIRINOX療法(看護・ケアのポイント)/膵がん

この連載では、抗がん剤のポイントや注意点について解説します。
今回は、膵がん(膵癌)の患者さんに使用する抗がん剤「FOLFIRINOX療法」について、看護・ケアのポイントについて紹介します。

 

第1話:『FOLFIRINOX療法(化学療法のポイント)/膵がん

FOLFIRINOX療法

 

堀口 繁
(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科消化器・肝臓内科学)

 

FOLFIRINOX療法のポイントA・B・C

  • ポイントA:本レジメンは膵がんの治療ガイドラインの中で、手術ができない膵がん患者さんに強く推奨されている治療のうちの一つです。
  • ポイントB:食欲低下や嘔気などの症状の程度を把握して、次コース以降の制吐剤の変更をチームで検討しましょう。
  • ポイントC:46時間、フルオロウラシルの持続静注を行うので、投与開始前にCVポート(点滴のための器具)を外科的に挿入しておく必要があります。

 

〈目次〉

 

必ず覚えて! FOLFIRINOX療法の注意点

投与前の注意点

投与前にはCVポート部の発赤などの炎症所見の有無、患者さんの発熱や下痢の有無、食事、睡眠の状況、体重の増減を確認しましょう。

 

口腔内感染があると好中球減少時に口内炎が悪化しやすくなり、味覚障害が強く出るので、投与前の歯科受診、投与中の口腔ケアは必須です。

 

この治療は投与後の1週間は食欲低下が比較的強く出るので、前回投与時に食欲や体調はどうだったかを確認し、医師と情報共有をしましょう。

 

memoイリノテカンを投与するレジメンはココに注意!

UGT1A1というイリノテカンの代謝酵素の変異を事前にチェックすることが必要です。

 

変異が多くある方は、変異のない方に比べて副作用が強く出ることがわかっており、副作用の予測につながります。

 

FOLFIRINOX療法のポイントA

  • 本レジメンは膵がんの治療ガイドラインの中で、手術ができない膵がん患者さんに強く推奨されている治療のうちの一つです。

 

FOLFIRINOX療法のポイントB

  • 食欲低下や嘔気などの症状の程度を把握して、次コース以降の制吐剤の変更をチームで検討しましょう。

 

memoイリノテカンを投与するレジメンはココに注意!

イリノテカンの代謝酵素に関連するUGT1A1という遺伝子について事前に検査して調べておくことが推奨されます。特定の遺伝子型では副作用が強く出ることがわかっており、副作用の予測につながります。

 

投与中の注意点

投与中は、イリノテカン(カンプト)投与時に腹痛や急性の下痢が見られることがあります。ブスコパンなどの抗コリン剤が有効であることが多いので、このような症状が見られた場合は、医師と連携し情報を共有しましょう。

 

また、急性の末梢神経症状として、手足のしびれ、冷たいものを持ったときのビリビリ感、また呂律が回りにくくなることがあります。この場合、四肢麻痺などの血管症状は認められず、経過観察で自然におさまります。両症状とも1~2日で治まります。

 

事前に、これらの症状が起こる可能性があることを説明しておくと、落ち着いて対処できます。

 

投与後の注意点

投与後は、嘔気や食欲低下が出現することが多く、このような場合は、患者さんは食事や室内の匂いなどに非常に敏感になります。これらは、食欲が低下し、治療が継続できなくなる一番の理由になります。栄養士と連携し、食事の変更、匂いのあるもの(生花、使用済のガーグルベイスンなど)の撤去、窓側へのベッドの移動などを検討しましょう。

 

下痢については、患者さんから問診し早期発見に努めましょう。

 

帰宅後、発熱時には重篤な感染症の可能性があるので、医療機関を受診するなどの対応について患者さんによく説明しておきましょう。

 

FOLFIRINOX療法時の申し送り時のポイント

投与後の嘔気、食欲低下の有無を必ず伝えましょう。制吐剤や輸液などが必要になることがあるので、早めに医師に連絡し、対応を確実に申し送りましょう。

 

また、CVポート(点滴のための器具)を使用するので、ポート部の発赤など点滴漏れの所見に注意しましょう。

 

申し送り例

今日からFOLFIRINOX療法が始まりました。CVポートの発赤などの異常は見られませんでした。事前のブチルスコポラミン(ブスコパン)の点滴により、腹痛や急性下痢などのコリン作動性症候群は起きませんでした。オキサリプラチン(エルプラット)投与後から手先と舌先のしびれはありますが軽度であり、四肢の動きに異常はありません。
夕方からフルオロウラシル(5-FU)の持続点滴を接続しています。夕方から軽度の吃逆が認められますが処置は希望されず、経過をみています。夕食はいつもの半分程度しか欲しく無いとのことでしたので明日の様子をみて主治医に報告してください。

 

FOLFIRINOX療法のポイントC

  • 46時間、フルオロウラシルの持続静注を行うので、投与開始前にCVポートを外科的に挿入しておく必要があります。

 

FOLFIRINOX療法時の看護記録に記載すべきこと

外来受診時には、前回投与後からの2週間の発熱の有無、食欲、体重の増減、排便、倦怠感について問診し記載しましょう。またCVポート部の感染の有無についても記録しておきましょう。

 

投与中は、アレルギー症状、コリン作動性症候群、急性の末梢神経障害の有無と程度を必ず記載しましょう。また、CVポートからの薬剤の漏出があれば、その写真を撮影し主治医に報告しましょう。

 

患者ケア・看護ケアはココを押さえる

FOLFIRINOX療法は好中球減少をきたしやすく、わが国で行われた臨床試験では22%と高頻度に発熱性好中球減少症(FN)を起こします1)。FNは、命に関わる重大な副作用なので、発熱がある際には慎重な対応が必要です。FNは、好中球が減少する投与後1週間以降に起こりやすいので、その時期には要注意です。

 

また、食欲低下を起こしやすく、この有害事象のマネジメントが治療継続のカギとなります。口腔内感染のチェック、ならびに継続的な口腔ケアは必須です。食欲低下時には、口内炎がなければ酸味のあるさっぱりとした食事を好まれるので、栄養士と連携をとりながら食事の調整をしつつ、点滴や内服について主治医と相談をしましょう。

 

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[監 修]
齋藤信也
岡山大学大学院保健学研究科 教授

 

[編 集]
西森久和
岡山大学病院 血液・腫瘍内科

 

[執 筆]
堀口 繁
岡山大学大学院医薬学総合研究科消化器・肝臓内科学

 


*本連載では、登録商標マーク®の記載はすべて省略しています。

 

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