シスプラチン+イリノテカン療法 (看護・ケアのポイント)/肺がん

この連載では、抗がん剤のポイントや注意点について解説します。
今回は、肺がん(肺癌)の患者さんに使用する抗がん剤「シスプラチン+イリノテカン療法」について、看護・ケアのポイントについて紹介します。

 

第1話:『シスプラチン+イリノテカン療法(化学療法のポイント)/肺がん

シスプラチン+イリノテカン療法

 

久保寿夫
(岡山大学病院 腫瘍センター)

 

シスプラチン+イリノテカン療法のポイントA・B・C

  • ポイントA:シスプラチンによる腎機能障害には注意が必要。水分摂取をしっかり勧めよう!
  • ポイントB:イリノテカンによる下痢は注意が必要。UGT1A1の測定、忘れていませんか?
  • ポイントC:シスプラチンは抗がん剤の中でも嘔気・嘔吐の王様。制吐対策をしっかりしよう!

 

〈目次〉

 

必ず覚えて! シスプラチン+イリノテカン療法の注意点

投与前の注意点

投与前に、腎機能に問題がないか(クレアチニンクリアランス≧60mL/分が目安)、もう一度確認しましょう

 

また、UGT1A1の遺伝子多型の検査が行われていることが望まれます。

 

患者さんの発熱の有無や、食事・排便・睡眠の状況などを確認しましょう。特にイリノテカン(カンプト)の副作用として下痢がありますので、排便状況の把握は重要です。下剤内服の有無なども併せて確認しましょう。また、間質性肺炎があるとイリノテカン(カンプト)は使えませんので、注意してください。

 

シスプラチン+イリノテカン療法のポイントA

  • シスプラチンによる腎機能障害には注意が必要。水分摂取をしっかり勧めよう!

 

シスプラチン+イリノテカン療法のポイントB

  • イリノテカンによる下痢は注意が必要。UGT1A1の測定、忘れていませんか?

 

memoイリノテカンを投与するレジメンはココに注意!

イリノテカンの代謝酵素に関連するUGT1A1という遺伝子について事前に検査して調べておくことが推奨されます。特定の遺伝子型では副作用が強く出ることがわかっており、副作用の予測につながります。

 

投与中の注意点

シスプラチン(ランダ)、イリノテカン(カンプト)はともに炎症性抗がん剤に分類されますので、血管外漏出により発赤や痛みを生じることがあります。投与時に痛みや腫れ、違和感などがないかよく観察してください。もし、血管外漏出を発見した場合には、直ちに点滴を止め、主治医に報告しましょう。抜針の際には、できるだけルート内の薬剤を注射器で吸引してから抜針してください。

 

また、シスプラチン(ランダ)による急性腎障害を予防するためには、投与直後から2時間の間に強制利尿をかけることが重要です1)。シスプラチン(ランダ)投与後から約2時間の尿量、尿回数、体重変化に注意し、尿量が少ない場合などは主治医に報告しましょう。

 

投与後の注意点

嘔気・嘔吐には急性のものと遅発性のものとがあります。嘔気・嘔吐の発現時期や程度についてしっかり把握してください。2日目(Day 2)以降にも経口ステロイドやアプレピタント(イメンド)が処方されている場合は、飲み忘れることがないように注意しましょう。

 

水分が十分に取れない場合には、点滴が必要になる場合もあります。飲水量や体重変化など、水分バランスの管理をしっかり行いましょう。

 

また、イリノテカン(カンプト)の下痢には投与直後にみられる「即時型の下痢」と、1~2週間後に遅れて出現する「遅発型の下痢」とがあります。好中球減少のタイミングと重なると命に関わることもあるので、注意が必要です。

 

シスプラチン+イリノテカン療法のポイントC

  • シスプラチンは抗がん剤の中でも嘔気・嘔吐の王様。制吐対策をしっかりしよう!

 

シスプラチン+イリノテカン療法時の申し送り時のポイント

シスプラチン(ランダ)投与時の水分管理が問題なく行えたか必ず伝えましょう。嘔気・嘔吐がどの程度であったか、飲水による水分補給が可能であったか、点滴や利尿剤の追加が必要であったかなどを伝えるようにしてください。

 

また、好中球減少や、下痢など副作用の発現時期と程度についても伝えるようにしましょう。

 

申し送り例

1サイクル目のシスプラチン+イリノテカン療法を行った患者さんです。UGT1A1は投与前に検査されており、野生型(wild type)でした。
シスプラチン(ランダ)投与時の飲水は1,000mL以上を問題なく行えており、尿量は目標値をクリアしていたため、追加で利尿剤などは使っていません。嘔気・嘔吐については、Grade 1程度であり、輸液は不要でした。特に腎機能の悪化はありません。
10日目に下痢を2回認めましたが、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)の内服で回復したため、15日目は予定通り投与されています。血液検査では、19日目にGrade 3の好中球減少を認めましたが、発熱はありませんでした。

 

シスプラチン+イリノテカン療法時の看護記録に記載すべきこと

来院時の発熱の有無、食事・排便・睡眠の状況などについて確認して記載しましょう。特に、排便状況については重要で、下痢の有無については必ず記載してください。

 

シスプラチン(ランダ)投与後の尿量、尿回数、体重の変化、水分摂取量も必ず記載しましょう。また、血管穿刺部位の発赤や疼痛の有無についても確認の上、記載しておきましょう。

 

患者ケア・看護ケアはココを押さえる

シスプラチン(ランダ)投与に際して、ショートハイドレーション法1)を安全に行うためには、制吐剤の適正な使用と水分バランスの管理が重要になります。飲水量や体重のチェックなど、特に注意して観察するようにしましょう。

 

また、シスプラチン+イリノテカン療法では好中球減少の頻度が高いため、発熱時の対応について患者さんに理解してもらうことは非常に重要です。発熱時には病院に問い合わせをして、予約外でも外来受診した方がよいのか確認するよう、患者さんに指導しましょう。

 

下痢への対応は、「即時型」と「遅発型」で用いる薬が変わってきます(即時型:抗コリン薬のブチルスコポラミン〈ブスコパンなど〉、遅発型:ロペラミド〈ロペミンなど〉)。特に、好中球減少の時期と重なると致命的な事態になりえるため注意が必要です。日常生活の中でもなるべく下痢を起こさないような対策について、患者さんと話し合いましょう。

 

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[監 修]
齋藤信也
岡山大学大学院保健学研究科 教授

 

[編 集]
西森久和
岡山大学病院 血液・腫瘍内科

 

[執 筆]
久保寿夫
岡山大学病院 腫瘍センター

 


*本連載では、登録商標マーク®の記載はすべて省略しています。

 

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