手術創が密閉ドレッシングされていても、消毒をする必要があるの?
『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は「手術創が密閉ドレッシングされている際の消毒」に関するQ&Aです。
榊裕美
大阪市立総合医療センター看護部
編著 西口幸雄
大阪市立十三市民病院病院長
手術創が密閉ドレッシングされていても、消毒をする必要があるの?
消毒の必要はありません。ドレッシング材が剥がれたら、創部を洗浄し、適切なドレッシング材を使用します。
〈目次〉
なぜ消毒をしてはいけない?
消毒薬は、タンパク質を変性させる能力で細菌を死滅させる作用があります。しかし、創傷治癒過程に必要な線維芽細胞や上皮細胞も同様に消毒薬によって死滅するため、結果的に創傷治癒過程に対し、不利な環境をつくり出すことになります。
滲出液が多い場合、ドレッシング材の素材によっては滲出液が吸収しきれず、創周囲皮膚が浸軟し、創傷治癒の妨げとなります。また、創面とドレッシング材の間に死腔が生じると、たまった滲出液により細菌増殖のリスクも伴うため、適度な吸収力のあるドレッシング材が適しています(1)。
手術創にドレッシング材が適しているという根拠は?
消毒薬は、手術や穿刺などの処置を行う場合に、健康な皮膚上の細菌数を減少させる目的で用いるものであり、術後創部の感染予防や感染した創傷の治癒を目的として用いるものではありません。術後24~48時間以内の消毒は、創内に流入した消毒薬の細胞障害性により、顆粒球、単球、線維芽細胞の機能を障害するため治癒過程を阻害します(2)。
術後48時間までに滲出液があるのは、創傷治癒過程の1つです。滲出液がドレッシング材の中にたまっているうちは、ドレッシング材の交換は不要です。現在は、フィルムドレッシング材の水蒸気透過性が高まり、滲出液は徐々に透過され、創周囲が浸軟する心配はありません(図1)。
しかし、滲出液が多い場合、ドレッシング材の素材によっては、滲出液が吸収・透過しきれず創周囲皮膚が浸軟し、創傷治癒の妨げとなります。また、創面とドレッシング材の間に死腔が生じると、たまった滲出液により細菌増殖のリスクを伴うため、適度な吸収力のあるドレッシング材が適しています。
手術後の滲出液が多い理由の1つに、脂肪壊死があります。これは創感染と明確に区別することが困難な病態とされています。術後創感染は、術後4日目ごろより出現するといわれており、術後48時間まででは、創感染の有無は明確ではありません。
術後創の洗浄はどのように行う?
ドレッシング材を剥がす場合、術後48時間までの創部は上皮化されておらず、外界からのバリア機能がないことを考慮する必要があります。創処置をする際は、手指消毒をして、無菌操作を厳守します。
創部は、生理食塩水や水道水で洗浄します(図2)。洗浄の目的は、余分な滲出液や壊死組織を洗い流すことです。洗浄後は、創周囲についた洗浄液を十分に拭き取り、ドレッシング材を使用します。
ドレッシング材は、滲出液を吸収し、創傷治癒に適切な湿潤環境を整えるものを使用し、創部の観察を行っていきます。吸収パッド付きのドレッシング材は、創部を観察できないものが多いので、滲出液や出血の量(範囲)をマーキングし、経過を観察します。現在は、吸収フォームが格子状で創部が観察できるドレッシング材もあります(図3)。
[文献]
- (1)大北喜基:感染のない創部の観察とケア,ドレーン 排液性状観察.特集 エビデンスと図解でさくさく 理解!手術部位感染対策をきわめる,INFECTION CONTROL 2011;20:803-807.
- (2)曽根光子:術後創のための被覆材.特集 創傷管理 の周辺商品まるわかり,INFECTION CONTROL 2011;20:854-857.
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。
[出典] 『術前・術後ケアのこれって正しい?Q&A100』 (編著)西口幸雄/2014年5月刊行/ 株式会社照林社