心臓外科手術(開心術)後ドレナージ | ドレーン・カテーテル・チューブ管理

ドレーンカテーテル・チューブ管理完全ガイド』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。

 

今回は心臓外科手術(開心術)後ドレナージについて説明します。

 

山田靖之
群馬県立心臓血管センター心臓血管外科第二部長
福田宏嗣
獨協医科大学医学部心臓・血管外科学教授
河野由江
獨協医科大学病院医療安全推進センター主任看護師

 

〈目次〉

 

《心臓外科手術(開心術)後ドレナージについて》

 

主な適応
心臓外科手術(開心術)を行うすべての患者
目的
治療的ドレナージ:術後、縦隔・心囊内・胸腔に貯留した血液や滲出液を体外に排出、および開胸で虚脱した肺を再膨張させるため
予防的ドレナージ:術後出血や滲出液による心タンポナーデの予防
情報ドレナージ:術後出血、縫合不全、感染などの観察・早期治療のため
合併症
術後出血、心タンポナーデ、再出血、感染
抜去のめやす
排液量:縦隔・心囊内ドレーンは「<100mL/日」、胸腔ドレーンは「<200mL/日」となれば抜去を考慮する
色・性状:「淡血性」から「漿液性」になることがめやす
観察ポイント
排液量が急激に変化したときは、血圧脈拍・脈圧を測定し、ただちに医師へ報告する
ケアのポイント
ミルキング : 特に術直後は凝血塊が形成されやすく、少なくとも1 〜2時間ごとに実施する
ドレーンの固定 : 最近は早期リハビリテーションが増えており、抜去しにくい固定方法・管理の工夫が必要

心臓外科手術(開心術)後ドレナージ

 

はじめに

心臓外科手術の特徴は、多くの場合で手術中に人工心肺を用いることである。

 

人工心肺を使用する際に、ヘパリンの作用や人工心肺自体が凝固線溶系の活性因子となり、出血しやすい状態になる。そのため、心臓外科手術では、主に術後出血の観察のために必ずドレーンが挿入される。

 

心臓外科手術の術後管理において、ドレーンの管理はとても重要である。

 

ドレーンの適応・目的

治療的ドレナージ:手術により縦隔、心囊内、胸腔に貯留した血液や滲出液を体外に排出するため、および開胸したことで虚脱した肺を再膨張させるために行われる。

 

予防的ドレナージ:術後出血や滲出液による心タンポナーデの予防のために行われる。

 

情報ドレナージ:術後出血、縫合不全、感染など外部から観察できない縦隔内・胸腔内の情報を排液の量や性状から観察し、その変化からしかるべき治療にすぐに対応できるよう行われる。

 

ドレーンの挿入経路・留置部位

主な留置部位は、「縦隔」「心囊内」「胸腔」である。

 

目的と部位により、ドレーンの種類を使い分ける。大量出血の可能性がある部位に留置する場合には、チューブ型ドレーン(図1-①)が使用される。持続的に用いる可能性が高い部位にはマルチスリット型ドレーン(図1-②)が使用される。

 

図1心臓外科手術で用いるドレーンの種類(例)

心臓外科手術で用いるドレーンの種類(例)

 

 

合併症

1ドレナージに伴う合併症

ドレナージに伴う合併症を以下に示す。

 

  1. ① 感染・異物反応
  2. ② ドレーンによる機械的損傷(冠状動脈バイパスグラフト損傷など)
  3. ③ ドレーンの脱落・断裂(ドレーン固定の不具合、不適切なミルキングなど)
  4. ④ ドレーン抜去困難(胸骨閉鎖ワイヤーによるドレーンの巻き込みなど)
  5. ⑤ ドレーン抜去創部の醜状瘢痕形成

 

2術後合併症

① 術後出血

術直後、持続的に>200mL/時間の血性の排液がみられる場合には、「術後出血」を予測し、再開胸・止血術が検討される。

 

② 心タンポナーデ

排液量が急に減少している場合、止血が得られた場合はよいが、ドレーンが閉塞している可能性があるため、十分確認が必要である。

 

心タンポナーデの特徴的徴候としてBeckの三徴(頸静脈怒張低血圧、心音減弱、『心囊ドレナージ』参照)、奇脈などがあるが、臨床症状のみから診断を下すことが困難な場合もある。

 

心囊液貯留の診断には、心臓超音波検査が非常に有用である。

 

③ 再出血

血性の排液がいつまでもつづく、もしくは淡血性の排液が血性に戻るときは縫合不全などによる「再出血」の可能性があり、緊急手術の適応となる。

 

④ 感染

排液が混濁した場合には感染による「縦隔炎」「膿胸」の可能性、またリンパ漏による「乳び胸*1の可能性があり、それぞれの治療が必要である。

 

memo1【乳び胸】

血液や尿に脂肪成分が溶け、乳白色に濁ったもの(=乳び)が胸管から漏出し、胸腔内に貯留した状態。

 

ドレーンの抜去

縦隔・心囊内ドレーンは、排液が減少して<100mL/日、胸腔ドレーンは<200mL/日となれば抜去を考慮する。

 

色、性状としては「淡血性」から「漿液性」になることがめやすとなる。

 

ドレーン抜去時には胸腔内の陰圧によって外気が体内に引き込まれないようにする必要がある。

 

ドレーン挿入時に縫合閉鎖用の糸がかけてある場合は糸を結紮する。そうでない場合にはフィルムドレッシング材を貼付して密閉する。

 

ケアのポイント

1ドレナージ排液の観察

量・色・性状(表1)を観察し、必要があればただちに医師に報告する。そのほか、何か異常があれば、すぐにバイタルチェックを行う。

 

術後3日目までは、術直後とほとんど同じ「血性」か、あるいは少し淡い色調になる。経過が順調であれば、それ以降の色調は「淡血性」から「淡々血性」、さらに淡黄色の「透明・漿液性」に変化していく。

 

表1心臓外科手術後におけるドレーン排液の観察点

心臓外科手術後におけるドレーン排液の観察点

 

2ドレーン管理

① ドレーン挿入部の固定

固定のポイントを図2に示す。

 

図2ドレーン固定のポイント

ドレーン固定のポイント

 

ドレナージを効果的に行うために、ドレーンの固定は非常に重要である。固定が不十分であれば留置部位が変わり、十分なドレナージができなくなる可能性がある(図3)。

 

図3ドレーン固定の不適切例

ドレーン固定の不適切例

 

体動により、ドレーンが引っ張られるリスクを防ぐ管理も重要である。最近は“ファーストトラック”と呼ばれる早期リハビリテーションが行われているため、ドレーンを留置したまま歩行が開始となる傾向にある。そのため、これまで以上にドレーンの長さや接続方法に工夫が必要である。

 

② ミルキング

排液の色が「血性」の期間は、血液凝固による凝血塊によりドレーン閉塞の可能性があるため、ミルキング図4)を行う。

 

特に手術直後には、血液凝固能の回復に伴って凝血塊が形成されやすい状態にあるため、少なくとも1〜2時間ごとにミルキングを行う必要がある。

 

ドレーンから排液バックまでの接続チューブ内に排液が貯留すると、ドレーンに適切な陰圧がかからなくなる。よって、適宜接続チューブ内の排液を排液バック内に進める必要がある。

 

図4ミルキングのポイント

 

 

③ ドレーンの取り扱い

ドレーンにねじれ・屈曲がある場合や、身体の下敷きになっている場合は、閉塞のリスクとなるため解除する。

 

ドレーンが身体より上になっている場合は、逆行性感染のリスクがある。

 

ドレーンが垂れ下がっていると、排液が貯留し適切な陰圧がかからなくなるほか、ドレーンを踏んで事故抜去のリスクとなる。

 

④ 低圧持続吸引器

排液バックがドレーン挿入部よりも高い位置にあると、逆行性感染のリスクがある。

 

そのほか、以下の点を確認する。

 

  • 吸引圧が指示通りに設定されているか
  • 正しい高さ(胸腔ドレナージバックは身体よりも20cm以上低くする)に設置されているか
  • コンセントがつながり充電されているか

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有(C)2015照林社

 

[出典] 『ドレーン・カテーテル・チューブ管理完全ガイド第一版』 (編著)窪田敬一/2015年7月刊行/ 株式会社照林社

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