AST、ALT|「肝臓の病態」を読む検査

 

『エキスパートナース』2015年10月号より転載。
AST、ALTの読み方について解説します。

 

根岸達哉
信州大学医学部附属病院臨床検査部

 

AST:aspartate aminotransferase、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ
ALT:alanine aminotransferase、アラニンアミノトランスフェラーゼ

 

AST、ALTの基準範囲

  • AST:13-30U/L
  • ALT:男性 10-42U/L
           女性 7-23U/L

上昇↑に注意

 

AST、ALTはどんなときに見る?

  • 肝疾患が疑われるとき
  • 肝機能低下の原因となった疾患を推測したいとき

 

 

〈目次〉

 

AST、ALTの読み方

肝臓は「栄養素の合成・貯蔵・異化・供給」「胆汁の生成と排泄」「薬物・毒物の解毒・代謝」「凝固・線溶因子の生成」など、生体において重要な役割を担っています。ASTとALTは、これらの役割を担う肝臓の細胞破壊、つまり肝細胞傷害を評価するために有用なマーカーです。

 

肝細胞傷害はさまざまな肝疾患で起こりますが、疾患によってAST・ALTの上昇度合いとAST/ALTの比率が異なるため、これらの数値を病態とともに理解しておくことにより、単なる肝細胞傷害の有無からもう一歩踏み込んだ肝臓の状態を理解することが可能となります。

 

(手順1)まずALTを見て、肝細胞傷害があるかを推定する

「肝細胞傷害」は、まずALTで見る

ASTとALTはそれぞれアスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼという酵素です。これらの酵素を含む細胞(図1(1)が傷害されると、ASTやALTが血中に放出されます。

 

図1ASTおよびALTの体内分布

ASTおよびALTの体内分布

 

文献1p.238より許可を得て転載)

 

ASTでは、原因は絞れない

ASTは心臓、肝臓、筋肉腎臓膵臓赤血球など体内に広く分布しています。よって、ASTの値のみでは体内のどこの細胞が傷害されているのかを特定することは困難です。

 

LTは、肝臓に特異的

一方、ALTは肝臓に最も多く存在します。ついで腎臓に、肝臓のおよそ1/3程度のALTが存在しますが、それ以外の組織細胞にはほとんど存在しません。しかも、腎臓からALTが逸脱することはほとんどありません。よって、ALTの上昇があれば肝細胞傷害があると考えられます。

 

***

 

つまり、肝細胞傷害を評価する場合は、まずALTの上昇から肝細胞傷害があるかを考え、さらにASTの上昇度合いをあわせて考えることで、肝臓の病態をより詳細に理解できます。

 

(手順2)「ASTの値」と「AST/ALT比」をあわせて見て、原因疾患を絞り込む

1ASTの「値」を見る前に、溶血による高値がないか確認する

ALTを見た後は、「ASTの値」と「ASTとALTの比」から病態を考えます。

 

ただし、ASTは赤血球中に血清中の約40倍存在するため、溶血により値が高くなってしまうことがあります。これらを考えるうえで前提として、採血による溶血がないかを確認することは重要です。

 

2AST・ALTの「比」から、原因が肝疾患かを検討する

ASTとALTの比を見ることも重要です。AST/ALT<2となる場合は肝疾患を疑い、AST/ALT>5となる場合は筋肉・血液疾患を疑います。

 

肝疾患が疑われる場合は、次の通り疾患を絞り込みます。

 

3AST・ALTの「値」と「比」をあわせて見て、疾患を絞り込む

まず、ASTの値が500U/L以上を高度上昇、100-500U/Lを中等度上昇、100U/L以下を軽度上昇とします。これとAST/ALT比から、疾患を分類すると表1のようになります。

 

表1AST/ALT比による分類

AST/ALT比による分類

 

文献23を参考に作成)

 

500U/L以上では「急性肝障害」を疑う

AST・ALTが500U/L以上では急性肝障害(急性肝炎など)を疑います。肝炎ウイルスなどによる急性肝炎では、初期はAST>ALTとなりますが、改善とともにAST<ALTで推移します。

 

しかし、劇症肝炎に至った場合は、臨床的に改善がないにもかかわらず、ASTとALTの急激な低下が認められることがあり、予後不良のサインです。これは肝細胞内の酵素が枯渇しAST・ALTの血中への放出が低下するためです。

 

「アルコール性肝障害」「肝硬変」ではAST>ALTとなる

アルコール性肝炎や脂肪肝(アルコール性)などのアルコール性肝障害では、アルコールがALTの合成を阻害するため、AST>ALTとなる傾向があります。

 

また、肝硬変においてもAST>ALTとなる傾向があります。肝硬変でAST、ALTの上昇があまり認められない理由は、線維化により傷害される細胞数が減少し、AST、ALTの放出が低下するためです。前述の劇症肝炎のように、肝硬変においてもASTとALTの上昇が少ないことがあるため、肝性脳症などの臨床症状の有無や、後述の肝合成能や肝代謝能を確認することが重要です。

 

(手順3)肝合成能、肝代謝能を見て、肝臓全体としての機能が維持されているか確認する

肝臓の病態を評価するうえでは、肝細胞傷害に加え、肝合成能(アルブミン、総コレステロール、コリンエステラーゼ、凝固因子など)と肝代謝能(総ビリルビン、アンモニアなど)をあわせて考えることが重要です。

 

肝臓には予備能があるため、肝細胞傷害があっても肝機能はすぐに低下しません。肝細胞傷害が高度になると、残された肝細胞では十分に機能が果たせなくなり、合成能や代謝能が低下します。

 

逆に現時点において肝細胞傷害が起こっていなくても、これらの機能が既に低下している状態であることもあります。

 

1「肝臓で生合成される物質」が、減少していないかを見る

肝臓は、アルブミン、総コレステロール、コリンエステラーゼ、凝固因子などの物質の生合成を行っているため、これらの項目の低下が認められる場合は肝合成能が低下している可能性があります。凝固因子が低下すると、特にAPTTに先立ってPTが延長します。

 

これらの肝臓で合成される物質は、肝合成能が正常であっても、栄養摂取不足によりこれらの物質を合成できない場合、もしくは炎症によって失われている場合にも低下が認められることがあるため、身体所見も含め、総合的に評価する必要があります。

 

2「肝臓で代謝される物質」が、多く溜まっていないかを見る

肝臓は、ビリルビン、アンモニアなどの血中の有害な物質を代謝、排泄するはたらきがあります。

 

ビリルビンは赤血球のヘモグロビンから生成され、肝臓にて水溶性の直接ビリルビンへと代謝後、胆汁成分となり十二指腸に排泄されます。肝代謝能の低下により、ビリルビンが処理されない場合、血中の総ビリルビンが増加します。ただし、総ビリルビンは肝障害以外に、溶血性疾患や胆道閉塞などにおいても上昇します。

 

また、アンモニアは分解されたアミノ酸から生成され、肝臓にて尿素へと変換後、腎臓から尿として排泄されます。アンモニアが処理されない場合、肝性脳症などの原因となります。

 

よって、総ビリルビンやアンモニアの増加が認められた場合、肝代謝能が低下している可能性があります。

 


[引用・参考文献]

 

  • (1)河合忠:アミノトランスフェラーゼ(トランスアミナーゼ)(ASTとALT).河合忠,屋形稔,伊藤喜久,山田俊幸編:異常値の出るメカニズム第6版.医学書院,東京,2013:237-239.
  • (2)向井早紀,川崎健治:肝臓の病態.本田孝行編:ワンランク上の検査値の読み方・考え方─ルーチン検査から病態変化を見抜く─第2版.総合医学社,東京,2014:76-81.
  • (3)安部井誠人:アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST),アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT).広範囲血液・尿化学検査,免疫学的検査─その数値をどう読むか─第6版.日本臨牀2004;62(12):348-351.

 


本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有©2015照林社

 

P.41~「AST、ALT」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2015年10月号/ 照林社

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