便の成分・排便のメカニズム
『からだの正常・異常ガイドブック』より転載。
[前回]
今回は「消化と吸収」に関するQ&Aです。
山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長
〈目次〉
便の成分はどんなもの?
便には水分が多く含まれています(60~70%)。固形成分は、胃や小腸、大腸などで消化・吸収された残渣、腸内細菌、胆汁の中に含まれていたビリルビンの一部、一定の周期で新陳代謝した胃腸の上皮細胞、体内で不要になった鉄やマグネシウム、カルシウム、リンなどです。
食事をしてから便として排泄されるまでには24~72時間ほどかかります(図1)。
図1大腸の区分と内容物の症状(再掲)
1日の排便量は100~200gですが、この量は食事の摂取量や内容によって変化します。たとえば、食物繊維の多い食事をとると、消化されない残渣が増えて排便量も多くなります。腸管への刺激が強くなるため、排便回数も増える傾向にあります。
なお、便の色はステルコビリン(黄褐色)やウロビリノゲン(黒褐色)によります。また、便のにおいはインドール、スカトールなどによります。
便はどうやって直腸に移動するの?
結腸で水分を吸収されて固形になった便は、すぐには排泄されず、結腸の最後尾に位置するS状結腸でしばらく待機します。排便のための刺激になるのは、食事、便量の増加などです。
とくに食事は大きな刺激になり、横行結腸からS状結腸にかけて胃、結腸反射による強い蠕動運動が生じます。これを総蠕動(ぜんどう)といい、1日に1~2回起きます。この蠕動に便の重さによる刺激が加わり、便は直腸に向けて押し込まれます。
なぜ便意を我慢できるの?
肛門周辺には内肛門括約筋(ないこうもんかつやくきん)と外肛門括約筋(がいこうもんかつやくきん)があります。
内肛門括約筋は平滑筋で不随意筋です。対して外肛門括約筋は、横紋筋で随意筋です。排便中枢を通じて副交感神経が刺激されると、内肛門括約筋は反射的に弛緩しますが、外肛門括約筋は排便動作をとらない限り弛緩しません。
すなわち、意識的に外肛門括約筋を緊張させれば、便意を一時的に我慢できるのです。
排便の機序(図2)
便の移動によって直腸内圧が40~50mmHg以上になると、刺激が直腸壁の骨盤神経から仙髄の排便中枢に伝わり、視床下部を経て大脳皮質に伝達され、便意を意識することになります。こうした刺激は、直腸内の内容物より上方の緊張や運動を高め、それより下方の緊張や運動を低下させます。この絞り出すような運動により、便は次第に肛門に向けて送り出されます。
排便中枢に刺激が達すると副交感神経が刺激され、反射的に直腸筋が収縮して内肛門括約筋が弛緩します。ここでも、内容物を絞り出すような運動が起こります。随意筋から構成される外肛門括約筋は意識的に排便を調節できます。
そのため意識的に排便をしようとして、排便動作をとって努責することにより、腹腔内圧と直腸内圧の上昇、直腸筋の収縮、横隔膜の押し上げなどの運動が協調して起こり、便が肛門から排泄されます。
図2排便のメカニズム
いきむときは大きく息を吸い、口を閉じて息を止めます。努責(どせき)時にかかる直腸内圧は100~200mmHgです。努責を開始すると血圧が上昇し、体循環、脳循環に影響を及ぼします。
大腸内の細菌はどんな働きをしているの?
体内の粘膜には多くの微生物が生息しています。これらの微生物の集合体を細菌叢(さいきんそう、フローラ)といいます。腸内にも細菌叢があり、消化を補助する役割を果たしています。細菌叢はビタミンK、B12、葉酸などのビタミンを合成したり、外から侵入した有害な細菌から身体を防御する役目があります。
新生児期にはビフィズス菌や乳酸菌など、身体にとって有益な細菌が優位ですが、加齢に伴い、有害物質を生成するウェルシュ菌が増えてきます。便の10~30%にはこうした腸内細菌が含まれており、最も多いのは大腸菌です。大腸菌は便中の食事の残渣を分解する働きをもっています。
※編集部注※
当記事は、2016年10月20日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『看護のためのからだの正常・異常ガイドブック』 (監修)山田幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版