深呼吸をすると呼吸が楽なのはなぜ?|呼吸器に関するQ&A(2)

『からだの正常・異常ガイドブック』より転載。

 

[前回]

呼吸とは何だろう?

 

今回は「呼吸」に関するQ&Aの2回目です。

 

山田幸宏
昭和伊南総合病院健診センター長

 

〈目次〉

 

1回の呼吸でどれくらい空気を取り込んでいるの?

安静時に1回の吸息(きゅうそく)で肺に取り込む空気の量を1回換気量といいます。成人の1回換気量は約500mLですが、この時すべてがガス交換に使用されるわけではありません。約150mLは解剖学的死腔(しくう)であり、ガス交換されず、そのまま体内にとどまります。

 

解剖学的死腔って何のこと?

空気の通り道である気道(から気管支までの間)にある空気は、肺胞まで届きませんので、ガス交換をすることができません。そのため、そのまま再び外へと吐き出されることになります。このように、気道内腔にある空気はガス交換に関与しないため、解剖学的死腔といいます。

 

深呼吸をすると呼吸が楽なのはなぜ?

成人の1回換気量は約500mLです(表1)。

 

表1呼吸パターンによる分時換気量と分時肺胞換気量の違い

呼吸パターンによる分時換気量と分時肺胞換気量の違い

 

これに平均的な1分間の呼吸回数の16を掛けると、1分間で約8,000mLの空気を肺に取り込んでいることがわかります。これを分時換気量(ふんじかんきりょう)といいます。また、1回の換気につき約150mLの空気は、解剖学的死腔によってガス交換されません(→解剖学的死腔って何のこと?)。

 

すなわち、(500mLー150mL)×16回=5,600mLの空気が、実質的に肺胞で1分間にガス交換される量で、分時肺胞換気量(ふんじはいほうかんきりょう)といいます。

 

これに対し、深呼吸の時の1回換気量は約1,000mL(通常の1回換気量の2倍)ですから、呼吸をする回数は半分の8回ですみます。すると、ひと呼吸ごとに150mL無駄になっていた、解剖学的死腔によるロスが少なくなり、分時肺胞換気量は6,800mLにも達します。すなわち、大変効率的なガス交換ができるのです。

 

呼吸器疾患によって浅く、速い呼吸しかできなくなると、ガス交換の効率は悪くなります。たとえば1回換気量を250mLとすると、呼吸数を2倍の32回に増やさなければ、通常の換気量である8,000mLを確保することはできません。

 

しかし、呼吸数が倍になると、ひと呼吸ごとに無駄になる解剖学的死腔の容積も増えます。分時肺胞換気量は3,200mLと少なくなるため、効率の悪い呼吸になってしまうのです。こうした状態では、通常40mmHgである動脈血二酸化炭素分圧PaCO2<どうみゃくけつにさんかたんそぶんあつ>)が、60mmHgにまで増えてしまいます。

 

このように、呼吸によって動脈血二酸化炭素分圧の高い状態が続く場合を呼吸性アシドーシスといいます。呼吸性アシドーシスでは末梢血管の拡張、交感神経の刺激があるため、発汗、皮膚の発赤、心拍出量の増加、不安、失見当識、混迷などの症状が出ます。

 

MEMOPaO2とPaCO2

動脈血に溶け込んでいる酸素(O2)、二酸化炭素(CO2)の量を分圧で表したもの。基準値は、PaO2 が 85~100mmHg、PaCO2 が 40mmHg。

 

年齢によって呼吸数が異なるのはなぜ?

成人の呼吸数は1分間に15~20回ですが、新生児では1分間に40~80回と、呼吸数が多くなります。これは、新生児はガス交換を行う肺胞の数が成人の約6分の1しかなく、1回に換気できる量が約25mLと少ないためです。

 

成長するにつれて肺胞の数が増えると、乳児では1分間に30回、5歳児では1分間に25回と、次第に成人に近づいてきます。肺胞の数は、思春期には成人と同じ約3億個に増えます。

 

COLUMN新生児の産声は第1回目の呼吸

胎児は羊水のなかでは外呼吸を行わず、胎盤を通して母体の肺胞でガス交換を行っています。

 

しかし、分娩によって母体でのガス交換が行えなくなると、新生児は、一時的に呼吸運動ができなくなり、仮死状態に陥ります。すると、血液中の二酸化炭素濃度が上昇して延髄の呼吸中枢が刺激され、羊水で満たされていた肺に第1回目の吸気が生じます。これに続く呼気時に声帯を通過する空気によりオギャーという産声(うぶごえ)が起こり、肺での呼吸運動が始まります。

 

一度産声を発した新生児や、それ以後のヒトの肺胞細胞の表面には、薄い油膜のような物(フォスファチジルコリン)が塗られており、肺胞同士が接着しないようになっています。

 

※編集部注※

当記事は、2016年4月15日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。

 

[次回]

肺活量測定が呼吸機能測定に欠かせないのはなぜ?

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『看護のためのからだの正常・異常ガイドブック』 (監修)山田幸宏/2016年2月刊行/ サイオ出版

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