咀嚼と嚥下|消化吸収
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、咀嚼と嚥下について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
〈目次〉
Summary
咀嚼と嚥下とは
咀嚼(そしゃく)〔mastication〕(chewing)は、噛み切りとすり潰しで食塊を小さくするとともに唾液(saliva)と混ぜる運動である。
咀嚼筋(masticatory muscles)は、①側頭筋(temporal muscle)、②咬筋(masseter muscle)、③内側翼突筋(medial pterygoid muscle)および④外側翼突筋(lateral pterygoid muscle)で構成される(図1)。
これらの筋が、延髄網様体(medullary reticular formation)にあるリズム発生機構からの信号に同期して収縮することにより咀嚼運動が起こる。これらの咀嚼筋は横紋筋で随意的収縮が行える。
嚥下(えんげ)〔swallowing〕は、第1~3相に分けられる(図2)。
第1相は口腔相(oral phase)ともよばれ、舌の運動で食塊が口腔内から咽頭(pharynx)に送られる過程で、三叉神経(trigeminal erve)に支配される随意運動(voluntary movement)である。
第2相は咽頭相(pharyngeal phase)ともよばれ、食塊により舌根や咽頭壁が刺激され嚥下中枢(延髄 medulla)を介する嚥下反射(swallowing reflex)が起こる。反射なので不随意運動(involuntary movement)である。喉頭(larynx)全体が引き上げられ喉頭蓋(epiglottis)によって喉頭口が塞がり、気道に食物が入らないようになるので、このとき喉頭嚥下性無呼吸(deglutition apnea)が起こる。
第3相は食道相(esophageal phase)ともよばれ、食道内で起こる蠕動運動である。平滑筋による蠕動運動なので不随意運動である。
嚥下困難について
嚥下困難(嚥下障害)(dysphagia)は、①狭窄性障害と②神経・筋障害に分けられる。
口腔相および咽頭相での①の障害は、腫瘍や炎症などによる舌や口腔内の疼痛、麻痺などが原因にある。②の障害は、脳卒中(cerebral apoplexy)、パーキンソン病(Parkinso disease)、筋萎縮性側索硬化症〔amyotrophic lateral sclerosis〕(ALS)、多発性硬化症〔multiple sclerosis〕(MS)、重症筋無力症〔myasthenia gravis〕(MG)、筋ジストロフィー〔muscular dystrophy〕(MD)などが原因になる。
食道相での①の障害は、食道の腫瘍、炎症などが原因で起こる。②の障害はアカラシア(achalasia)、びまん性(広汎性)食道痙攣(diffuse esophageal spasm)などで起こる。
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咽頭相の咽頭反射(pharyngeal reflex)が障害されると、誤嚥(accidental ingestion)を起こす。誤嚥した異物は、気管支(bronchus)の形状から右側の気管支に入りやすい(「呼吸器系の構造」図1参照)。
嚥下中枢が延髄にあるので球麻痺(bulbar paralysis)のとき嚥下障害が現れる(球(bulbus cerebri)は延髄を意味する)。球麻痺に特徴的な症状として舌萎縮がある。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版