刺激伝導系と心拍動の自動性|循環
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、刺激伝導系と心拍動の自動性について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 1. 心臓は自動的に規則正しく拍動することができる。これは刺激伝導系の働きによる。
- 2. 刺激伝導系は、心房から心室へと一気に興奮を伝える特殊心筋であり、興奮は洞房結節、結節間路、房室結節、ヒス束、左脚・右脚、プルキンエ線維の順に伝えられる。
- 3. 刺激伝導系の細胞は、どの部位でも自発的に興奮を発生する性質をもっている。しかし、通常は洞房結節の興奮発生頻度(70~80回/分)が最も高いため、ここがペースメーカとなる。
〈目次〉
刺激伝導系と心拍動の自動性
刺激伝導系は部位によって、洞房結節、結節間路、房室結節、ヒス束、脚、プルキンエ線維に分けられる(図1)。
洞房結節(洞結節、sinoatrial nodeSA node, sinus node)は、上大静脈と接する右心房側にある。心臓の正常な自動的拍動のリズムはここから始まるため、心臓の歩調取りを行う。そこで洞房結節をペースメーカ細胞ともいう。
房室結節(田原の結節、atrioventricular node、AV node)は、心房中隔の右心房側にある。
洞房結節と房室結節との間には3本の細い特殊心筋の連絡路がある。これを結節間路(internodal pathway)という。
ヒス束(His bundle)は房室結節の下方にあり、さらに左(左脚)と右(右脚)に分かれる。左右脚はさらに分かれて心室筋層に網目状に分布する。この網目状の特殊線維をプルキンエ線維(Purkinje fiber)という。
心臓は自律神経を切断しても、あるいは体外に取り出しても、適当な状態に置けばしばらくの間は一定のリズムで自発的に拍動を続ける。これを心拍動の自動性(automaticity)という。これは刺激伝導系の働きによる。
洞房結節の細胞は自発的に繰り返し興奮を生ずる性質をもっており、ここから興奮が始まる。次いで興奮は結節間路を通り(心房全体に興奮が拡がると心房は収縮する)、房室結節に達する。続いてヒス束→左右脚→プルキンエ線維へと一気に伝わり、心室全体はほぼ同時に収縮する。刺激伝導系は神経ではないが、あたかも神経のように興奮をすばやく心筋に伝える特殊心筋である。
刺激伝導系のなかでは、洞房結節の興奮発生頻度が最も高いため(約70~80回/分)、正常時は洞房結節が興奮を伝えているが(洞リズムあるいは洞調律―サイナスリズムという)、刺激伝導系の細胞は、どの部位でも自動的に興奮を発生する性質をもっている。
洞房結節が何らかの障害で機能しなくなると、房室結節が電気的刺激を発する。ただ、洞房結節よりリズムは遅くなる(約60回/分)。さらに房室結節も機能しなくなると、プルキンエ線維がリズムを刻むようになる。しかし、この場合、リズムはさらに遅くなる(30回/分)。
徐脈性不整脈で心拍数が減少したときに、心臓に電気刺激を与えて心拍出量を維持するデバイスをペースメーカーという。ペースメーカーには、開心術後に一時的に行われる体外式ペースメーカーと、恒久的に行われる埋め込み型ペースメーカーがある。
また、心室頻拍や心室細動で心臓突然死に至る危険性が高い疾患で用いられる植え込み型除細動器(implantablecardiac defibrillator:ICD)というデバイスもある。
図1刺激伝導系と各部位の活動電位
A. 刺激伝導系
興奮の発生は洞房結節から始まり→結節間路→房室結節→ヒス束→左右脚→プルキンエ線維へと一気に伝わる。
B. 刺激伝導系の各部位の活動電位
洞房結節では静止状態で自動的な脱分極が起こり(歩調取り電位あるいは前電位という)、歩調取り電位が閾値に達したときに活動電位が発生する。房室結節にも歩調取り電位があるが、その勾配は洞房結節に比べ緩やかである。洞房結節の歩調取り電位の勾配が最も急峻なため、ここが歩調取り(ペースメーカ)となる。両部位の立ち上がり相はCa2+電流による。それ以外の部位の立ち上がり相はNa+電流による。
(大地陸男:生理学テキスト.第4版、p.250、文光堂、2003より改変)
心臓のコントロール
心臓は、独自に活動可能であるが、脳の支配下にあり、身体の状況に合わせて脳から命令が下される。緊張すると脈拍が増えるのは、脳が緊張感を心臓に伝えているからであり、運動をすると脈拍が増えるのは、組織や器官から血液の増量を要請された脳が、心臓に血液をもっと送り出せと命令を出しているからである。
この心臓外からの命令は、自律神経とホルモンが伝える。ホルモンは主に副腎髄質から放出されるアドレナリンである。交感神経が興奮したり、アドレナリンが分泌されると心拍数が増加し、血圧が上昇する。副交感神経が興奮すると、心拍数は減少し、血圧は下降する。
※編集部注※
当記事は、2016年7月24日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版