心電図|循環

看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。

 

[前回の内容]

刺激伝導系と心拍動の自動性

 

今回は、心電図について解説します。

 

片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授

 

Summary

  • 洞房結節と房室結節には歩調取り電位(前電位)がある。洞房結節の歩調取り電位の傾斜がいちばん急峻である。
  • 心臓の電気的な活動を体表面から記録したものを心電図という。
  • 心電図のP波は心房の興奮伝播、QRSは心室の興奮伝播、T波は心室の再分極を表す。
  • 心臓の拍動数やリズムが正常でない場合を不整脈という。
  • 期外収縮は、洞房結節以外のところで異常興奮が発生することにより生ずる。心室細動を生ずると心臓は血液を拍出できなくなる。房室結節の刺激伝導性が低下したり、遮断されると房室ブロックを生ずる。
  • 血中のカリウム濃度の増加は心筋興奮性を高め、ついには心室細動を引き起こす。

 

〈目次〉

 

心臓の活動電位

心臓では部位により静止電位、活動電位の形に違いがみられる(図1)。

 

図1心筋の活動電位の形

心筋の活動電位の形

 

(大地陸男:生理学テキスト.第4版、p.253、文光堂、2003より改変)

 

静止電位の典型的な値は、洞房結節-60mV、房室結節-70mV、心房筋-80mV、プルキンエ線維-90mV、心室筋-90mVである。また、活動電位の持続時間は、洞房結節と房室結節で約200msec、心房筋100msec、プルキンエ線維400msec、心室筋300msecで、骨格筋や神経細胞に比べて100倍以上長い。

 

洞房結節と房室結節では歩調取り電位前電位ともいう)があり、ここでの活動電位は主にCa2+の流入によって引き起こされる。一方、それ以外の部位は主にNaの流入によって引き起こされる。心電図は心臓の電気的活動を体表面から非侵襲的に調べるための方法である。

 

心筋細胞は、興奮しているか、興奮していない(非興奮状態)かの、どちらかの状態にある。洞房結節から発せられる電気的刺激(興奮)は、心房、房室結節、ヒス束、心筋へと伝わっていく。心筋が刺激を受けると心筋細胞は興奮し、そのとなり合った細胞に興奮が次々と伝わっていく。

 

すべての心筋細胞が興奮状態になると、やがて興奮はおさまっていく(おさまっていく過程にも一定の方向性がある)。この興奮と非興奮の状況を外側からながめたもの、すなわち身体に電極を付けて心筋の興奮・非興奮による電位差をモニタリングしたものが心電図ECG) electrocardiogram である。

 

臨床では、心臓の状況を立体的にとらえるため、12誘導心電図を使う。心臓を地球にたとえると、子午線上に配置したⅠ、Ⅱ、Ⅲ、aVR、aVL、aVFを四肢誘導といい、赤道上に配置したV1V6胸部誘導という。

 

図2心電図(肢誘導)の記録法

心電図(肢誘導)の記録法

 

右手、左手、左足に表面電極を装着する。双極性導出で2点間の電位差を記録する。第Ⅰ誘導法(左手と右手の電位差を記録)、第Ⅱ誘導(左足と右手の電位差を記録)、第Ⅲ誘導(左足と左手の電位差を記録)とそれぞれの誘導法による心電図波形を示す。

 

図3胸部標準誘導の電極の位置

胸部標準誘導の電極の位置

 

このように、縦方向6か所と水平方向6か所の観測点から同時に心臓をながめ、興奮・非興奮の状態を把握していく。

 

心電図の波形

心電図の基本波形の各ピークには名前がついている(図4)。

 

図4刺激伝導系と心電図

刺激伝導系と心電図

 

最初の小さな波をP波という。次に来る大きな波のピークは、最初の下向きをQ波(正常ではQ波がほとんどみられない)、上向きをR波、次の下向きをS波という。そして最後に現れる丸い波をT波という(T波の後にさらに波形が現れることがあるが、これをU波という)。

 

QRS波は心室を興奮が伝播することを表し、T波は心室の興奮の終息(再分極)を表している。S波の終わりからT波の始まりまでをST成分といい、ST成分の長さをST時間という。ST時間は心室のすべての筋細胞が興奮している時間を表している。T波は通常上向きであるが、興奮の終息のしかたによって下向きになったり、1相性になったり2相性になったりする。

 

P波は心房を興奮が伝播することを表しているが、心室に比べて心房は筋肉の量が少ないので、P波は小さく出る。心室のT波に相当する波形も出ているが、非常に小さくかつQRS波と時間的に重なるため、かき消されてしまい見えない。心室は筋肉の量が多いが、刺激伝導系が密に分布しているため、その波形は急峻で持続時間が短い。

 

P波の最初からQRS波の始まりまでの時間をPQ時間という。PQ時間は心房の興奮が心室に伝わるまでの時間を表している。心房の興奮がすばやく伝わらないとPQ時間は長くなり、刺激伝導系の異常が疑われる。

 

心電図は、心拍リズムの異常(不整脈)、心臓の位置の異常、刺激伝導系の異常、心筋の障害(狭心症心筋梗塞など)、心肥大、心房の異常などの心臓疾患の診断に用いられる。

 

不整脈

数、リズムともに正常な脈でないものは、すべて不整脈である。ペースメーカ(歩調取り)が洞房結節でない場合も不整脈である。

 

リズムの異常には2種類ある。1つは、規則正しいリズムのなかに不規則なものが混じり込んだ場合で、期外収縮がその代表である。もう1つは、すべての心拍がばらばらな場合で、この代表が心房細動である。

 

期外収縮は、洞房結節以外のところがリズムをコントロールしようとすることで起こる。心室筋が、洞房結節とは別に独自にリズムをコントロールしようとするものを心室性期外収縮、心房筋が独自にしようとするものを上室性期外収縮という。

 

房室ブロックは、房室結節の刺激伝導性が低下したり遮断されることにより起こる。すると心房と心室はまったく無関係に興奮、収縮することになる。

 

心房筋に1分間に200~300回もの異常興奮が起こる場合を心房粗動といい、さらに発生する興奮波が1分間に400~600回にもなる場合を心房細動という。このように興奮頻度が高くなると房室結節は心房からの興奮を伝導しきれなくなる。

 

心室で細動が生じると、まったく血液を拍出できなくなる。心室細動が始まったら、ただちに除細動(臨床では、強い電気ショック─カウンターショックを与えて、強制的に心臓全体のリズムを揃える電気的除細動がよく用いられる)や心臓マッサージを行わなければならない。

 

心筋細胞の興奮度とカリウム濃度は、ほぼ比例関係にある。血中カリウム濃度が正常より低いと興奮しなくなり、高いと興奮しすぎる(高カリウム血症ではT波が高くなる)。血中カリウム濃度が高くなりすぎると、静止時にKが細胞外に出にくくなるので、細胞膜の興奮性が高まり心室細動をきたしやすい極めて危険な状態になる。また、Ca2+の血中濃度も心電図に影響を及ぼす。心電図は、心臓の状態だけでなく、カリウムやカルシウムなどの電解質の状態も把握できる。

 

NursingEye

カリウムを1回に大量投与したり、急速に静脈内に注入すると、血液中のカリウム濃度が急激に上昇し、心室細動をきたし死に至る(最近、看護師によるこのような医療事故が相次いで起こった)。

 

[次回]

心筋の収縮

 

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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版

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