心筋の収縮|循環
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、心筋の収縮について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
松本 裕
東海大学医学部看護学科講師
Summary
- 1. 心臓は1拍動ごとに収縮と弛緩を繰り返している。これを心周期という。収縮期に血液を動脈に押し出し、拡張期のときに血液は心臓に戻る。
- 2. 1回の収縮で拍出される血液量(1回拍出量)は成人男性で約70mLで、これに心拍数をかけると分時拍出量を求めることができる。分時拍出量は約5Lである。
- 3. 心臓の弁が開閉するとき心音が発生する。I音は心室収縮時に房室弁が閉じる音で、II音は、心室の拡張期に半月弁(大動脈弁、肺動脈弁)が閉じるときに生ずる音である。
- 4. 脈拍は、左心室の収縮によって押し出された血液が動脈壁を押し広げた状態である。
- 5. 脈拍は、動脈が皮下の浅いところを走行している部位で測定される。通常は橈骨動脈で測定される。
〈目次〉
はじめに
心臓は収縮と弛緩を繰り返す。心臓が収縮するときに(収縮期 systolic)血液を動脈中に押し出し、弛緩するときに(拡張期 diastolic)静脈から血液を受け入れる。心周期は、収縮期と拡張期からなる(図1)。
図1心周期
1回拍出量と心拍出量〔 stroke volume and cardiac output 〕
心室の収縮によって血液が動脈に拍出されるので、心室の収縮を心拍動(heart beat)という。1回の心拍動で左心室から拍出される血液量(拍出量)は、安静時で成人男性約70mLである。1回拍出量に心拍数をかけると1分間の拍出量を求めることができる。例えば心拍数が1分間に71回だとすると、1分間の拍出量(分時拍出量)は約5L(70mL×71回)となる。
激しい運動時は、心拍数は増加し1回拍出量も増加するので、分時拍出量は著しく増加する。しかし、一般に心拍数が増すと心臓の収縮期はあまり変わらず、拡張期だけ短くなる。このため、心拍数の増加が著しいときは心臓に戻る血液量が減少するので、1回拍出量は減少する。すなわち心拍数増加がある範囲を超えた場合、心拍出量はむしろ減少する。
拡張期に心室に流入する血液量が増加して心室が血液によって充満し、心室壁が伸されると、その充満度に応じて心室筋の収縮力も増大して拍出量を増す(心室に血液を残さないように対応する)。
このように、心臓の拡張期容積が増大すると収縮力が増大するという法則をスターリングの心臓の法則(Starling law of the heart)という。しかし、拡張終期容積が拡張しすぎたり(心肥大)、心筋の収縮力が低下(心不全など)すると、心拍出量は低下する(図2)。
図2心臓の拡張期容積と1回拍出量の関係(スターリングの心臓の法則)
拡張期容積が増大すると収縮力が増大し、1回拍出量が増加する(上行脚)。しかし拡張期容積が増大しすぎると1回拍出量は低下する(下行脚)。
心拍数と心音〔heart rate and heart tone〕
心臓の拍動数(心拍数)と脈拍数とは必ずしも一致しない。心臓から送られる血液量が少量の場合、心臓の拍動は聞こえても、脈拍が現れないことがある。脈拍が抜け落ちた状態を結滞(けったい)という(結代とも書く)。
安静時の正常な心拍数は、1分間に60~80回である。これは、洞房結節の興奮発生頻度が60~80回/分であることを意味する。心拍数が多すぎても少なすぎても不整脈である。ただし、小児の心拍数は多く、幼児で約100回、乳児では約120回である。
心拍数が100回を超えたものを頻脈といい、60回以下を徐脈という。心拍数が少ないと十分な血液量を駆出できなくなる。逆に心拍数が多すぎると心筋における酸素の需給バランスが崩れ、心臓にとって負担となる。また、血液の流入量が追いつかず拍出量が減少することもある。
心臓はほぼ一定のリズムで規則正しく拍動している。これは洞房結節が規則正しく活動しているためであるが、健常者でも心拍動のリズムが不規則になることがある。例えば深呼吸するとき、吸息時には心拍数が増加し、呼息時には心拍数が減少する。このような呼吸による不整脈を呼吸性不整脈とよぶ。また、心拍数は運動、興奮、発熱時に増加し、睡眠中は減少する。
心臓の弁が閉じるとき、弁の辺縁(弁尖)同士がぶつかり合って心音が生じる。心音にはI音とII音がある(III音、IV音が聞こえることもある)。心臓1回の拍動につき2つの音が聞こえる。
I音は収縮期に僧帽弁と三尖弁が閉じる音であり、II音は拡張期に大動脈弁と肺動脈弁が閉じる音である。病的状態では、血流の障害や逆流が起こって、正常では聞こえないはずの音が聞こえる。これを心雑音という。III音はII音の直後に生じる過剰心音であり、IV音はI音の直前に生じる過剰心音である。
若年者では健康であってもIII音が聴取されることがある。しかし、III音が40歳以上の人で聴取された場合は病気が隠れている可能性がある。IV音が聴取された場合は病的な状態であることを示唆する。III音とIV音はどちらも非常に音が小さくて聞き逃しやすいため、過剰心音がある可能性を念頭において聴取することが大切である。
脈拍〔 pulse 〕
脈拍は左心室の収縮によって駆出された血液が、動脈壁を押し広げた状態である。脈拍には、心臓、血管の状態が反映されるばかりでなく、ホルモン、神経、精神状態なども反映される。
脈拍は動脈であればどこでも観察可能であるが、体外から触診する際は、動脈が皮下の浅いところを走行している部位で行われる。臨床では、手首(主に橈骨動脈、場合によっては尺骨動脈)、頸部(総頸動脈)、鼡径部(大腿動脈)、足背部(足背動脈)で観察することが多い(そのほかに側頭部、上腕、膝窩部、足首などでも観察することがある、図3)。
図3脈拍の触れる部分
脈拍に左右差や上下差はない。ある程度太い動脈であれば、全身ほとんど同じように観察できる。逆に、左右や上下で差がある場合は、血管系の異常が疑われる。したがって、身体のいろいろな部位で脈拍を観察することは重要である。
心臓からの血液の駆出に連動して、動脈壁の圧力は上下する。この圧力の上下を脈拍として触知するわけであるが、圧力がより高い状態を大脈といい、圧力がより低い状態を小脈という。つまり、脈圧(収縮期血圧-拡張期血圧)の増大により大きく触れる脈が大脈で、脈圧の減少により小さく触れる脈が小脈である。脈拍の観察では、数、リズム、遅速、圧の高低を観察する。
※編集部注※
当記事は、2016年7月31日に公開した記事を、第2版の内容に合わせ、更新したものです。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版