心臓の構造と特性|循環
看護師のための生理学の解説書『図解ワンポイント生理学』より。
[前回の内容]
今回は、心臓の構造と特性について解説します。
片野由美
山形大学医学部名誉教授
内田勝雄
山形県立保健医療大学名誉教授
Summary
〈目次〉
心臓の構造
心臓は、胸部中央からやや左寄りにある臓器で、血液を全身に送り出すポンプ機能を担っている。心臓は、左心系(左心房と左心室)と右心系(右心房と右心室)という2つのポンプが合体した構造をしている。
左心系は全身に血液を供給する体循環を担っており、右心系は肺に血液を供給する肺循環を担っている。左心系のほうが、より広い領域をカバーしなければならず、さらに高い動脈圧に打ち勝って血液を送り出さなければならないため、右心系よりも大きい。
また、心房に比べ心室の壁のほうが厚い。すなわち圧の高いところほど、心壁は厚くできている。
心臓には4つの部屋(左心房、左心室、右心房、右心室)があるが、左心系と右心系は中隔で隔てられており、心房から心室の間と左右の各出口(大動脈口と肺動脈口)には弁がついていて、血液が逆流するのを防いでいる。
心臓の弁
左心房と左心室の間には二尖弁(僧帽弁ともいう)、右心房と右心室の間には三尖弁があり、それぞれは腱索によって乳頭筋につなぎ止められている。動脈口の弁は大動脈弁、肺動脈口の弁は肺動脈弁といわれ三枚の弁からなる。
弁に異常があって弁が閉じにくくなると(閉鎖不全)血液の一部が逆流を起こすし、弁口が狭くなると(狭窄)血液が流れにくくなる。このような弁の障害を心臓弁膜症という。
心筋の特性
心筋は、骨格筋と同様に横紋筋であるが、骨格筋とは異なった特性をもっている。骨格筋では個々の筋線維はそれぞれ、全か無かの法則に従うが、筋束*はこの法則に従わない。心筋では、筋束でもこの法則に従う。
骨格筋の絶対不応期は1msecくらいであるが、心筋は約150msecと長い。このため、引き続いて強い刺激が与えられてもすぐに収縮することがないため(強縮参照)、血液を規則正しく拍出することができる。このように、心筋では強縮が起こらないように合理的にできている。
心筋は、骨格筋と異なり筋細胞間の連絡が非常によいので(ギャップ結合しているため)、心房は心房で、心室は心室でそれぞれ全体的に収縮することができる。しかし、心房の筋細胞と心室の筋細胞同士が直接連絡することはない。両者の連絡は特殊心筋によって行われる。
特殊心筋は、ほかの大部分の心筋(固有心筋)と異なり、収縮する働きはほんとんどなく、心臓に収縮を起こさせる興奮(電気的刺激)を自動的に発生し、心臓全体にその興奮を伝える働きをする。特殊心筋は、心臓内の決まった部位に一定の配列をしており、この全体を刺激伝導系 stimulus conducting system という。
筋束
筋周膜で包まれた数本から数十本の筋線維の束。
全か無かの法則 (all-or-none law)とは
神経や筋に閾値以上の電気的刺激を与えるとき、刺激が大きければ活動電位も大きく、また筋の収縮も大きい。しかし、神経や筋の単一の線維では活動電位や収縮の大きさは、閾値以上の強さであれば刺激の強さに関係なく一定である。
このように、反応の強さによらず一定になるという性質を全か無かの法則という。
[次回]
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 図解ワンポイント 生理学』 (著者)片野由美、内田勝雄/2015年5月刊行/ サイオ出版