心肺停止(CPA)の心電図波形
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看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。
[前回の内容]
今回は、心肺停止(CPA)の心電図波形について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
- 心肺停止(CPA)の心電図波形
- -心室細動(VF:ventricular fibrillation)
- -無脈性心室頻拍(pulseless VT:pulseless ventriculartachycardia)
- -心静止(asystole)
- -無脈性電気活動(PEA:pulseless electrical activity)
心肺停止(CPA)の心電図波形
まず、いちばん大切なことを心に刻みましょう。
「モニターを見るな、人を見よ」
たとえ心電図モニターがどんな波形を示そうと、患者さんの息・咳・体動がなくて、脈拍が触れなければ、それは心肺停止ですから、「心肺停止の患者さんを発見したときの対応」の英子の方法で心肺蘇生法を行います。
だから、まず患者さんの状態を把握することが必要です。そのうえで、心電図の解析が必要な理由は、唯一、除細動が必要かどうかを判定するためです。
その点をよーく、キモに銘じておきましょう。
4種類の波形を2種類ずつに分けます。一方は除細動が必要な波形、もう一方は除細動が必要ない波形です。
除細動が必要なのは、心室細動(VF)と無脈性心室頻拍(pulseless VT)。
除細動が不要(逆に有害ともいわれています)なのは、無脈性電気活動(PEA:pulseless electrical activity)と心静止(asystole)です。
心室細動(VF:ventricular fibrillation)
図1をご覧ください。
なんだか、勉強したP波もQRS波もなくて、基線が波打っているだけですね。
これが心室細動です。特徴は不規則な基線のユレが見られるだけという点です。
心室はピクピクとケイレンしているだけで、有効な血液の拍出は行われていません。当然のことながら血圧もなく、脈が触れるわけもありませんよね。
無脈性心室頻拍(pulseless VT:pulseless ventricular tachycardia)
図2は、いかがでしょうか?
幅の広いQRS波が、短い間隔で連続していますね。とりあえずは幅広=心室性、短い間隔で連続=頻拍ですから、心室頻拍と考えましょう。
“無脈性”かどうかは、とにかく患者さんのところに行ってみないとわかりません。
心室頻拍でも、血圧も下がらずほとんど無症状の人もいますから……。
コラム歯磨き不整脈
番外編ですが、病棟のモニターでは「歯磨き不整脈」が存在します(図3)。
これは、その歯磨き不整脈ですが、まるで心室細動のようです。看護師があわてて駆けつけると、「なんかあったの?」という顔で黙々と歯磨きをしている患者さんがいました。な~んだ、チャンチャン。
体動などに伴うノイズ(アーチファクトともいう)の混入です。
人騒がせですが、な~んだチャンチャンでも、この“あわてて駆けつける”のが最重要です。
モニター心電図に異変があったら、とにかくベッドサイドへダッシュです。なんともなくてチャンチャンならば幸いです。
もし眼をむいて卒倒していたら……。
まずは意識の確認。
意識がなければ、応援と救急カートと除細動器を頼みます。
この「応援・救急カート・除細動器」は“急変時の三種の神器”ですからセットで頼んでくださいね。
三種の神器が到着するまでは、できる範囲で一次ABCDサーベイを行いましょう。
口対口の人工呼吸は、マスクなどを携帯していなければ感染の問題などもあるので、頭部後屈・あご先挙上による気道確保だけでもかまいません。
三種の神器が到着して、心肺蘇生を行いつつ、心電図を装着して前述の2つのいずれかの波形、すなわち、心室細動か心室頻拍(この場合、心肺停止なので、当然無脈性)なら、速やかな除細動が必要です。
心静止(asystole)
図4はご覧のとおり、ただただ1本の横線です。
心臓がなんの活動もしていない、すなわち“静止”している状態です。横1本線なので“フラットライン”、あるいは英語の発音が“エイシストール”なので通称“エイシス”とよびます。なんとなくプロっぽいでしょう。心室静止ともいいます。
解説も何もありませんが、ここにも落とし穴があります。
1つは電極はずれ。これはベッドサイド・ダッシュで簡単に判明しますね。
もう1つは、波高の低い心室細動の場合です。モニターの感度を下げていると、心室細動が心静止と誤認されることがあります。誤認してまずい理由は、先述のとおり、心室細動なら除細動が必要、心静止なら不要だからです。
これを防ぐために“フラットライン・プロトコール”を行います。カッチョいいカタカナですが、要は本当に心静止かどうかを確認する手順です。
ベッドサイドで心肺停止を確認して、モニターを付けたら心静止だった。ここでフラットライン・プロトコールだ。
フラットライン・プロトコール
- 1リードを確認 →電極ははがれていないか。リードが心電計につながっているか。
- 2感度を上げる →感度の下がりすぎで心室細動を見逃していないか。
- 3誘導を替える →誘導を切り替えてみて、心室細動でないことを確認する。
すべて、“ホントに心静止か。VFは隠れとらんか”という疑惑の確認をしているわけです。
リード・カンド・ユウドーを確認しますから「3つのドを確認!」などとウマイことをいう人もいます。
これで本当に心静止と確認できれば、除細動せずに、次の二次ABCDサーベイに移るわけです。
無脈性電気活動(PEA:pulseless electrical activity)
図5の心電図の説明は難しい。なぜなら、「この心電図がPEAです!」という波形はないのです。
この図のように、心電図としては全く正常な波形でも、患者さんが心肺停止状態ならば、それは、無脈性電気活動(PEA)です。
急変患者があったときに、心肺停止を確認してモニターを付けた。そこで出た波形が、心室細動でも心室頻拍でもない。でも、何か出ているから心静止でもない。
そうです、心肺停止患者でVF・VT以外の何かの波形が出ていれば、たとえ正常波形でもすべてPEAです。
どんな波形であろうとも、除細動の必要がなければ、人工呼吸と心臓マッサージを続けて、二次ABCDサーベイに移るのです。
日頃の習性で、とくに医師はモニター波形が正常だと、心臓が正常に活動しているように錯覚し、一息ついてしまいます。
でも目の前の患者さんを見ましょう。呼吸していません、脈も触れません、心肺停止です。
心肺蘇生は続けなければなりませんよ。
ここです、最初にキモに銘じてもらったのは。
もう一度ズバリ言うわよ……「モニターを見るな、人を見よ」
心肺停止の判断はモニター心電図ではなく、患者さんの状態なのです。
最後に心肺蘇生について付け加えておきます。
本人、ご家族、医療チームの間で、蘇生をしないことが決定され、文書などで示されている場合は、DNAR(do not attemptresuscitaion、蘇生を行うな)ですから、事前にわかっていれば、心肺蘇生は行いません。
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版