不整脈の判読法

看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。

 

[前回の内容]

心肺停止(CPA)の心電図波形

 

今回は、不整脈の判読法について解説します。

 

田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長

 

〈目次〉

 

はじめに

正常心電図―心拍数を測ろう―」で心電図の各波や間隔の意味と正常値も理解してもらえたと思います。

 

ここでは、目からウロコの落ちる話をしましょう。

 

不整脈は、心房の活動と心室の活動、そしてこの両者の間柄の3点がわかれば、すべて判読できます。ST部位がどうのとか、QT間隔がどうしたとか難しいことは一切言いませんよ。

 

心房心室その関係。この3点のみです。

 

不整脈の判読法

心電図の復習をしましょう。

 

正常では、洞結節の電気の発生によって心房に信号が波及し心房の収縮が起こります。これは心電図上P波として表れます。

 

心房の興奮はすべて房室結節に集まって、速度をペースダウンすることでタメをつくり、ヒス束から心室内に伝導します。この部分は伝導のみなので心電図上は電位になりません。

 

心室が脱分極(興奮)・再分極(興奮からの回復)することで、心電図上QRS波・T波として描出されるわけです。

 

つまり、心電図には心房由来の波と心室由来の波しか出現しないのです。さらに正常では上流に心房興奮があり、房室伝導を経て心室興奮がありますので、結局のところ心房興奮、両者のつながり、心室興奮、この3者を見きわめれば不整脈はすべて判読できるのです。

 

P波もQRS波も右上から左下に興奮が伝導しますので、両者がはっきりする誘導はⅡ誘導です。モニター心電図が、装着するとⅡ誘導が表示されるように設定されているのは、P波とQRS波がよく見えるからです。

 

さて、そろそろ極意を伝授しましょう。

 

1、全体の流れを見る

正常心電図は整脈です。つまり整っている、規則正しいのが基本です。第一印象はとても大切ですよね。間隔が狂っていたり、形の違うものがあったりすればそれだけで整脈ではないので、不整脈です。

 

図1の心電図を見てみましょう。全体を見わたすと心電図の知識のない人が見てもリズム・形が整っているのは感覚的にわかりますね。

 

図1正常心電図(P波をチェック)

正常心電図( P波をチェック)

 

2、P波を探す

P波は心房の興奮ですが、小さいので無視されがちです。しかし、心臓の興奮の流れからいうと、まず心房の興奮が先行しますからここは重要です。

 

はっきりしない場合は、モニター心電図なら誘導を変える、感度を上げて波形を大きくするなど工夫をしましょう。それでも見つからなければ標準12誘導心電図を記録して、各誘導を眼を皿のようにして探してください。

 

ここまでやって見つからなければ、P波は本当にないか、QRS波、T波のなかに隠れて見えないかどちらかです。

 

P波を見つけたら、初心者のうちは、「○で囲む」「上にチェックマークを入れる」「Pと書く」など、P波の存在を確認しておきましょう。ただし、心電図は公式書類ですから、後で消せるように鉛筆を使うか、コピーに書き込むかにしましょうね。

 

ここで、キモを教えましょう。P波を探すポイントは、

 

洞性のP波か。

 

それ以外か。

 

この2つにざっくり分けます。なぜなら洞性P波が正しく、それ以外は異常だからです。

 

洞結節は右心房の右上にありますので、洞結節からの信号は右心房の右上から始まり、左下方向に伝導していきます。

 

モニター心電図は通常Ⅱ誘導ですから、モニター上では同じ形の陽性(上向き)P波が、規則正しい間隔で見られていれば洞性P波と考えてよいでしょう。

 

P波がない場合、見つからない場合はすでに異常ですが、見つけたはずのP波でもモニター心電図のⅡ誘導の陰性P波(下向きのP波)は、洞性P波ではないと考えましょう。

 

面倒くさいなあ、と思っているあなた、よいことを教えましょう。

 

モニター心電図にかぎらず、標準12誘導心電図の各誘導でも洞性P波であれば、ほとんどの誘導でP波は上向きつまり陽性です。例外はaVR誘導だけで、電極の付け間違えか、心臓に先天性の異常がなければ、正常の場合P波は上向きと考えてください。

 

図1の心電図をチェックしてみてください。規則正しい間隔で同じ形の洞性P波が見られますね。

 

3、PP間隔をチェックする

今度は横軸つまり時間をチェックしましょう。

 

洞性P波であれば、その出現間隔は一定ですね。このように一定時間に繰り返す現象を周期性があるといい、その一定の時間を周期といいます。

 

洞性P波から次の洞性P波までの時間は、洞結節が電気信号を発生する時間です。

 

洞結節が規則正しく電気信号を発生する間隔を洞周期といいますので、洞性P波の出現する間隔つまりPP間隔は、洞周期と一致します。

 

実際にPP間隔を計測してみましょう。図2の心電図は規則正しく22コマですね。

 

図2PP間隔

PP間隔

 

1コマは0.04秒ですから、22コマでは0.04×22=0.88秒です。計算が面倒なのでおおざっぱに20コマということにしましょう。20コマなら0.04×20=0.8で計算しやすいですから。

 

つまり、心房は洞結節からの信号で0.8秒に1回規則正しく興奮しているということがわかります。この0.8秒は洞結節の信号発生周期すなわち洞周期になるわけです。

 

心拍数とは1分間あたりの心室の収縮(興奮)回数です。心房の1分間あたりの収縮(興奮)回数は、心室と区別するために心房心拍数といいます。心房の興奮周期から心房心拍数も計算できます。1500÷PP間隔(コマ)、60÷PP間隔(秒)ですね。

 

この場合の心房心拍数は、1500÷20=75回/分あるいは、同じことですが60÷0.8=75回/分で、1分間あたり規則正しく75回心房が興奮しているというわけです。

 

この心房興奮は、洞結節からの周期的な信号によってもたらされていますので、元をたどれば洞結節が1分間に75回の信号を周期的に発生しているということになります。

 

ここで整理しておきましょう。

 

洞性のP波と判定できれば、

 

PP間隔=心房興奮周期=洞周期

 

心房心拍数:1分間の心房興奮回数=1分間の洞結節興奮発生回数

 

ということです。

 

洞性P波以外のP波は、まとめて異所性P波といいます。洞結節以外の場所から発生する信号で心房が興奮するので異所性といいます。異所性のP波でも規則正しく出現していれば、心房心拍数は計算できますよね(図3)。

 

図3洞性P波と異所性P波

洞性P波と異所性P波

 

たとえば、異所性P波のPP間隔が15コマであれば、その心房興奮周期は0.04×15=0.6秒ですし、心拍数に換算すれば、1500÷15(または60÷0.6)=100回/分で、1分間に100回心房が興奮しているのがわかります。

 

4、PQ間隔をチェックする

正常の心臓の興奮は、洞結節から始まり心房から房室伝導を経て心室へと伝導します。川が源流から下流へ流れるのと同じです。

 

心房を興奮させた信号は、房室接合部で潜行します。この部分は心電図ではPQ間隔に反映しています。

 

ここではまず、P波の後にQRS波があるかどうか確認します。1、全体の流れを見るで最初に全体のリズムを確認していれば、まず見落としはないと思いますがP波の後にQRS波がなければ、心房の興奮が心室に伝わっていないということになり、これは異常ですね。

 

次にPQ間隔をチェックしましょう。

 

P波の始まりからQRS波の始まりまでの間隔で、心房興奮の開始から心室興奮の開始までの時間を意味しています。さらに各心拍で、PQ間隔が一定かどうかを確認し、その間隔を計測しましょう。

 

下限は0.12秒(=3コマ)、上限は0.20秒(=5コマ)です。

 

0.12秒未満はPQ短縮、0.21秒以上はPQ延長といいます。

 

短縮は房室接合部の伝導速度が速すぎるか、ヒス束以外に伝導路がある場合に見られます。延長は房室接合部の伝導速度が遅いために房室伝導に時間がかかっていることを示しています。

 

PQ間隔が一定であれば、心室の興奮間隔つまりRR間隔はPP間隔と一致します。混乱した人は、PP間隔をディバイダーで固定して、PQ間隔分だけ右に移動してみましょう。RR間隔と一致しましたね(図4)。

 

図4RR間隔とPQ間隔

RR間隔とPQ間隔

 

つまり、PQ間隔が一定ならば、心房の興奮周期と心室の興奮周期は同じですから、心房心拍数が心室の心拍数、いわゆる心拍数になるわけですね。

 

図4の心電図でPQ間隔はどうでしょうか。計測してみましょう。各心拍で一定で4コマくらいですね。秒に換算すると0.04×4=0.16秒で、正常ですね。

 

5、QRS波をチェックする

房室結節でゆっくり伝導した興奮はヒス束から心室に出て、脚、プルキンエ線維を高速で伝導して心室を興奮させてQRS波となります。正常であれば、各心拍で同じ順序、同じ時間で心室が興奮するので同じ形のQRS波となります。

 

1、全体の流れを見るで違う形のQRS波があればすぐチェックできますね。

 

QRS波の幅はどうでしょう。ヒス束~脚~プルキンエ線維を高速で伝導すれば、心室の興奮(脱分極)は短時間で終了します。心電図上で“短時間”は横軸つまり幅に表れます。

 

心室興奮が短時間で終了すれば、QRS波の幅は狭くなり、逆に時間がかかればQRS波の幅が広くなります。

 

上限は0.12秒(3コマ)と覚えましょう。3コマ以上はなんらかの原因で心室の興奮に時間がかかっていると考えます。図5の心電図ではどうでしょうか。QRS波の始まりから終了ですから、2コマで、0.04×2=0.08秒で正常ですね。

 

図5QRS幅

QRS幅

 

6、P波、PQ間隔がはっきりしないときはRR間隔をチェックする

P波があって、PQ間隔が一定ならば、PP=RRですからチェックの必要はありません。P波がない、あるいははっきりしないときはRR間隔をチェックしましょう。心拍数もわかります。またPQ間隔が不定なときも、心室の興奮リズムを見るためRR間隔を確認します。

 

不整脈でない心電図

モニター心電図や標準12誘導心電図を見たり、見せられたりすると不安になってイヤな汗をかきませんか。

 

その理由は、正常なのか異常なのかよくわからないからですよね。「これは不整脈ではない」と断定できればスッキリできますよね。

 

ここからは不整脈ではないと断言できる4つの条件を教えます。

 

4つをチェックして、すべての項目が条件に合えば、不整脈でない心電図です。ただし、あくまでも不整脈かどうかの判定ですから、その他の心疾患は標準12誘導心電図でじっくり診断しましょう。

 

判定する心電図は、1つの誘導だけで十分です。モニター心電図の記録用紙でもいいですし、標準12誘導心電図のなかの1つの誘導でもOKです。ただし、心房波と心室波がわかる誘導でないと判定できません。

 

では、いってみましょう。

 

まず、全体を見ます。心臓の実際のポンプ機能は心室が担当しています。心室の1分間あたりの拍出回数を心拍数といいますね。心拍数は多すぎても少なすぎても循環がうまくいかず、ときには危機的な状態になってしまいます。

 

そうですね、まず心拍数をざっと見ます。極端な徐脈や頻脈はそれだけで危険なのですぐに患者さんの様子を確認しましょう。

 

極端というのはどのくらいか、基礎疾患にもよりますが、40回/分未満の徐脈、200回/分以上の頻脈は、健康な人でも循環状態が悪化しますので、異常事態です。

 

もちろん、全身状態の悪い場合や、心機能が低下している場合は45回/分の徐脈でも、180回/分の頻脈でも、循環不全が起こる可能性はあります。

 

いずれにしても、心電図を見たときに極端にRR間隔が延長している場合つまり著しい徐脈の場合と、反対に極端にRR間隔が短縮している場合つまり著しい頻脈の場合は、原因がなんであれ、またQRS波の幅が広くても狭くても、循環が悪化しているので緊急と考えて対処しましょう。

 

著しい徐脈、頻脈でなければ腰を落ち着けて解読です。P波、PP間隔、PQ間隔、QRS波の順でみましょう(図6)。

 

図6不整脈の判定:4つの条件

不整脈の判定:4つの条件

 

  • P波:モニター心電図は装着するとⅡ誘導が表示されます。ですから洞性P波であれば、上向きつまり陽性P波が正常です。
  • PP間隔:洞結節からの信号で、心房が興奮していれば、PP間隔は規則正しく一定間隔で出現します。さらに、心房の心拍数は50回/分未満が徐脈、100回/分以上は頻脈ですから、50~99回/分の心拍数が正常です。

50回/分は、PP間隔でいうと1.2秒、コマ数なら30コマです。つまり30コマより長いPP間隔は心房の徐脈ということになります。また、100回/分はPP間隔では0.6秒であり、15コマになります。15コマよりもPP間隔が短ければ心房が頻脈ということですね。PP間隔は一定で、15~30コマが正常です。

 

ここで、1500÷コマ数で心房心拍数も計算しておきましょう。

 

  • PQ間隔:この部分は房室伝導を反映します。

まず、P波の後にQRS波があるのが原則です。P波だけがあって、QRS波がなければ、心房の興奮が心室に伝導しなかったということになります。QRS波があれば、PQ間隔を計測します。

 

興奮が心房を経て心室に到着するのに時間がかかればPQ間隔は延長しますし、早く到着すればPQ間隔は短縮します。

 

この差は房室結節内での伝導時間の差です。心房の興奮は房室結節に集まってゆっくり伝導してヒス束から心室に伝わります。ヒス束内の伝導速度はあまり変化しませんが、房室結節内は自律神経や薬剤によって伝導速度や不応期が容易に変わるため、PQ間隔が変動する原因は房室結節にあります。

 

PQ間隔は一定で、3~5コマ(0.12~0.20秒)が正常です。3コマ以下ではPQ短縮、5コマを超えるとPQ延長となります。

 

  • QRS波:ヒス束~脚~プルキンエ線維を伝導して、素早く心室の興奮が完了すれば狭くてシャープなQRS波になります。しかし、なんらかの原因でヒス束・脚・プルキンエ線維という通常の伝導路を通過しないか、通過障害があれば幅が広いQRS波になります。

その基準は3コマ以内(=0.12秒以内)と覚えましょう。たとえば、後で勉強しますが脚ブロックという伝導路の障害があります。これは左脚あるいは右脚の伝導障害があり、片方の脚が通れないために、興奮の伝導に時間がかかってQRS波の幅が広くなります。

 

この場合、洞結節からの興奮は心房、房室接合部から、心室を興奮させますので、厳密な意味では“不整”ではありませんが、伝導が障害されているという意味では正常とはいえません。

 

QRS波をチェックする場合に大切なのは、まず同じ形のQRS波が、P波に引き続いて出現しているか、次にその幅はどうかという2点です。

 

PP間隔が規則正しく、PQ間隔が一定ならばQRS波の出現間隔は、PP間隔と一致します。当然、心房心拍数=心拍数ということも理解できると思います。QRS波は形が同じで、幅は3コマ以内が正常です。

 

[次回]

洞性P波から読み解く不整脈

 

 


本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版

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