洞不整脈|洞性P波から読み解く不整脈(1)
看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。
[前回の内容]
今回は、洞不整脈について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
はじめに~洞リズムの心電図について~
不整脈の復習をしましょう。①心房リズム、②房室伝導、③心室リズム、以上の3点が判明すればすべての不整脈の解析はできます。番号①~③には意味があります。正常では心房の興奮が心室に伝導して、心室が興奮するので、この順序で解析していきます。
ここからは、基本的に洞リズムの心電図について勉強していきます。
洞結節は右心房の右上に位置していますから、洞結節から規則正しく発信された信号は、心房を右上から左下に伝導します。したがって、心房興奮をベクトルにしてみると右上から左下に向きますね。Ⅱ誘導は確実に陽性P波です。
ここで重要なことを理解しておいてください。
洞結節は、興奮や緊張、運動など心拍出量を増やす必要が生じると、信号の発生頻度を速くして、つまり洞周期を短くして心拍数を増加させます。
これは、交感神経やアドレナリンなどのホルモンが洞結節に作用して、洞結節の自発的な脱分極周期を短くすることで実現します。もちろん、交感神経やアドレナリンは心筋の収縮力も増強して、心拍数の上昇とともに心拍出量を増加させます。
しかし、心拍数の上昇には限界があり、どんなに激しい運動をしても、せいぜい200回/分が限界です。皆さんがいくら限界まで運動しても心拍数200回/分を超えることがないというのは、経験則として理解してもらえると思います。
逆に考えれば、いくら陽性P波が規則正しい周期で見られていても、心房心拍数200回/分以上は洞リズムではないということです。
200回/分は、PP間隔でいえば7.5コマ(0.04×7.5=0.3秒)ですから、7.5コマより短いPP間隔は洞性P波ではないと考えてください。
ただし、何事にも例外があり、新生児は200回/分を超えますし、成人でも甲状腺機能亢進症が重症な場合は、まれに200回/分を超える洞リズムもありえます。
さて、ここからは具体的な不整脈について紹介します。
洞不整脈
図1の心電図をざっと見てみますと、なんとなく規則正しくないようです。では計測してみましょう。
P波は上向きで同じ形のようですね。同じ形ということは心房の興奮が同じ方向に伝導して繰り返されているということを意味しています。
PP間隔はどうでしょう。1・2拍目のPP間隔に比べて3・4拍目以降のPP間隔は短くなっていますね。6・7拍目のPP間隔はまた長くなっています。
PP間隔は、一定ではありませんが15~30コマです。PQ間隔は4コマ程度で一定ですし、QRS波は同じ形で幅は2コマ程度で正常です。
この心電図は、PP間隔が変動する以外は正常の条件に合っています。
これは洞性P波の出現する間隔が変動するために起こる不整脈で、洞不整脈(sinus arrhythmia:サイナス アリスミア)といいます。洞結節の信号の発生周期が変動するために起こる不整脈で、洞結節への自律神経の影響が原因です。
よく見られるのは、呼吸による洞不整脈ですが、自分の身体で実感してみましょう。ではまず自分の手首の脈を触れてみてください。規則正しく脈打っていますね。そのまま大きく息を吸ってそのまま息んでみてください。どうですか、脈が遅くなったでしょう。
胸腔内圧が高まるとその刺激で迷走神経(副交感神経)の活動が亢進して、洞結節の信号発生周期が長くなって、PP間隔が延長する、つまり脈が遅くなるのです。
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「日本列島新聞配達物語」に例えると、洞結節宗谷岬の新聞発送が毎朝4時ちょうどのはずが、体調や都合で10分早まったり、10分遅れたりするのが洞不整脈です。それ以外は、心房北海道、房室接合部青函トンネル、心室本州いずれも命令に従って正常業務を行っています。
洞不整脈の原因
- 生理的:この不整脈は、小児や若年者にとくに多く見られます。不整脈といえば不整脈ですが、生理的なもので病的な意味はありません。したがって、とくに処置や治療は必要ありません。
洞不整脈のまとめ
- 洞性P波のPP間隔が変動するが、PQ間隔、QRS波は正常なのが洞不整脈
- 呼吸性の洞不整脈が多く、生理的なもので処置は不要
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版