心肺停止の患者さんを発見したときの対応
看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。
[前回の内容]
今回は、心肺停止の患者さんを発見したときの対応について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
- はじめに
- 「心肺停止だ、待ったなし」の時の対応
- -1.意識の確認と応援の要請
- -2.A(airway)気道確保
- -3.B(breathing)呼吸の確認と人工呼吸
- -4.C(circulation)循環のサインの確認と心臓マッサージ
- -5.D(defibrillation)除細動
はじめに
ここから、いよいよ不整脈の勉強に入りますが、その前に、心肺停止に陥った患者さんを発見したらどうしたらよいか、ということについてお話しします。
病院内で心肺停止の患者さんの第一発見者になる可能性が最も高いのはナースです。医師が駆けつけるまでの間に適切な蘇生行為(人工呼吸、心マッサージ)を行いつつ、除細動を行います。心肺停止には4種類あり、心室細動(VF:ventricular fibrillation)と無脈性心室頻拍(pulselessVT:pulseless ventricular tachycardia)の2つには、電気的除細動が必須です。
速やかに除細動を行うことが、救命のキモです。
「心肺停止だ、待ったなし」の時の対応
さて、ここからはやっと“異常な”心電図、つまり不整脈と称される心電図へと突入するわけですが、不整脈にかぎらず他の人に相談したり、調べたりする時間がある状況ならまだ落ち着いて対応できますよね。
問題は、待ったなし、患者さんの状態がみるみる悪くなっていく、パニックだ~といった状況に遭遇した場合です。幸か不幸か医療従事者は、そんな場面に出会うことが多く、また事態を好転させる必要を迫られる職種です。
しかし皆さま、ご安心を。つらい思いを数多く経験してきた先達のエビデンスが集約され、BLS(一次救命処置)・ACLS(二次救命処置)という緊急時対応マニュアルがちゃーんとできています。
本記事は心電図についての連載ですから、詳しい内容は別の解説書に譲りますが、緊急を要する事態の対応や処置について、BLS(一次救命処置)に準じて説明します。
それでは、洋子と英子の行動から、緊急時の対応を学びましょう。アクショ~ン スタ~ト!
後ろから近づく英子。何も気づかない洋子。
英子:「わっ」と驚かす。
さて、この場合、“心臓止まっちゃう”とはどんな状態なのでしょうか。俗にいう“心臓マヒ”、医学的には“心停止(cardiac arrest)”といい、以前は心電図上で電気活動が消失した状態、簡単にいうと心電図が1本の横線になった状態とされていました。
しかし、現在では心停止の定義が変わりました。
前述のとおり、心臓は全身に血液を供給するポンプの仕事をしていますが、さまざまな原因で、ポンプの機能を果たさなくなった状態をすべて心停止といい、さらには心停止をきたすと呼吸も停止しますので、心停止=心肺停止(CPA:cardiopulmonary arrest)と考えてください。
では、心肺停止になると具体的にどういった症候を呈するかご説明します。
心肺停止の時の症候
つまり、意識、息、咳、体動、脈拍は“循環のサイン”であり、これらのどれか1つでもみられれば、心臓が多少でも機能している証拠なのです。これらすべての兆候が消失していれば、すなわち心肺停止ですね。
では、再び洋子と英子に登場してもらいましょう。アクショ~ン スタ~ト!
英子:「わっ」
洋子:「きゃー!」と絶叫するとともにその場に倒れ込む。
英子:「なに? どうしたの、洋子、しっかりして」
英子は洋子を仰向けにして頭側に陣取って、肩を叩きながら呼びかける……反応がない。
だめだ、息をしてない。咳もしない。ピクリとも動かない。英子は2本指で頸部の動脈を触れてみた。
「脈もない……心肺停止だわ」
英子はすぐさま、胸の中央、乳首を結んだ線上に両手を重ねて置き、1分間に100回のスピードで心臓マッサージを始めた。
そこへ救急隊員が、除細動器(AED、自動体外式除細動器)を持って駆けつけた。モニターを装着して、波形を解析すると“心室細動”であった。
「ショックが必要よ!」
英子が叫ぶと同時に、除細動器が作動し、洋子の胸が大きく弾んだ。
波形の再解析が行われる。息をのむ英子。
除細動器から乾いた声:「ショックの必要はありません」
英子は洋子に駆け寄り、肩を揺らした。
「洋子~」
洋子はゆっくり目を開きかすれた声で言った。
「何……どうしたの、英子」
血圧も脈拍も正常になった。
「やったわ。よかった、洋子……」うれし涙が止まらない英子。
救急隊員も涙ぐみながら小さくうなずくのであった。
カーット!皆さん、どうですか。英子はかなりデキるヤツですね。倒れた人を見たら、まず、その人が心肺停止かどうか判断しなければなりません。そして、心肺停止なら一刻も早く心肺蘇生法(CPR:cardiopulmonary resuscitation)を行って救命しなければなりません。
そのために、万国共通の以下のようなステップを踏んでいきます。
1. 意識の確認と応援の要請
2. A(airway)気道確保
3. B(breathing)呼吸の確認と人工呼吸
4. C(circulation)循環のサインの確認と心臓マッサージ
5. D(defibrillation)除細動
1.意識の確認と応援の要請
肩(が無難だと思いますが)を叩きながら呼びかけます。触れて話しかけるので、touch&talkといいます。
反応がなければ、とにかく人を呼びましょう。病棟なら救急カートと除細動器を準備してもらいます。応援・救急カート・除細動器は救命の三種の神器です。
2.A(airway)気道確保
意識がなくなると舌根が気道を塞ぎ、空気の通り道がなくなるので、気道を開いてあげる必要があります。手のひらをおでこに押し当てて、頭を反らせるようにし、反対の手の指であご先を引っ掛けて持ち上げます。ただし、頸椎の損傷が疑われる場合はこの方法はやめましょう。
3.B(breathing)呼吸の確認と人工呼吸
気道確保をしたまま、英子のやったように耳を洋子の口・鼻に触れるほど近づけて、同時に胸の上下運動を「見て」、耳で呼吸音を「聞いて」、頬のあたりで空気の流れを「感じて」、呼吸の有無を確認します。もし舌根が落ちて呼吸していないだけなら、気道確保で呼吸が再開するかもしれません。
もし呼吸がなければ、人工的に酸素を送ってあげなければ回復しません。なぜなら、脳も心臓も酸素不足で刻々とダメージを受けているからです。
病棟など病院内なら、バッグバルブマスクを使い、酸素化した空気を2回送り込みます。
4.C(circulation)循環のサインの確認と心臓マッサージ
息・咳・体動は「循環のサイン」ですが、もし、いずれもなければ、加えて医療従事者は脈拍を確認します。(ただし、脈拍確認に自信のない方は、すぐに心臓マッサージにうつりましょう。)
自分の位置からは、いちばん近い頸動脈に2本の指を当てて確認します。
皆さん、心臓が動いているうちに、自分の頸動脈に指を当てて、確認しておいてください。
この「循環のサイン」がすべてなければ、心停止ですから、心臓マッサージが必要です。
本来は、肋骨の下縁から指を中央に滑らせ、胸骨下端のデッパリの剣状突起を探して、そこから指2本分、頭側に手首側の手のひらをおき、そこにもう一方の手を添えて、垂直に毎分100回で圧迫します。
あわてているでしょうから、両方の乳首を結んだ線でもかまいません。
5.D(defibrillation)除細動
後述しますが、心肺停止には4種類あり、その中で心室細動(VF:ventricular fibrillation)と無脈性心室頻拍(pulseless VT:pulseless ventricular tachycardia)の2つには、電気的除細動が必須です。
速やかに除細動を行うことが、救命のキモです。
ここまでを一次ABCDサーベイ(プライマリーABCDサーベイ)といいます。
[次回]
- 心臓の電気伝導の原理
- 正常心電図の原則
- 心臓の電気伝導の性質
- モニター心電図の装着法
- 正常心電図
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版