正常心電図 ―心拍数を測ろう―
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看護師のための心電図の解説書『モニター心電図なんて恐くない』より。
[前回の内容]
今回は、正常心電図について解説します。
田中喜美夫
田中循環器内科クリニック院長
〈目次〉
- はじめに
- <原則16>PP間隔一定15~30コマ、PQ間隔一定5コマ、QRS波は3コマ
- -P波
- -PP間隔
- -PQ間隔
- -RR間隔
- -QRS波
- -T波
- -QT間隔(時間)
- -U波
- 心拍数を見よう
- 脚ブロックについて
はじめに
さあ、いよいよ本番に突入します。
正常な心電図を理解していないと異常はわからないでしょう。まずは、ここでキッチリと正常心電図をマスターしましょう。
とりかかる前に、ディバイダー(なければコンパス)を用意しましょう。PP間隔やPQ時間などを測るのにとても便利です。
ここでは、最後の原則16を覚えてください。(原則1~5、6~10、11~15は過去の記事でご紹介済みです。)
<原則16>PP間隔一定15~30コマ、PQ間隔一定5コマ、QRS波は3コマ
心電図で大切なことは整(レギュラー)ということです。
規則正しいP波の出現、一定のPQ間隔、そして同じ形のQRS波。この3要素がそろったことが確認されると、正常心電図です。
この原則から外れるのが不整脈です。不整脈は心臓の異常を表していますが、正常を知らないと異常はわかりませんよね。だからまず、正常心電図をじっくりと勉強しましょう。
図1を見てください。
これは、心臓1回の収縮で心電図に出現する波形です。
心臓は、収縮と拡張を繰り返して生命を維持しています。繰り返す間隔を周期といい、ある周期で繰り返す様を周期的といいますね。図2は周期的に収縮する心臓が、心電図に描かれています。
横の間隔は時間を表します。記録紙の紙送りの速度は、通常は25mm/秒です。
心電図の背景は1mm刻みの方眼紙になっていて、5mmごとに太い線になっています。
1mmを心電図の世界では1コマといいます。25mmが1秒に相当するので、1mmでは、1秒÷25mm=0.04秒、1コマつまり1mmは0.04秒になります。
縦の高さは電位の強さを表し、普通に記録すると1mmは、0.1mVに相当します。
心室は心筋細胞が多いので心室の興奮は大きなフレになり、心房筋は薄く、細胞も少ないので小さなフレになります(図3)。
正常例のⅡ誘導で見てみましょう。Ⅱ誘導は、右上から左下に向かう誘導で、P波、QRS波、T波いずれも陽性で、とくにP波が比較的大きく見える誘導です。
P波
心房の興奮つまりは収縮の開始から終了までです。個人差や誘導により、小さくて判別が難しいこともあります。
高さすなわちP波のピークは、大きくても0.2mV(方眼紙で2mm)で、高い場合は異常ですが、低いものは、個人差と考えてください。
幅は、心房筋収縮の開始から終了までの時間を意味していて、正常では長くても0.08秒(2mm)ほどです。幅が狭い場合は問題になりませんが、広い場合は、脱分極の完了まで時間がかかっているということを意味し、異常です。
幅と高さを計測してみましょう。図2の心電図では、P波高≒0.15mV、P波幅≒0.08秒で正常ですね。
PP間隔
心房の興奮開始から、次の心房興奮の開始までの時間です(図2)。
正常では、心房の興奮は洞結節からの信号で開始しますので、PP間隔は洞結節の信号発生の間隔になります。規則正しく、周期的にP波が出現しているのが正常です。洞結節の信号発生の周期を洞周期といいますので、PP間隔は洞周期ということになります。
PP間隔を確認して、一定になっているかどうか確認してみましょう。また、PP間隔が何コマで、何秒か計測してみましょう。
PP間隔は一定で、22コマ、0.04×22=0.88秒です。
PQ間隔
P波の開始から、QRS波の開始までの間隔です。
心房の興奮開始から心室の興奮開始までの時間で、心房・心室間(房室間)の時間差を反映します。PQ間隔は各心拍で、一定なのが正常です。
また、この間隔が狭いということは房室間の伝導が速く、間隔が広いということは房室間の伝導が遅く時間がかかっているということを意味します。
PQ間隔は、後述するWPW症候群など特殊な場合を除いて、短いのはあまり問題としませんが、長い場合は異常です。0.20秒(5mm)までを正常、0.21秒以上はPQ延長とします。
ディバイダーで確認してみましょう。まず、一定の間隔であるか、次にその間隔を計測しましょう。一定で、ちょうど5コマ=0.20秒、ギリギリセーフです。
RR間隔
QRS波から次のQRS波までの間隔です。これは、心室興奮から次の心室興奮までの時間を意味します。正常では規則正しく周期的です。
心室が1分間に収縮する回数を心拍数といいますが、心室の興奮周期つまりRR間隔がわかれば、心拍数も算出できます。
たとえば、RR間隔が1秒で規則正しい周期で出現していれば、心室は1秒間に1回収縮します。すると1分間つまり60秒間では60回収縮し、この場合の心拍数は60回/分です。同じように、RR間隔が2秒であれば、心室は2秒ごとに収縮を繰り返していますから、60秒間では、30回の収縮をしますので、心拍数30回/分となります。
心拍数の正常値は、テキストによって異なりますが、臨床的には50~100回/分としましょう。50回/分未満を徐脈、100回/分以上を頻脈とします。50回/分はRR間隔に換算しますと、1.2秒になります。つまり、1.2秒に1回の周期でQRS波が出現すると心拍数は50回/分です。同様に100回/分は0.6秒にあたります。
つまり、RR間隔の正常値は0.6~1.2秒です。これを方眼紙に直すと、1mmが0.04秒ですから、0.6秒は、0.6÷0.04=15mm(15コマ)となり、下限が15mm(15コマ)となります。1.2秒は、1.2÷0.04=30mm(30コマ)で、上限が30mm(30コマ)です。
0.6~1.2秒はmmに換算すると、15~30mm(15~30コマ)になるわけです。
正常では、心臓のリズムは洞結節が支配しています。
房室伝導時間つまり、心房から心室への伝導時間が一定ならば、洞周期が心室興奮周期になります。
心電図に当てはめると、PQ間隔が一定であれば、PP間隔とRR間隔は同じになります。PP間隔に合わせてみてください。それを右にPQ間隔の分だけスライドさせれば、RR間隔になりますね。
つまり、PP間隔の正常値もRR間隔と同じということになります。
そもそも本来、心室周期は、洞結節が決めているわけで、洞結節の周期の正常値が0.6~1.2秒なのです。
QRS波
心室の収縮の開始から終了を意味します。ヒス束~脚~プルキンエ線維という通常の経路で伝導すれば、素早く脱分極が完了し、短時間でQRS波が終了します。正常では0.10秒つまり、2.5mmまでです。
T波
心室の再分極を意味します。QRS波の終了部分をST接合部(STジャンクション:STjunction)とよび、ST接合部からT波の始まりまでをST部分(STセグメント:STsegment)といいます。
QT間隔(時間)
QRS波の始まりからT波の終了までの時間で、心室の安静時への回復まで時間を反映します。
QT間隔は、RR間隔に依存して変化し、RR間隔が長くなると、QT間隔も延長します。そのため、RR間隔で補正した数値を用いて異常を判定します。電解質異常や薬剤、心筋虚血などで延長します。
U波
T波の後、P波の前の小さく緩やかな波で、正常では見られないことが多いものです。心室起源の波ですが、どのようなメカニズムかははっきりしていません。電解質異常や薬剤、心筋虚血などで出現します。
心拍数を見よう
次に心拍数を測りましょう。心拍数とは、1分間あたりの心室収縮回数です。
1分間あたりの心房の収縮回数は、心室と区別して心房心拍数といいます。正常では(心室)心拍数=心房心拍数です。
横軸は時間で、心室の興奮・収縮はQRS波ですから、QRSから次のQRSまでの時間、つまりRR間隔がわかれば、1分間あたりの収縮回数がわかります。
たとえば、RR間隔が25mmであれば、1mm(1コマ)は0.04秒ですから、25×0.04=1秒。
心室の収縮は1秒に1回です。1分間は60秒ですので、これを1分に換算すると、60÷1=60回/分。心拍数は60回/分です。
では、RR間隔が50mmではいかがでしょうか。50×0.04=2秒で、2秒に1回の収縮です。
心拍数は60÷2=30回/分です。
つまり、RR間隔をmmから秒に直すには25で割ります。RR(秒)=RR(mm)÷25。それを心拍数に換算するには、60÷RR(秒)です。
mmの測定値から計算すると
心拍数=60÷(RRmm÷25) ※カッコ内が秒に換算する計算です。
これをまとめると、
心拍数=60÷(RRmm÷25)=60×25÷RR(mm)=1500÷RR(mm)となります。
ここは丸暗記ですね
心拍数(回/分)=1500÷RR(mm)=60÷RR(秒)
簡易法を教えましょう。記録紙は方眼紙になっていて、5mm(5コマ)ごとに太い線です。
5mmは、5×0.04=0.2秒ですね。太い線の上にあるR波を探して、次のR波がどの間隔で出現するかで心拍数がわかりますよね。
もし、次の太い線つまり5mmのところなら、心拍数=1500÷5あるいは60÷0.2で300回/分です。実際にはありえませんが……。
同様に2回目の太い線、10mmなら10×0.04=0.4秒
心拍数=1500÷10あるいは60÷0.4=150回/分
以下同様に15mmでは100回、20mmでは75回になります。
つまり5コマごとに、300・150・100・75・60・50・43・38・33・30……
太い線上のR波を探して、5コマごとの太い線を数えながら、たとえば、20コマと25コマの間に次のR波があれば、300・150・100・75と60の間で、その心拍数は60から75の範囲ですね(図4)。
ここも数字を丸暗記です。
ところで、心拍数は下限50回/分、上限100回/分としましたね。50回/分未満は徐脈、100回/分以上は頻脈です。
RR間隔なら、心拍数50回/分がRR間隔30mm(30コマ)=30×0.04=1.2秒心拍数100回/分がRR間隔15mm(15コマ)=15×0.04=0.6秒に相当します。RR間隔が15mm以下に短縮すると頻脈、30mmを超えると徐脈ですね。
つまりRR間隔の正常値は、15~30mmの間です。
ここまでをまとめてみましょう。
- P波は、心房興奮。高すぎ広すぎが異常
- PP間隔は心房興奮の間隔。正常では洞周期。0.6~1.2秒(15コマ~30コマ)が正常
- PQ間隔は房室伝導を反映。0.20秒を超える延長は異常(5コマ以内)
- RR間隔は心室興奮の周期。PQ間隔が一定なら洞周期に一致する(PP=RR)正常値は洞周期と同じく0.6~1.2秒
- QRS波は心室興奮。幅は0.10秒程度、最大0.12秒(3コマ以内)
- T波は心室筋の回復過程
- QT間隔は心室筋の活動時間を意味する
- 心拍数(回/分)=1500÷RR(mm)あるいは60÷RR(秒)
- 簡易法は5コマごとに、300・150・100・75・60・50・43・38・33・30……
- 正常では規則正しいリズムで50~100回/分、RR間隔は15~30mm(0.6~1.2秒)
さらにキモ。モニター波形が不整脈ではないと言い切れる3条件とは。
- PP間隔が一定で15コマ~30コマ:洞結節が規則正しく50~100回/分で信号を出し、その周期で心房が収縮している。
- PQ間隔一定5コマ以内:P波の後に必ずQRSが出現(つまり、心房の興奮が心室に伝導していて)その時間差が0.20秒以内で、各心拍で変動がない。
- QRS波は3コマ以内:心室に伝導した信号は、ヒス束~脚~プルキンエ線維という高速伝導路を通って、心室を速やかに収縮させる。
脚ブロックについて
ここで“QRS波は3コマ”の例外を勉強しましょう。その名は、脚ブロック。
「心臓の電気伝導の原理」でお伝えした原則5を読み直してください。伝導路はヒス束から二股に分かれて左脚と右脚になり心室に分布しますが、どちらか一方が断線しているとどうなるでしょうか。
興奮は断線していないほうの脚を通って心臓を興奮させ、その後に断線した側の心筋を興奮させます。
このため、心室の興奮開始から終了までに時間がかかります。心室の興奮はQRS波ですから、興奮に時間がかかるということはQRS波の幅が広くなってしまうということです。右脚の断線を右脚ブロック、左脚の断線を左脚ブロックといいます(図5)。
「正常心電図の原則」でご紹介した原則αに当てはめると、右脚ブロックは、本州(心室)の日本海側高速(右脚)の閉鎖により、新聞は太平洋側高速(左脚)のみを通って、まず太平洋側に配達され、その後一般道から日本海側へ配達されるので、新聞が本州全土(心室全体)に行きわたるのに時間がかかります(QRS波の幅が広くなる)(図6)。
左脚ブロックはその逆です。この場合は“QRS波は3コマ”には当てはまらなくなります。
※編集部註※
当記事は公開時点で、一部誤りがございました。
2024年10月10日に、正しい情報に修正しました。修正の上、お詫び申し上げます。
(誤)
RR間隔をmmから秒に直すには25倍します。RR(秒)=RR(mm)×25。それを心拍数に換算するには、60÷RR(秒)です。
mmの測定値から計算すると心拍数=60÷(RRmm×25)
これをまとめると、心拍数=60÷(RRmm×25)=60×25÷RR(mm)=1500÷RR(mm)となります。
(正)
RR間隔をmmから秒に直すには25で割ります。RR(秒)=RR(mm)÷25。それを心拍数に換算するには、
mmの測定値から計算すると心拍数=60÷(RRmm÷25)
これをまとめると、心拍数=60÷(RRmm÷25)=60×25÷RR(mm)=1500÷RR(mm)となります。
[次回]
- 心臓の電気伝導の原理
- 正常心電図の原則
- 心臓の電気伝導の性質
- モニター心電図の装着法
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 モニター心電図なんて恐くない』 (著者)田中喜美夫/2014年3月刊行/ サイオ出版