味覚検査|耳鼻咽喉科の検査
『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、味覚検査について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
味覚検査とはどんな検査か
味覚障害は味蕾の感受性に影響を与えている病変、または味覚伝導路を遮断する病変により起こる。
味覚受容器である味蕾は、舌、口蓋、咽頭後壁および喉頭蓋の粘膜上皮に存在するが、口腔内の主な味覚伝導路は、顔面神経の枝である鼓索神経と大錐体神経、舌咽神経、迷走神経などで、舌前方は鼓索神経、舌後方は舌咽神経と迷走神経、軟口蓋は大錐体神経が支配している。
味覚障害の種類として、味が全体に弱く感じる味覚減退、全く味がしない味覚消失、逆に強く感じる味覚過敏、部分あるいは片側性味覚障害、甘味、塩味、酸味、苦味などの特定味質の脱失をきたす解離性味覚障害、基本味質を誤って感じる錯味、食物がいやな味と感じる悪味、食物本来の味と異なって感じる異味、あるいは非食物性に味質を感じる自発性異常味覚などがある。
味覚に対する臨床的機能検査法として、よく行われている検査法は、電気味覚検査および濾紙ディスク法検査である。これらの検査法はすべて自覚的検査法であり、他覚的味覚機能検査法は、現時点では実用段階には至っていない。
亜鉛不足による味覚障害も考慮し、血清亜鉛の測定も必要な検査である。
味覚検査の目的
味覚異常症例の味覚機能を評価することが主な目的である。
味覚に関与する神経は、顔面神経、舌咽神経、迷走神経である。したがって、顔面神経麻痺や舌咽神経障害の例においても、味覚機能検査は必要となる。
味覚検査の実際
電気味覚検査法
- 直流電流の陽極で舌を刺激すると、鉄を嘗なめたときに感じるような金属味や、人によっては酸味などを感じる。これが電気味覚であるが、その発生機序は必ずしも明確ではない。唾液の電気分解によるものとする説や、味神経の神経終末に対する直接刺激であろうとする説があり、またその両者によるものとの考えもある。
- 現在わが国で使用されている電気味覚計は直流電流を用い、直径5mmのステンレススチール製の電極を陽極の刺激電極とし、8μAを0dBとして設定した、デシベル(dB)表記を用いた電気味覚計である(図1)。
- 電流の大きさとdB値の関係は表1の通りである。−6dB(4μA)から34dB(400μA)まで2dBステップで21段階の刺激が可能となっている。
- 同じように味覚神経別の定量検査として行われる濾紙ディスク法が、わずか5段階の刺激で検査することに比べ、その定量性に優れている。
- 一方、電気味覚検査の欠点は、当然のことではあるが、甘味や塩味などの味質に関する検査ができず、定性試験としては無力なことである。したがって、電気味覚検査は、顔面神経麻痺や舌咽神経麻痺などの例で、主に味覚伝導路障害の診断に有効的な検査法といえる。
検査部位
- 鼓索神経領域、舌咽神経領域、大錐体神経領域について測定する(図2)。
- 各々の測定部位は対側からの交叉支配神経や他の味覚神経の影響を避けるように定められている。
①鼓索神経領域
- 最初にこの部位から検査を開始する。その理由は、①最も検査が容易であること、②舌をガーゼで把持し、前方に引いたりするような刺激を加える前に検査すべきであること、③被検者が、最も電気味覚を理解しやすいこと、などによる。
- 測定時の注意:測定部位はなるべく左右対称とする。測定時、舌は軽く前方に突き出させ、上下の口唇で安定させる。歯で舌を咬ませることは不必要な刺激となり好ましくない。
②舌咽神経領域
- 測定時の注意:舌ガーゼを用いて、被検者自身あるいは検者が反対側に軽く引き出すと、検査が容易となる。
③大錐体神経領域
- 測定時の注意:舌の厚い例では、舌圧子を用いたほうが検査は容易となる。
測定手技
- 10〜20dB程度で電気味覚の味を経験させた後、低電流刺激から上昇法で閾値を検索する。刺激時間は1秒程度、刺激間隔は2〜3秒以上とする。3回のうち2回明らかな応答がある最小値を閾値とする。
判定基準
- 正常閾値は鼓索神経では8dB以下、舌咽神経では14dB以下、大錐体神経では22dB以下であり、閾値の左右差6dB以上が有意の上昇である。
濾紙ディスク法
- 呈味溶液を用いて行う味覚検査であり、かつ支配神経別の検査が可能である。検査キット(テーストディスク、図3)が市販されている。
- 呈味溶液の種類と濃度系列を表2に示す。
- 呈味溶液の種類:甘味(蔗糖)、塩味(食塩)、酸味(酒石酸)、苦味(塩酸キニーネ)。
- このような呈味溶液を用いた検査であるため、甘味だけが分からないなどと訴える解離性味覚障害などの検査も可能である。この点の検査は電気味覚検査では不可能である。
検査部位
- 電気味覚検査と同様、左右に分布する3つの味覚支配神経別に閾値を測定する。
①鼓索神経領域
- 最も検査が容易であるため、最初にこの部位から検査を開始する。
- 測定時の注意:測定時、舌を軽く前方に突き出させ、上下の口唇で安定させるのは電気味覚の場合と同様である。
②舌咽神経領域
- 電気味覚の場合と異なり、濾紙ディスク法の場合にはこの領域に後味が強く残る。特に苦味で顕著である。したがって、軟口蓋の検査を先行させ、最後に舌咽神経領域を検査したほうがよい。
- 測定時の注意:舌ガーゼを用いて、被検者自身あるいは検者が反対側に軽く引き出すと、検査が容易となる。特に濾紙ディスク法では溶液を用いるため、周囲への試薬の拡張を防ぐためにはこの注意が必要である。
③大錐体神経領域
- 測定時の注意:舌の厚い例では、舌圧子を用いて舌が検査部位に接しないように十分注意して行う。
- 舌咽神経領域の味覚閾値は大錐体神経領域に比べて良好である。また同様の理由で過剰の溶液を濾紙につけないよう注意する必要もある。
測定手技
- 溶液番号の小さい低濃度液から上昇法で検査する。何だか分からないが味を感じるという検知閾値と味質を正答できる認知閾値を求める。
判定基準
- 濃度番号の2が正常者の閾値の中央値、3が上限である。濃度番号4で認知した場合は軽度の味覚減退、5は中等度の味覚減退、5でも分からない場合が味覚脱失であるが、そのような例は少ない。
検査結果の記載法
- 3領域において、それぞれ左右、合計6か所を検査し、記載用紙に記入する(図4)。
- 記入するのは、電気味覚検査では、①闘値であるdB量、②被検者の申告した味の質、例えば鉄をなめた味、酸味、ピリピリする、といった表現。ピリピリ感の訴えの場合には、三叉神経刺激を味と取り違えて申告している可能性が強い。
- また、濾紙ディスク法では、検知閾値と認知閾値の濃度番号に加え申告した味質を併記する。
味覚検査前後の看護の手順
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版