肝生検|消化器系の検査
『看護に生かす検査マニュアル』より転載。
今回は、肝生検について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
- 肝生検とはどんな検査か
- 肝生検の目的
- 肝生検の実際
- 肝生検前後の看護の手順
- ・肝生検に関する患者への説明
- ・肝生検に準備するもの
- ・肝生検後の管理
- 肝生検において注意すべきこと
- 肝生検現場での患者との問答例
肝生検とはどんな検査か
肝生検とは、超音波によって肝臓の位置を確認しながら、皮膚から肝臓に生検針を穿刺することにより、肝臓の組織の一部を採取し、病理学的診断を行う検査である。
超音波検査下での方法のほかに腹腔鏡下で行う場合もあるが、身体の侵襲が少ないため超音波検査下で行うことが多い。
肝臓は血管に富んだ臓器であるため、検査後の出血に十分注意することが必要である。
また、針を刺すということから患者の負担や不安は大きく、不安の軽減に努めることが大切である。
肝生検の目的
1)肝臓の病理組織学的診断
- ①肝炎・肝硬変の鑑別
- ②慢性肝炎の程度の評価
- ③肝硬変の進行の程度
- ④肝癌の進行の評価
2)禁忌
- ①出血傾向の強い患者
- ②全身状態の悪い患者
肝生検の実際
- ①患者に仰臥位をとらせる。上半身は裸とし、右腕は頭の上にあげるか頭の後ろに組むようにする。下肢にはタオルをかけておく。(図1)
- ②超音波で肝臓の位置を確認し、穿刺部位にマーキングを行う。
- ③前投薬に硫酸アトロピン1Aとペンタジン1Aを投与する。
- ④右胸部にから腹部の下に処置用シーツを敷き、穿刺部位周囲を広範囲に消毒する。
- ⑤穿刺部位に局所麻酔薬を投与する。投与時は痛みのあることを説明し、不安が軽減するよう声をかける。
- ⑥生検針で肝臓を穿刺し、組織の一部を採取する。生検針は押されるような感じがあることを伝え、動かないよう声をかける。患者の手を握るなどして苦痛の軽減に努める。
- ⑦生検針での採取が終了したら穿刺部位を消毒し、ガーゼで圧迫し固定する。腹帯を巻いて固定するのもよい。
- ⑧患者に検査が終了したことを伝え、衣類を整える。
肝生検前後の看護の手順
肝生検に関する患者への説明
- 超音波で肝臓の位置を確認し、皮膚から針を刺して肝臓の組織の一部を採取する検査である。
- 痛みの少ないよう、麻酔や痛み止めを注射して行う。
- 検査中動くと危険なので動かないようにする。
肝生検に準備するもの
・超音波装置 ・穿刺針 ・局所麻酔薬 ・前投薬(硫酸アトロピン1A・ペンタジン1A)・ホルマリン入り容器 ・処置用シーツ ・消毒薬 ・ガーゼ ・テープ ・必要時腹帯
肝生検後の管理
1)前日
- 午前に検査を行う場合は、夜9時以降禁食とする。午後に検査を行う場合は制限はしない。検査の目的と方法を説明し、同意を得るとともに不安の軽減に努める。
- 腹帯を使用する場合は準備してもらう。
2)検査前
- 午前の検査の場合は朝から禁飲食とする。
- 午後の検査の場合は朝食は軽くとり、以降、禁飲食とする。
- 感染症の有無・既往歴を確認する(既往に前立腺肥大・心疾患・緑内障などがある場合は薬剤の使用ができないため)。
- 血管を確保し、止血薬入りの点滴を滴下する。
- バイタルサインの測定を行う。
3)検査中
- 穿刺時は患者の手を握るなどして不安の軽減に努める。
- 室内が暗いことをあらかじめ説明する。
- 検査中は動かないよう説明する。
4)検査後
- 安静:3時間の安静とする。5分間穿刺部位を圧迫固定した後、ベッド上安静とする。3時間後、著変のない場合は歩行することも可能であるが、医師の指示により翌日まで床上安静とする場合もある。歩行可能な場合もできるだけ安静を保つよう声をかけ、当日の入浴は避ける。
- 食事:飲水は1時間後から開始し、食事は3時間後から開始とする。床上安静の場合もギャッチアップで摂取させる。
- 観察:検査終了後から1時間ごとに安静解除まで、バイタルサインの測定と腹部症状・循環動態を観察する。翌日まで安静の場合は3時間まで1時間ごととし、就寝時・翌朝と観察する。
- 出血の有無に十分注意し、異常が認められた場合は速やかに医師に報告する。特に肝硬変の患者は血液凝固機能が低下している場合が多いため、十分な観察が必要である。
肝生検において注意すべきこと
- 高血圧・心疾患などの内服薬は医師の指示に従い内服させる。
- 必要時、前胸部から腹部にかけて剃毛を行う。
- 苦痛を伴う検査であるため、常に声をかけながら行うよう努める。
肝生検現場での患者との問答例
明日は肝生検を行います。
どんな検査ですか。
超音波で肝臓の位置を確認し、胸から針を刺して組織の一部をとる検査です。
痛みはありますか。
麻酔薬を注射される時に少し痛みがあります。組織を採る針を刺す時は押されるような感じがあります。
肝臓に針を刺して出血しませんか。
超音波で針を刺した後の止血も確認します。止血薬の入った点滴をしながら検査を行います。
何か準備をしておくことはありますか。
夜9時以降は食事をしないでください。明日は朝の薬を飲み、検査が終わるまで食べたり飲んだりしないでください。
はい。
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版