ABI|循環器系の検査
看護師のための検査本『看護に生かす検査マニュアル』より。
今回は、ABIについて解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
ABIとはどんな検査か
ABI(ankle brachial pressure index;上肢下肢血圧比)は、上腕動脈の血圧に対する足関節レベルの血圧の割合を意味する指標で、上腕の高い側の収縮期血圧で両足関節の収縮期血圧を除して計測し、左右の低い方の値を用いる。
ABIは末梢動脈疾患(peripheral arterial disease;PAD)の診断に使用されている。動脈径は末梢に向かい細くなり、また末梢からの圧脈波の反射により足関節レベルの収縮期血圧は上腕動脈の収縮期血圧より10~15mmHg高い値を示す。ABIが0.90以下の場合、下肢動脈に50%以上の有意な狭窄を示す感度は90%、特異度は95%とされる。糖尿病症例や維持透析症例のなかには、後脛骨動脈、前脛骨動脈、腓骨動脈の石灰化が非常に高度で、カフで圧迫しきれず、足関節血圧が300mmHg以上として測定され、ABIが1.40以上の高値を示す症例がみられる。
ABIの正常値は1.0~1.4、境界領域は0.91~0.99で0.9以下を異常値とする。
ABI検査の目的
PADは単なる足の疾患ではなく、高率に脳血管疾患、冠動脈疾患を合併するため、全身的な動脈硬化症の一部である。PAD患者の5年生存率は70%程度と不良である。ABIが0.90以下の場合には、下肢のPADが疑われ、値が小さければ小さいほど狭窄または閉塞性病変が高度であり、特に0.50以下は重要な予後予測指標である(図1)。
したがって、ABIの異常値はPADの診断や心血管死亡のみならず、全死亡における予後予測指標であり、ABIは心血管イベントの高リスク状態の評価に有用である(図2)。
ABIの実際
オシロメトリック法(振動法)を用いた血管脈波測定機器の普及により脈波伝播速度とABIを同時に計測することが日常診療現場で多い(図3)。
図354歳の男性の心電図・心音図・脈波図および上腕・足関節の血圧
PAD症例では、歩行後にABIの低下がみられること、寒冷曝露により動脈攣縮をきたしやすいことから、室温(22〜26°C)下で最低5分間、理想的には10分間の安静後、仰臥位で測定する。
ABIの検査前後の看護の手順と注意点
PADによる下肢の虚血症状は見逃されていることが多い。PAD患者は跛行症状が生じるまで運動できていない例や、歩けなくなったのは加齢のためと思い込んでいる例、「歩くと疲れる」「殿部や膝の痛み」など非典型的な症状のため整形外科で治療を受けている例が多い。細かい問診と膝窩、足背や後脛骨動脈の触診が重要である。
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[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版