「頭が良い」とはどういうことか?
感染症専門医
医学生や医者の「頭の良さ」とは?
医学部を卒業した医者は、一般的に「頭が良い」と思われがちです。
しかし、ぼくはそのような見解には必ずしも同意しません。
医学生や医者の「頭の良さ」は、コンピューターにおけるメモリーとCPUの優秀さだと思っています。
「はあ? なんのこっちゃ」と思われる方も多いと思います。
つまり、医学生や医者の「頭の良さ」は、記憶力と情報処理能力の高さなんですね。
要するに、医学生や医者は、他の人よりも素早く情報を処理して、その正確性も高く、たくさんのことを覚えているということになるのです。
頭の良さがコンピューター的なのですね。
まあ、だからメモリーに「ストレージ」を加えてもいいのですが、それこそ「はあ? なんのこっちゃ」なので重箱の隅をつつくのはこれくらいにして、次行きます、次。
しかし令和の現在、世の中では、コンピューター的な頭の良さはそれほど重要ではありません。
いくら医学生や医者が頭が良くたって、本物のコンピューターにはかなわないからです。
ぶっちゃけ、皆さんの持っているスマホのほうが遥かに優秀です。
だから、医学生さんに
「発熱と発疹が出る病気いくつ言える?」
と聞いてその記憶力を試すよりも、
「ヘイ、Siri、発熱と発疹が出る病気全部教えて?」
とか、
「ChatGPTさん、発熱と発疹が出る病気を列挙して」
とお願いするほうが、よほどましかもしれません。
まあ、ChatGPTは息を吐くように口からでまかせを言うこともあるので、今の段階では実務に使わないほうがよいのかもしれません。
が、それをいうならば医学生や医者だって結構、息を吐くように嘘を…あ、ここからは自粛自粛。
いまだに手作業の多い日本の医療
日本の電子カルテはまだまだポンコツで、非常に使い勝手が悪いとぼくは思っています。
日本の電子カルテは、検査をオーダーするたびにそれに相応する保険診療病名(や疑い病名)を手作業で入力しなければならないなど、非常に非効率です。
海外ではすでに患者さんのスマホとカルテが連動していて、患者さんは自分のカルテを自宅で読めるのが当たり前になっています。
また、診療アルゴリズムやAIがカルテに導入されており、ある病気のマネジメントに必要な検査や薬などが自動的にカルテに出てきます。
このようにシステムがしっかりしていれば、どの病気でどのような検査をオーダーするかとか、どんな薬を出せばいいかをいちいち記憶しておく必要はありません。
あやふやな記憶で医療過誤が起きるリスクも小さいです。
世界の電子カルテはどんどん発展しており、これからはカルテデータが自動的に、発症しつつある疾患を予測して、主治医にアラートを出すようになるでしょう。
「ドクターXX、この患者さんはこれから敗血症性ショックを発症する可能性が非常に高いです」1)みたいに。
アメリカでは、電子カルテのデータは自動的に吸い上げられて、例えばCOVID-19(新型コロナウイルス感染)の患者がどのくらい発生して、何人が入院して、何人死亡したといった情報がリアルタイムでモニターできる“COVID Data Tracker“があります。
日本では、こうした作業を全部手作業で、人の力でやっていました。
患者さんを診断して、紙に情報を書いて判子を押してファックスをしていました。
あるいはHER-SYS(新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム)に手入力です。
全部、人力です。全くバカバカしい話です。
もともと、日本の医療(の偉い人)は「泥臭く、非効率にやることこそが価値なんだ」と思い込んでいるフシがあり、こうした老が…ではなくシニアなメンバーたちの時代遅れな考え方のために、かつてのハイテク王国日本は凋落したのでした。
いくらハイテク途上国に没落した日本であっても、これからは診療現場にIT化の波は押し寄せます、間違いなく。
そのとき、医学生や医者が誇っていた記憶力や処理能力の優秀さは相対的に減っていき、ほとんど無に近いものになるでしょう。
今後、医療現場で必要とされる「知性」の基準は変わる
よって、医療現場ではこれまでとは異なる「知のパラダイム」が必要になります。
知性の定義の立て直しです。
一つは、メタ認知能力です。
これは、自分が考えていることを考える能力、あるいは自分を鳥の目で俯瞰する能力です。
「今、自分が〇〇病だと診断したがってる、その判断根拠はどこにあるの?」とか、「この治療薬がいいと思っている根拠はなんなの?」と自分を問い直すことができる能力です。
オールドタイプの医学生や医者だと、判断処理のスピードが早いがゆえに、こういう「立ち止まって考える」タイプの思考がややもすると苦手な人が多かったりするのですが(忙しいし)、今後はこういう思考が必要になります。
「おれはXXマイシンを出したがっている。昨日MRさんに出してもらったお弁当が美味しかったからだ」というようなものもメタ認知です(笑)。
もう一つは、「問いを立てる能力」です。
医者は答えを出すのは得意ですが、「問いを立てる」のは案外、苦手です。
理由は簡単で、医学生や医者は人生において「問いを立てる能力」の訓練を受けていないからです。
塾で教わるのは、「答えを出す力」だけだからです。
「患者さんが、眠れない」ときに、「答えを出す力」が突出している医者はしばしば
「じゃ、睡眠薬出しましょう」となります。
本当に大事なのは、「この患者さんは、どうして眠れないのかな」と問いを立てることなのですが。
時代が変わり、世界が変わり、医療で必要とされる「知性」の基準も変わります。
新しい時代に日本の医者がちゃんと適応できるか、注目していってください。
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参考文献
神戸大学医学部附属病院感染症内科 教授岩田健太郎
1997年 島根医科大学(現・島根大学)卒、1997年 沖縄県立中部病院(研修医)、1998年 コロンビア大学セントクルース・ルーズベルト病院内科(研修医)、2001年 アルバートアインシュタイン大学 ベスイスラエル・メディカルセンター(感染症フェロー)、2003年 北京インターナショナルSOSクリニック(家庭医、内科医、感染症科医)、2004年 亀田総合病院(感染内科部長、同総合診療・感染症科部長歴任)、2008年神戸大学大学院医学研究科微生物感染症学講座感染治療学分野教授 神戸大学都市安全研究センター感染症リスク・コミュニケーション研究分野 教授 神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長・国際診療部長(現職)
編集:宮本諒介(看護roo!編集部)
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