「乙武洋匡が歩く」ロボット義足で描く未来|モーター搭載の義足開発「OTOTAKE PROJECT」

【日経メディカルAナーシング Pick up!】

伊藤 瑳恵=日経メディカル

 

あの乙武さんがロボット義足を使って自然に歩行する――。

 

そんなプロジェクトが動き出している。

 

乙武さんとは、先天性四肢欠損を抱え、『五体不満足』(講談社、1998年)の著者として有名な乙武洋匡氏、その人だ。

 

モーターを搭載して歩行を助けるロボット義足を駆使するとどんな未来像が描けるのか、追った。

 


 

乙武氏が7.3メートルの歩行に成功した。2018年11月、そんなニュースが話題を呼んだ。

 

これは一般社団法人xDiversity(クロス・ダイバーシティ)やソニーコンピュータサイエンス研究所などが中心となって進めている「OTOTAKE PROJECT」の成果(写真1、2)。

 

ロボット義足を装着した乙武洋匡氏(提供:遠藤氏)
写真1 ロボット義足を装着した乙武洋匡氏(提供:遠藤氏)

 

足練習会の様子(提供:遠藤氏)

写真2 義足練習会の様子(提供:遠藤氏)

 

同プロジェクトが目指すのは、乙武氏が自然に歩行すること。

 

「乙武さんが街中で歩いていてもびっくりされないほど自然に歩くことが目標」とプロジェクトメンバーの1人であるソニーコンピュータサイエンス研究所リサーチャーの遠藤謙氏は話す。

 

遠藤氏のようなエンジニアに加えて、理学療法士や義肢装具士、デザイナーが一丸で挑んでいる。

 

乙武氏の歩行に関しては、3段階の目標を設定している。

 

第1段階は水平な地面を歩くこと、第2段階は階段を上ったり下りたりすること、第3段階は社会に馴染む自然な歩行ができること。

 

今は「第1段階を進めている最中」と遠藤氏は位置付ける。

 

プロジェクトで使用するのは、ソニーコンピュータサイエンス研究所やXiborg(東京都渋谷区)などが共同開発中のロボット義足「SHOEBILL」(写真3)。乙武氏専用にカスタマイズし、現在も改良を加えている。

 

乙武氏が使用したロボット義足「SHOEBILL –ototake model」(右)と搭載されているモーター(左)

写真3 乙武氏が使用したロボット義足「SHOEBILL –ototake model」(右)と搭載されているモーター(左)

写真は断端を収納するソケットを取り外した状態。モーター上部の丸い部分が膝継手で、大腿の振り出しに応じて稼働する。

 

義足は切断レベルによって、主に3種類に分けられる。

 

下腿切断の場合は、断端(切断部)を収納するソケットと人工の足(足部)からなる「下腿義足」、大腿切断では、ソケット、足部、人工の膝(膝継手)からなる「大腿義足」、股関節離断や片側骨盤離断には、ソケット、足部、膝継手、人工の股(股継手)からなる「股義足」が利用される。

 

乙武氏には、大腿義足が選択されている。

 

一般に、膝継手には、油圧や空気圧を使って膝の曲がり具合を制御する「機械仕掛け」が採用されている。この機械仕掛けの膝継手では、意図せずに膝が曲がってしまうことがある。

 

これに対して、SHOEBILLの膝継手にはモーターが搭載されており、大腿の振り出しに応じてモーターが膝からつま先までを動かす。歩く上での筋力が多少弱くても歩きやすい義足を目指している。

 

7メートルの歩行に成功したものの、乙武氏がモーター式膝継手を使いこなすにはまだ時間がかかりそうだ。

 

乙武氏は多くの時間を座位で過ごしていたため、直立することが難しく、義足を付けると前傾姿勢になり、倒れやすい。

 

そのため現在は、あえて膝継手の屈伸機能は使わず、モーターで膝を常に伸展させた状態で歩行の練習を行っている。

 

今後、立位に慣れ、バランスを保った状態で大腿を振り出せるようになったら、膝の曲げ伸ばし機能を活用した自然な歩行を目指す計画だ。

 

乙武氏は、幼稚園に入る前まで義足を使って歩く練習をしていたが、それ以降は40年近く立ったり歩いたりする練習はしていなかった。

 

義足を使いこなすには、ロボット義足そのものの開発だけでなく、義足を使いこなすための、装着者自身の訓練が不可欠だ。

 

「プロジェクトを通じて義足に関するテクノロジーの進化も世の中に広めたい」と話すソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤謙氏。

 

「乙武さんが歩けるなら…自分だってできるかも」を広めたい

乙武氏が40年ぶりに義足にチャレンジする背景には、「下肢切断者にとって義足が第一選択肢になっている」(義肢・装具の最大手であるオットーボックジャパン義肢事業部プロダクトスペシャリストの八幡済彦氏)という現状もありそうだ。

 

股関節離断や骨盤の一部を部分的に切断した人でも利用した例があるという。

 

オットーボックジャパンが販売する膝継手は、制御の仕方によって価格が異なる。

 

油圧や空気圧で制御する機械式の膝継手は20~40万円ほどだが、センサーを使って装着者の歩行状況を感知し、自動で油圧抵抗を調整できる電子制御式の油圧膝継手は170~270万円。SHOEBILLのようにモーターを搭載するものは、200~300万円になるとみられる。

 

電子制御機能やモーターが搭載されていれば、身体能力が高くない人でも安全かつスムーズに歩行できるが、機能が良くなればそれだけ高額になる。

 

義足の購入費用は、下肢を失った理由によって公費による補助額の多寡が変わってくる。

 

具体的には、仕事中の事故で下肢切断に至った場合は労働災害補償保険により購入費用の全額が支給される。

 

これに対し、仕事以外の理由で下肢を切断した場合は、障害者総合支援法の補装具費支給制度の補助を受けることになる。

 

補装具費支給制度では、利用者負担額の上限は3万7200円とし、残りは国と自治体が負担する仕組み。どの補装具を使うかは、自治体の担当者と協議の上で決めることになるが、自治体側に負担額を減らしたいという意向が働くせいか、安価な製品が選ばれやすいという。

 

結果的に、仕事以外の理由で下肢を失った場合には、安価な機械式の膝継手を利用している人がほとんどだ。

 

ちなみに交通事故による下肢切断の場合は、全額または一部を保険会社や加害者が負担するケースもある。ただし、加害者が保険会社に入っておらず賠償命令が出ても支払えない場合や自身の過失が大きい場合などは、やはり障害者総合支援法の対象となる。

 

「OTOTAKE PROJECTでは、乙武氏が自然に歩ける様子を世の中に届けることで、『乙武さんが歩けるなら自分も歩けるかもしれない』と思ってもらうことも狙っている」とソニーコンピュータサイエンス研究所の遠藤氏は話す。

 

こうしたプロジェクトを通じて義足に関心が集まることで、公的補助制度の見直しが進み、より高性能の義足が広く利用されることを期待したい。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

Aナーシングは、医学メディアとして40年の歴史を持つ「日経メディカル」がプロデュースする看護師向け情報サイト。会員登録(無料)すると、臨床からキャリアまで、多くのニュースやコラムをご覧いただけます。Aナーシングサイトはこちら

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