病院側が語った「透析中止」の真相|医師は治療継続の必要性を説明、患者は治療を拒む
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公立福生病院(東京都福生市)で、腎臓病患者が人工透析治療を中止する選択をし、その後、死亡に至ったとする報道を機に非難や責任を追及する声が広がった。
矢面に立たされた病院側は会見を開き、医師が、長期留置型カテーテルによる透析の必要性を説明したにもかかわらず、女性患者(当時44歳)が透析を拒否していたことを明かした。
病院が会見で説明した臨床経過は、こうだ。
亡くなった女性患者が初めて福生病院腎臓センターを受診したのは3年半ほど前。
女性患者が透析のために通院していたAクリニックが、透析用バスキュラーアクセス(以下、アクセス)の機能が落ちているとし、その管理のために福生病院を紹介したという。
初診時の状況について病院側は、「アクセスの状態は悪く、カテーテルを入れる入り口となるシースを留置することはできず、医学的メンテナンスが困難な状況だった。対側の方は、橈骨動脈も尺骨動脈も狭小で、(新たな)アクセスの造設は厳しい状態だった」などと説明している。
また、病院側はこのとき、患者が40歳代と若かったことから腎移植に言及。これに対し、患者からは「移植に関して初めて聞いた。いったん、家に帰って相談したい」との希望が示され、当日は帰宅した。
その後、福生病院の外来を受診した際に、「移植をやることに決めた」と、本人と夫が生体移植希望の意思を示した。このため同病院は、八王子市内の大学病院の受診を指示し紹介状を発行した。ただし、「実際に移植は行われなかったようだ」(病院側の代理人)。
初診から10カ月ほど経って、再度、Aクリニックから、アクセスのチェックをしてほしいとの依頼があり、患者が福生病院を受診。
対応した医師は再度、本人に対して、アクセスの再建は難しく、既存アクセスの破綻が起こったときは長期留置型カテーテルによる透析以外の選択肢は難しいことを説明した。
それ以後、半年に1度の頻度でアクセスのチェックのため同院を受診していたが、アクセスの状況は徐々に悪化したという。
なお、腹膜透析は、腎機能が悪化していることから、導入することは難しいと判断されていた。
長期留置型カテーテルによる透析しかない
2018年8月9日。アクセス閉塞のため透析が実施できないなどと、Aクリニックから電話連絡があり、福生病院を緊急受診した。
対応した医師は、現在のアクセスの改善は不可能であると推測し、診察前にカテーテル留置手術のためのスクリーニングの一環として胸部レントゲン検査を行った。
検査の後、医師が本人を診察したところ、アクセスは閉塞し血栓溶解療法などで改善できるレベルではなかったという。
このため医師からは、かねてからの方針通り、維持透析を継続するには長期留置型カテーテルによる透析しか方法がないこと、そのためにはカテーテル留置のための手術が必要であることを説明した。
これに対し患者本人からは、「カテーテル留置の手術は受けない。もともとこのシャントがだめになったら透析をやめようと思っていた」などと発言があった。医師は、「透析をやめると、2週間程度で死に至ることになる」と説明したところ、本人は「分かっている」と話したという。
透析を行いたくない理由として患者は、針を刺す痛みや透析自体が苦しいなどと述べていた。このため、長期留置型カテーテルによる透析の場合、毎回針を刺す必要はなく、そのことによる苦痛はなくなるとも説明した。
しかし、本人のカテーテル留置と透析を拒絶する意思は固く、「カテーテル留置のための手術同意を取得することはできなかった」(病院側代理人)としている。
本人と夫、医師と看護師、ソーシャルワーカーで相談
本人の意思が固かったことから、医師は「私とあなただけで決めることではないので、ご主人を呼びましょう」と伝えた。
その後、夫が来院。本人と夫、医師と看護師、ソーシャルワーカーの5人がそろったところで再度、診察室にて協議した。
その場でも、本人からは「このシャントがだめになったら透析をやめようと思っていた。透析継続のためのカテーテル留置の手術は受けないし、透析もやりません」などという発言があったという。
病院側が「旦那さんは、いかがですか?」などと尋ねると、夫からは「本人がそう決めたのであればそれで良いと思う」などとの発言があったとしている。この際、「透析患者が透析をやめると、恐らく2週間程度で死んでしまう」と医師が念を押したが、患者の意思は変わらなかった。
5人の話し合いで、以上の意思確認後、最期の場所として本人が自宅を希望したことから、Aクリニックが在宅医療も行っているため、今後の看取りまでのフォローアップを依頼することとした。
また、本人と夫には、「書類にサインをしてもらっていいか?」と尋ね、本人意思の確認のため透析離脱証明書に自筆サインをしてもらった。
「こんな苦しいなら透析した方がいい。撤回する」
報道などでは、患者が透析をしないことを撤回すると意思表示したが、顧みられなかった点も問題視されていた。
この点について病院側は、以下のように経緯を説明している。
2018年8月14日。呼吸苦が出現したため、福生病院を緊急受診し、入院加療となった。
入院の際にも意思確認を行ったが、透析を受ける意思は見られなかった。このとき、透析をしないことによる苦痛などに対しては、「つらいのは嫌だ」と話していたという。
入院後、病院は緩和ケア医療を開始。軽度の呼吸苦のため軽いパニック状態となったため、精神安定剤の内服を開始した。
翌8月15日。呼吸苦症状は落ち着いていた。本人は病棟で入浴を行うなど、安定した1日を過ごしていたという。この日、夫は自らの病気で福生病院に入院し、翌16日深夜1時に緊急手術となった。
8月16日1時以降。患者にパニック症状が出現。呼吸苦・過換気の増悪と寛解が出現し、症状は重篤化した。時間変動が激しく、呼吸苦時には、かなりの混乱状態が見られ始めた。
このとき、「あー苦しい。どうにかして」や「あー、苦しいし、もうやだ。いつまでこんなの続くのかしら」などの発語があったという。
起座位で肩呼吸をし、会話は可能だったが、視点は合わない状況だった。看護師が落ち着かせ深呼吸をさせることで訴えは消え、興奮状態は落ち着いた。
こうした一連の興奮状態の中で「こんな苦しいなら透析した方がいい。撤回する」との発語があったが、看護師が落ち着かせ深呼吸をさせたことで、この訴えは消失したという。
同日7時30分以降。出現していたパニック状態は落ち着き、混乱なく会話が可能な状態となっていた。自身で朝食を2割程度食した。
同日9時45分以降。再度パニック状態が出現。「苦しいー」と発言。体動顕著で身の置き所がない状態となったが、看護師の呼吸指導で訴えは消失した。
同日10時50分。息子2人が父親の術後の見舞いのため来院。その際、母親が入院している情報を息子たちが得ていなかったため、母親の入院病棟に来るよう看護師が連絡した。
同日11時以降。息子2人が母の入院病棟に。息子2人には、看護師が現状を説明した。
その後、担当医師が手術室から病棟へ来て、息子2人に昨晩からの経過を説明。少なくともパニック状態となることを抑止する必要があり、それにはさらに鎮静の必要があることなどを説明した。
同日11時20分以降。担当医師が高度治療室(HCU)に入院中の夫を訪れて、患者の状況を説明。患者本人が、昨晩から朝方にかけて軽いパニック状態となったこと、苦痛を表現する言葉が多いこと、その中に「こんな苦しいなら透析した方がいい。撤回する」という発言があったことなどを説明した。
また、「今は、痛くて苦しくて、つらい状況で、いわばパニック状態に近い。痛みを和らげてあげることが必要で、除苦痛を始めることを息子さんたちと話し合って決めた」などと夫に説明した。これに対し夫は「つらいのが取れて、また透析をしたいと言ったらお願いします」と発言したという。
担当医師は「まずは冷静に判断ができるようにケアを行って、あとは本人の意思を確認します」などと伝えた。これに夫からは「分かりました。よろしくお願いします」との発言があったとしている。
同日11時56分以降。患者本人に説明を行った上で、鎮静剤を筋注。その後、本人が落ち着いて冷静な状態であると見受けられたので、担当医師から本人に、昨夜、混乱気味に「こんな苦しいなら透析した方がいい。撤回する」との発語があったことを確認したが、そのような発語をした記憶はないようだったという。
また、この発語に関して、今の苦痛が除去されることが望みなのか、手術を受けて透析をすることが望みなのかを確認したところ、本人から「とにかく苦しいのが取れればいい。薬を使ってほしい」との回答があったという。これを受けて病院側は、透析を希望しない意思であることが確認された、としている。
遺族からのクレームなどはない
病院側の説明で、注目すべき点は2つだ。
1つは、今回の事例では、長期留置型カテーテルによる透析という治療の道が残されていた中で、患者がその治療を拒否していた点だ。
医師は治療継続の必要性について説明していたが、もっと強く勧める必要はなかったのか。
この点について、日本透析医学会が2014年5月に公表した「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」(表1)では、「提言2」の説明で以下のように触れている。
・ 維持血液透析開始あるいは継続によって生命が維持できると推定できる患者が自らの強い意思で維持血液透析を拒否する場合には、医療チームは家族とともに対応し、治療の有益性と危険性を理解できるように説明し、治療の必要性について納得してもらうように努力する。これらの努力を行っても患者の意思決定が変わらなければ、患者の意思決定過程を理解し、その意思を尊重する。(自己決定権の尊重の説明文から)
つまり、医療チームは患者家族とともに、患者に対して言葉を尽くして説明を行い、それでも患者の意思が変わらなければ、患者の意思を尊重すべきと推奨している。
病院側代理人の説明の通りにそのプロセスを踏んでいたのであれば、この点で病院側に落ち度があったとは言えないだろう。
なお、今回の病院側の透析拒否への対応については、日本透析医学会が調査に入っており、5月中に声明という形で発表する予定だ。
注目点の2つ目は、報道されていたような「透析中止を病院側が提案した」という事実はなかった点だ。
あくまでも治療継続を目指し、長期留置型カテーテルによる透析を勧め、そのための手術についても説明していた。
当初の新聞報道やその記事に基づいた批判の多くは、「病院が透析中止を提案した」ことに集まっていた。こちらも病院側の説明通りだとすれば、そうした批判は当たらないことになる。
病院関係者によると、これまでに遺族から病院に対するクレームなどは一切届いていない。
表1日本透析医学会の「維持血液透析の開始と継続に関する意思決定プロセスについての提言」の5項目
<掲載元>
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