避難所での夜間診療も可能にする トレーラーハウスでの診療活動|西日本豪雨災害
2018年6月末から7月初めにかけて、西日本を中心に広い範囲で記録的な大雨が続きました。それにより、死者は14府県で221名、行方不明者9名と、大きな被害をもたらしました(消防庁情報:2018年8月21日時点)。
今回、50名の死者を出した岡山県倉敷市真備町でトレーラーハウスによる夜間診療を行った特定非営利活動法人災害人道医療支援会(HuMA)の看護師、須田智美さんが、当時の様子をレポートします。
受診に来た患者さんに問診を行う須田さん。
平成30年7月豪雨
岡山県倉敷市真備町でのトレーラーハウスにおける診療活動レポート
災害人道医療支援会(HuMA)看護師
須田智美
活動場所は、大規模避難所の一つである小学校で
HuMAは、今回の西日本豪雨災害で甚大な被害を受けた岡山県倉敷市真備(まび)町にて、2018年7月8日~30日までの23日間、特定非営利活動法人ピースウィンズジャパン(PWJ)と協働し、医療支援を行いました。
活動場所は、倉敷地域災害保健復興連絡会議 kuraDRO※から、救護所運営の要請があった、倉敷市真備町の大規模避難所の一つである薗(その)小学校としました。
※倉敷地域災害保健復興連絡会議(kurashiki Disaster Recovery Organization;kuraDRO):倉敷市保健所や岡山県備中保健所、厚生労働省、岡山県、日本医師会、日本赤十字社、全日本病院協会、国際医療ボランティアAMDA、災害派遣医療チーム(DMAT)などで構成された団体。
薗小学校避難所には当時、約300人が避難していました。
近隣の病院や診療所は建物が甚大な被害を受けていて、診療機能が麻痺しており、診察や治療が必要な避難者は、遠方の医療機関まで行かなければなりませんでした。
しかし、日中は家屋の片づけで忙しかったり、車や公共交通機関がなかったりで、病院までのアクセスが限られている中では、それは困難な状況でした。
そのため、近隣医療機関の診療が再開するまでの間、避難所での診療、医薬品提供を行うことになったのです。
避難者の多くは日中は片づけに ニーズがあると思われた夜間診療を開始するまで
当初は、学校関係者の協力を経て、日本赤十字社など、ほかの医療チームとともに、避難所となっている薗小学校の教室で日中に診察を行っていました。
しかし、当時、避難者の多くは日中に自宅の片づけ作業に出かけ、夕方に避難所に戻ってくる生活スタイルでした。 そのため、診療時間が日中だけだと受診できない方が多いことが考えられました。また、学校関係者などからも夜間診療のニーズがあるのではという話もありました。
日中診療に使用している教室は、夜間は避難されている方が戻り、使用できないため、一番の課題は診療場所の確保でした。
そこでPWJやAPAD、Civic ForceといったNPOなどの団体からトレーラーハウスを提供していただき、活動10日目に薗小学校の校庭に設置し、診療開始に向け準備を行いました。
私が活動に携わったのは活動10日目からで、夜間診療の立ち上げを行いました。
手前のテントは待合室兼問診場所。テントは、日中の日差し対策も兼ねていましたが、それでも暑かったです。
トレーラーハウスの設置後は、その横にテントを立てて、そこを待合室兼問診場所としました。
しかし、診療時の電源確保やトレーラーハウス内の室温管理、野外待合場所の日差し対策、狭い空間での動線、個人情報管理など、検討事項が多々ありました。
また、夜間診療では照明使用時の虫対策や、受診に来られた高齢者などが、トレーラーハウスの入り口にある階段で転倒しないような対策も必要でした。
そこで、トレーラーハウスの入り口にある階段での転倒予防に対しては、ほかの支援団体の協力を得て、学校のいすと机を組み合わせ、頑丈な手すりを設置しました。
トレーラーハウスの入り口に横に、いすと机を組み合わせた手すりを設置しました。
さらに、避難者の方に周知するための看板も設置し、校内放送でトレーラーハウスでの診療や夜間診療開始のアナウンスも行いました。
こうして、トレーラーハウスを設置した活動10日目の夜間診療から、トレーラーハウス内で診療を開始しました。
最初は暑さとのたたかいだったトレーラーハウスでの診療業務
1)トレーラーハウス内には診療スペースと調剤・処置スペース
トレーラーハウス内は、入り口から入って左手を診療スペース、右手を調剤・処置スペースとしました。
トレーラーハウス内の診察スペース。2人の患者さんを診察することができるようになっています。
診察を始めたころは、日中連日35度を超す日が続いていました。
当初、トレーラーハウス内は非常に高温になっており、扇風機を使用してもかなり暑くなっていました。そこで、暑さ対策として、PWJ によりクーラーの設置が行われ、快適な環境になりました。
また、野外の待合室兼問診場所のテントも当然、非常に暑く、問診をする看護師の汗がカルテに滴り落ちる状態でした。
患者さんに問診をしている筆者。野外で問診をとるときは、暑さとのたたかいでもありました。
さらに、せっかく診察に来ても、あまりの暑さに診察を断念して帰る患者さんも出てきたため、活動12日目にトレーラーハウスをもう一台設置してもらい、待合室兼問診場所として使用しました。
夜間の野外テントでは、蚊などの虫刺されに悩まされていたため、虫対策としても待合場所を室内にできたことは有効でした。
夜間はこのような感じで照明を使用していたので、虫が集まって来ていました。
2)医療活動中の勤務形態
トレーラーハウスの診療は、日中は12~15時、夜間は17時~20時を診療時間としました。
日中は日本赤十字社医療チーム、夜間はHuMAが担当するなど、他チームと協働で診療を行いました。
HuMAの医療支援活動に従事した職種は、医師や看護師などの医療従事者のほか、活動を支える調整員・事務局員(ロジスティクス)です。
さまざまな職種から構成された3~8名が1チームとなり、4~6日ごとにチームを交代して支援活動を行いました。
私が活動していた期間のチームは、医師3名、看護師1名、ロジスティクス2名でしたが、日々変動はありました。
災害関連疾患が多くみられた受診患者さん。1日の最大受診者数は45名
トレーラーハウスの診療所を受診される患者さんは、長時間の炎天下の作業による熱中症、家屋の片づけに伴う汗疹などの皮膚疾患や、粉塵による結膜炎などの眼疾患、創傷や刺傷などの外傷と、災害関連疾患が多くみられました。また、避難環境による呼吸器感染症や不眠症もみられました。
そのため、医療者は、処置だけでなく予防のための生活指導も行っていました。
例えば、家屋の片づけ時のゴーグルや手袋、マスクの着用、けがをした箇所の保護方法、熱中症予防の水分摂取や休息確保などです。
トレーラーハウス内での診察の様子。
また、定期内服薬の流失や紛失による高血圧、糖尿病など慢性疾患の増悪も多くみられました。
カルテやお薬手帳もない中では、既往歴や定期内服薬の情報は、患者さんの発言を頼って診察するしかありません。しかし、自分の疾患や内服している薬が分からない患者さんに問診をすることも多く、平時から患者さん自身に自分の病気や薬について理解してもらえるような看護師の関わり方の重要性を実感しました。
そのほか、心不全、深部静脈血栓症、肺炎疑いなどの患者さんへの病院紹介や、診療所まで来ることが困難な避難所内の高齢者への往診依頼にも対応しました。
活動10日目に1日の受診者数が45名とピークを迎え、その後は1日20~30名程度に減少していきました。
ピーク時は常に待合所に患者さんがいる状態が続いていました。
ほかの医療機関への紹介や、搬送した患者さんは1日1~3 名でした。
当初、避難所内の方が受診されることが多かったですが、徐々に、人づてに診療所の存在を知った避難所外の患者さんも増えていきました。
最終的に、23日間の活動で、412 人の患者さんを診療しました。
一定のニーズがあった夜間診療。トレーラーハウスでの診療を振り返って
今回、トレーラーハウスでの診療にあたり、当初は、さまざまな問題はありましたが、活動している医療者はもちろん、関係団体の協力を得て、徐々に改良を重ねたことで、診療場所として適した環境に近づけることができたと思います。
トレーラーハウスでの診療は、災害時はもちろん、例えばへき地での巡回診療など、さまざまな場面で診療を行うことができるという可能性を感じました。
前述しましたが、実際に、夜間診療を利用する患者さんの年齢層は、日中と比較すると若年層が多く、昼間に家屋の片づけのために外出している避難者が、夕方帰宅後に受診しており、夜間診療は、当初の予想通り、一定のニーズがあると考えられました。
しかし、災害時の医療支援、特に避難所での活動は、自分で診療を受けに来られない高齢者や精神疾患患者などの災害要援護者の方たちへ、医療や適切な情報を届けるために、ほかの避難所関係者と連携することが必要です。
また、それだけではなく、医療者自身も潜在ニーズを見つけに外に出て行く姿勢が求められると考えます。トレーラーハウス内で医療者が患者さんを待っているだけでは、すべての医療ニーズは見えてこないことも実感しました。
そして、患者さんの状況から、避難所環境などの公衆衛生を検討することも重要でした。
例えば、小学校の体育館に避難されている方でも、特に冷房の近くにいる方は、寒さや乾燥による上気道炎などの呼吸器感染症の罹患が多い印象でした。
そこで、実際に体育館に行ってみると、冷房の寒さに耐えきれず夜間は外で車中泊する方もいれば、冷房から離れた場所にいる方は逆に、暑さを感じていらっしゃいました。
連日の猛暑の中、避難所となっている体育館は、冷房の位置も固定されています。そのような場所の環境調整を行うことの難しさ、また、避難環境が健康問題につながっている課題も感じました。
【須田智美(すだともみ) 】
災害人道医療支援会(HuMA)看護師
現在は、東北大学医学系研究科公衆衛生学専攻修士課程にて災害医療国際協力学を学んでいる。
今回の経験を、現在取り組んでいる災害時の避難所疫学の研究に反映できるように、またそれらの知識を今後の災害時の医療支援活動にも活用できるように研鑽を積んでいる。
編集/林 美紀(看護roo!編集部)
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