すぐ使うから袋から出しておこう!は大丈夫?
【日経メディカルAナーシング Pick up!】
今回は、薬の包装、特に注射剤の外装や包装容器について解説します。
荒井有美(北里大学病院医療の質・安全推進室)
問題
次のうち、正しい記述はどれでしょう?
- 【1】 ドブポン注0.1%シリンジ(一般名ドブタミン塩酸塩キット)は、すぐ使用できるよう包装容器から取り出して保管することができる。
- 【2】 メイロン静注7%(炭酸水素ナトリウム注射液)を使用する前には、外装のインジケータ(写真1、赤矢印)の色が黄色であることを確認する。
- 【3】 脂肪乳剤のイントラリポス(精製大豆油)のパッケージには乾燥剤が入っているため、外袋から出した後は湿気に注意して保管する。
写真1 メイロン静注7%
提供:大塚製薬工場
答え
正解は【2】です!
解説
注射剤や輸液バックの中には、厳重な外袋や容器で包装されて病棟に届くものがありませんか?薬によっては、単なるラッピングではなく、品質を守るために特別な包装がされている場合があるので、注意が必要です。
1.酸素の混入に注意
医薬品の中には、空気中の酸素によって酸化され、有効成分が化学変化するものがあります。各製薬会社は薬の品質を保つために、包装で様々な工夫をしています。
アミノ酸製剤や脂肪乳剤は酸化しやすいため、脱酸素剤が入れられていることが多いです。例えば、問題【3】の脂肪乳剤のイントラリポス(精製大豆油)も、脂肪の酸化を防ぐため、ガスバリア性の外袋で包装されています(図1)。乾燥剤ではありません。万一、包装に破損やピンホールなど異常があった場合、外袋に印刷された酸素インジケーター全体が紫~青色になることでお知らせします。
図1 脂肪乳剤イントラリポスの包装と酸素インジケーターの色変化(提供:大塚製薬工場)
ガスバリア性の外袋で包装されていて、酸素流入時は酸素インジケーター全体が紫~青色になることで知らせる。
問題【1】のドブポン注0.1%シリンジ(一般名ドブタミン塩酸塩キット)は、脱酸素剤を入れて有効成分の化学変化を防止するため、空気遮断性の高い包装内に減圧状態で保管されています(図2)。添付文書の「取扱い上の注意」にもあるように、使用直前に開封し、開封する時には減圧によるへこみ(図3、黄色い線)があることを確認しましょう。
【取扱い上の注意】
〈投与前の注意〉
(中略)
3)本剤は空気遮断性の高い包装内に脱酸素剤を入れて安定性を保持しているので、包装フィルム表面に減圧によるへこみがない場合は、使用しないこと。
4)ブリスター包装は使用時まで開封しないこと。
5)ブリスター包装は開封口から静かに開けること。
(ドブポン注0.1%シリンジ、同注0.3%シリンジ、同注0.6%シリンジの添付文書より)
図2 ドブポン注0.1%シリンジの包装(提供:協和発酵キリン)
「使用直前に開封してください」と右上に書いてある。
図3 ドブポン注0.3%シリンジ包装の減圧によるへこみ(提供:筆者)
アシクロビル点滴静注液250mgバッグ100mL「アイロム」や、エダラボン点滴静注液30mgバッグ「NP」も、包装に脱酸素剤が入っています(図4)。他にも、脱酸素剤が入った注射薬には様々なものがありますので、注意しましょう。
図4 脱酸素剤が包装に含まれている注射薬の例
アシクロビル点滴静注液250mgバッグ100mL「アイロム」(提供:扶桑薬品工業)と、エダラボン点滴静注液30mgバッグ「NP」(提供:ニプロ)
2.外袋の表示を確認
問題【2】のメイロン静注7%は、プラスチック容器に入った炭酸水素ナトリウム注射液です。炭酸水素ナトリウムは徐々に炭酸ガスを放出して、一部炭酸ナトリウムに変わります。このため、容器を炭酸ガスバリア性のフィルムで包装し、包装内を炭酸ガスで置換していますので、外袋は使用直前まで開封しないでください。もし、包装内の炭酸ガスが抜けていたら、包装上の「炭酸ガスインジケーター」が黄色から茶褐色に変化しています(図5)。炭酸ガスインジケーターが茶褐色に変化している製品は、使用しないでください。
図5 メイロン静注7%の包装と炭酸ガスインジケーター(提供:大塚製薬工場)
3.もし誤って開けてしまっても…
製品によっては、もし誤って外袋を破ってしまっても、光を避けて冷蔵庫で保管すれば、ある程度の期間の保管が可能な場合があります。慌てて廃棄せず、薬剤師に確認しましょう。
4.厚生労働省から包装に関する通知も
使用前に、注射薬や点滴バッグの包装を確認することは、事故を防ぐ上でも重要です。
2016年の11月に、厚生労働省より次のような通知文書が出されました。入院患者の点滴に異物が混入され患者が死亡したという事例を受けて発出されたものです(関連記事:点滴に異物混注! 憎むべきは備品管理にあらず)。
厚生労働省:2016年11月25日発出、医政総発1125第2号
医療機関における安全管理について
今般、医療機関において点滴袋の損壊など、患者の安全を脅かす事案が続いております。
これらの事案については、現在、警察の捜査中であり、その詳細は不明でありますが、最近の事例を参考に、留意すべき事項例をとりいそぎ下記のとおり整理しました。
ついては、管下の各医療機関において、下記の取扱いを再度確認した上で、徹底を図っていただくよう周知方お願いいたします。
なお、今後も新たな情報を得た場合、必要に応じて情報を提供してまいりますので、適宜対応をお願いいたします。
<記>
1.医薬品の使用前には、容器やふた(汚染防止用のシールを含む。)の損壊や異物混入等がないかダブルチェックなどにより確認すること。
2.注射薬の混合調製を行う場合は、定められた環境、手順を遵守するとともに、処方箋・ラベル・注射薬の照合をダブルチェックなどにより確実に行い、調製後は原則として速やかに使用すること。
3.医薬品の保管に当たっては、適切な在庫・品質の管理を行うとともに、必要に応じ施錠管理等、盗難・紛失防止の対策をとること。
薬を患者さんに使用する前に、容器や外装の破損がないことを確認するよう、改めて強調しています。違った次元の話題ですが、このような事例があることを念頭に置く必要もあるでしょう。
薬の包装のPOINT
・輸液や注射薬には酸素に弱いものがあります!使用直前に開封してください。
・インジケーターなど、製薬会社からの保管方法のメッセージを理解しましょう!
・事故防止のためにも、容器や外装の破損がないことを今一度確認しましょう!
<掲載元>
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