EPA外国人看護師を拒否する高齢患者にどう対応するか
EPA外国人看護師と協働したことはありますか?
私が勤務している病院では、2010年より受け入れを開始し、2017年7月時点で8名のEPA外国人看護師が働いています。
この連載では、私がEPA看護師と一緒に働いて感じたことやそのエピソードをお伝えし、より良い協働のために何が必要なのか、読者の皆さんと一緒に考えていければと思います。
外国人看護師と共に働く現場のリアル【1】
EPA外国人看護師を拒否する高齢患者にどう対応するか
【文:小林ゆう(看護師)】
共に働くEPA看護師を紹介します
まず最初に、当院で共に働くEPA看護師を紹介します。
【当院EPA看護師の出身国】
全員フィリピンから来日しています。
【取得している資格】
看護師資格取得者が5名、准看護師資格取得者が2名です。
残りの1名は、来年の看護師国家試験に向けて勉強中の候補生です。
【配属部門】
・手術室、中央材料室:2名
・療養型病棟:1名
・精神科病棟(慢性期):3名
急性期病棟で働くマリアとホセ
私が勤務しているのは、内科・外科・整形外科の混合病棟です。
急性期病棟なので、院内でも一番病床稼働率が高いフロアです。
他所の病棟の看護師たちから「あそこでは働きたくない」と敬遠されるような忙しい病棟です。
ここで一緒に働いているのが、マリア(女性)とホセ(男性)です。
2人とも、すでに日本の看護師国家試験に合格しており、看護師としてバリバリと働いています。
まずは、2人の来歴を紹介しましょう。
マリア(仮名・32歳)
小柄で笑顔がかわいらしく、病棟ではマスコット的な存在
・フィリピンの看護大学卒業後、フィリピンの総合病院で4年勤務
・その後、EPA看護師として来日し、関西地方の病院で看護助手として就職
・来日3年目に、日本の看護師国家試験に合格
・その後、当院へ転職し現在に至る
(来日5年目、当院では2年目)
ホセ(仮名・29歳)
体格が良く、力仕事を率先して引き受けてくれる頼もしい存在
・フィリピンの看護大学卒業後、マニラ市内の病院で3年勤務
・EPA看護師として来日し、6カ月の日本語研修終了後、看護助手として当院へ就職
・2017年春、来日3年目に看護師国家試験合格し現在に至る
(看護助手時代を含めると今年で看護師4年目)
急性期という慌ただしい病棟で奮闘する2人ですが、患者さんの中には看護師が「外国人」というだけで毛嫌いする人もいます。
そんな患者さんの1人とマリアのエピソードをご紹介します。
EPA看護師を拒否する高齢男性とマリア
ある日、佐藤さん(仮名)という91歳の男性が肺炎で入院してきました。
“頑固親父”を絵に書いたようなおじいさんで、面会に来て洗濯物などの世話をしてくれている家族に対しても、横柄な態度でした。
認知症とふらつきがある佐藤さん
佐藤さんは軽い認知症があり、「言われたことはすぐに忘れる」「約束したことを忘れる」「気に入らないことがあると怒鳴り散らす」「都合の悪いことは聞こえないふりをする」という状態でした。
経鼻カテーテルで酸素を吸入中でしたが、食事は少しずつ経口摂取することができます。
排泄については、介助すればトイレに行ける程度のADL。
しかし、ふらつきがあるので、移動時は必ず看護師を呼ぶように説明してありました。
佐藤さんは外国人看護師を拒否
佐藤さんはもともと頑固で、看護師の言うことには耳を貸しません。
また、勝手に動き出すこともしょっちゅうです。
受け持つ看護師はみんな手を焼き、いつか転ぶのではないかと気が気ではありませんでした。
そんな頑固親父の佐藤さんは、入院時から「外国人は好かん!」と外国人看護師が担当することを拒否していました。
気難しい性格で本人から拒否があるため、マリアもホセも佐藤さんの担当は外されていました。
マリアが佐藤さんの異変を発見
入院してから10日が過ぎたある日、佐藤さんがベッドサイドで座り込んでいる所をマリアが発見。
しかもその日の受け持ちは私でした。
佐藤さんは、経鼻カテーテルをつけたまま動いたので、鼻息を荒くしてベッドサイドで座り込み、動けなくなっていました。
マリアは「ダイジョウブデスカ、イタイトコロハアリマスカ?」などと声をかけながらベッドへ誘導しました。
そして、てきぱきとバイタルを測り、全身の状態観察を行って異常がないことを確認してから、私に報告してくれました。
佐藤さんの変貌
その後、師長から「だから『一人で動かないで』と言われていたでしょう」とたっぷり説教されて肩を落とした佐藤さん。
しかし、部屋を訪れたマリアに「ケガシナクテヨカッタネ!ツギハカナラズ ヨンデクダサイネー シンパイヨー」と優しい声をかけられて、初めて笑顔を見せました。
あれほど何度も看護師から「移動時は呼ぶように」と言われていたにもかかわらず、自ら動いて転んでしまった恥ずかしさ・決まりの悪さに加え、今まで拒否していたマリアに助けられたことで、佐藤さんはすっかり大人しくなりました。
そしてもう「外国人は好かん」などとは言わなくなり、マリアとホセが受け持ちやケアに入ることを拒まなくなりました。
むしろその後は、ナースコールでマリアを指名するほどの変貌を遂げたのです。
拒否されてもひるまず話しかけるEPA看護師
EPA看護師を拒否する高齢の患者さんは、当院でも存在するのですが、佐藤さんはこの転倒事件をきっかけに受け入れてくれたケースです。
当院ではEPA看護師の存在を廊下に掲示し、協力を求めていますが、患者さんや家族から拒否された場合はその意向を受け入れるしかないのが現状です。
拒否されたとしても、そのことに関しては彼らはあまり気にしていない様子です。
むしろ、患者に無視をされても積極的に笑顔で声をかけていく姿は、私たちが見習わなければならない部分かもしれません。
EPA看護師と共に働く現場の実際は…
文化が違うEPA看護師との協働には、現場の看護師にしかわからないお互いの努力と苦労があります。
実際に一緒に働いてみないとわからない、外国人看護師と協働する楽しさや大変さなど、リアルな情報をこの場を通して発信できたらいいなと思っています。
(参考)
インドネシア、フィリピン及びベトナムからの外国人看護師・介護福祉士候補者の受入れについて(厚生労働省)
【文】小林 ゆう
関東在住。総合病院で勤務する傍ら、看護師ライターとして執筆活動をしている。子育てに奮闘しながらも趣味のライブやダイビングに熱を注ぐ40代。
【イラスト】明(みん)
看護師・漫画家。沖縄県出身。大学卒業後、看護師の仕事の傍らマンガを描き始める。異世界の医療を
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