看護師が高齢者ドライバーの自動車事故を減らす!? 病院でできる3つのこと

最近、高齢者の自動車事故のニュースが非常に多く取り上げられています。

 

これは、高齢者になるにつれ、身体機能の低下や認知機能の低下などが現れ、安全に自動車を運転することが難しくなることが原因です。

 

しかし、病院に来院する高齢患者さんの中には、運転に不安があっても、交通の便が悪いなどの理由から運転を継続している方はたくさんいます。
そのような方々が、交通事故の当事者とならないよう、私たちには何ができるのでしょうか。

 

 

〈目次〉

 

自動車の運転に支障が出やすい身体機能の変化

私たちは、普段、自動車を運転する際に、同時に多くの機能を働かせています。そして、安全や危険を瞬時に判断しています。

 

しかし、この身体機能や認知、判断力は、年齢に伴って低下していきます。たとえば、視野角度の平均値をみると、60歳以上の方から急激に視野角度が狭くなっているのがわかります(表1)。死角が多いほど、危険を認識するのは難しく、交通事故を起こす危険は高まります。

 

表1 年齢による視野角度の平均

年齢による視覚視野角度の平均

高齢になるほど、平均の視野角度が下がっていきます。

文献1より引用改変)

 

また、ほかにも年齢に伴って低下していく身体機能として、下記6点が挙げられます。

 

①歩くのが遅い
②目がみえにくい
が遠い
④疲れやすい
⑤物忘れが増えた
⑥会話のつじつまが合わない

 

このような加齢に伴う変化は、筋力や視力、聴力の低下、認知機能の低下などが要因と考えられ、安全運転を妨げる恐れがあります。

 

病院内でできる高齢運転者への自動車事故の予防策

医療機関に受診する患者さんのうち60歳以上の方は、ほかの年代に比べて約2倍います(表2)。

 

表2 全国の医療機関を受診した推計外来患者数(単位:千人)

全国の医療機関を受診した推計外来患者数

文献3より引用改変)

 

自動車の運転に支障が出る身体機能の変化」でも解説しましたが、60歳以上になるとさまざまな機能が低下し、運転に支障が出やすくなります。
そこで、病院に訪れる高齢者の患者さんに対して、私たちが看護師として、自動車を安全に運転してもらうためにできることを紹介します。

 

●薬の副作用を説明

薬の中には、運転に適さない副作用が含まれるものがあります。そのような薬の服用中には、運転を控えた方がよいでしょう。

 

(1)花粉症対策の薬には眠気や判断力の低下がある
運転に適さない副作用がある薬の代表的なものとして、花粉症対策の薬が挙げられます。
花粉症の方は、鼻水やくしゃみ、目のかゆみといった症状が現れるため、運転に支障が出ます。そのため、症状を緩和させるために、抗ヒスタミン薬を服用している花粉症の方は、比較的多くいると思います。
しかし、抗ヒスタミン薬を服用すると、内のヒスタミンの働きが抑えられ、眠気や集中力、判断力、作業能率の低下を引き起こすため、運転する方は注意が必要です(インペアード・パフォーマンス)。

 

インペアード・パフォーマンス
インペアード・パフォーマンスとは、知らず知らずのうちに、脳のパフォーマンスが低下することです。自覚することができる眠気とは異なり、本人が気付きにくい眠気や、無自覚状態で現れる集中力、判断力、作業能率の低下などがあります。
この症状は、脳の覚醒を維持しているヒスタミンの働きが抑えられることで現れます。

 

(2)他にもたくさんある運転に適さない薬
その他にも、運転する際に注意が必要な薬がありますので、(表3)を確認してください。

 

表3 運転時に注意が必要な薬

運転時に注意が必要な薬

 

また、患者さんが日頃から継続して服用している薬があれば、注目しましょう。
たとえば、注目する薬の例として、抗けいれん薬や降圧剤などが挙げられます。もし、これらの薬を用法・容量を守らずに服用していれば、運転中に症状が現れてしまい、病気が原因で交通事故を起こしてしまう恐れもあります。
そのため、患者さんが決められた回数、時間、分量を理解できているかを確認することも大切です。

 

(3)患者さんに近い存在の看護師から薬の副作用を説明しよう
本来、薬の説明は薬剤師が行うことがほとんどです。しかし、高齢の患者さんは、目が悪い、耳が遠い、認知機能がやや低下しているなど、それぞれ身体状況が異なります。
そのため、患者さん一人ひとりの特徴を最も把握している看護師が、薬の副作用について、わかりやすく説明するとよいでしょう。

 

●現在の身体機能を理解してもらう

運転するためには、視力や判断力、筋力など、身体の多くの機能を働かせています。そのため、身体機能が著しく低下している方は、運転を控えた方がよいでしょう。

 

そのため、患者さんには現在の身体機能の状態を理解してもらうことが大切です。眼科疾患がある方、歩行が不安定な方など、自動車運転に関わる機能の低下が見られる場合は、要注意です。

 

しかし、高齢の運転者のなかには、長年の経験から運転に自信がある、運転に支障が出るような機能低下はないという過信から、運転できないという状況をなかなか受け入れがたい方が多くいます。そのような患者さんには、患者さんの自尊心(プライド)を傷つけないよう、十分な配慮と客観的な指標をもとに説明することが大切です。

 

具体的な伝え方の例として、(図1)があります。

 

図1 患者さんに身体機能を理解してもらい、運転の危険性を知らせる方法

患者さんに身体機能を理解してもらい、運転の危険性を知らせる方法

 

このように、患者さん自身が身体機能の低下に気付くような伝え方を意識するとよいでしょう。

 

●利用できる福祉サービスの情報提供

自治体によって違いもありますが、年齢や、介護保険、障害者手帳の提示などで、利用できるサービスがあります(表4)。

 

表4 利用可能な福祉サービスの一例

 

また、自治体によって、運転免許証を自主返納した方は、タクシーやバスの割引を受けることができます。体調が悪いときや、運転に不安がある方は無理をして運転するのではなく、福祉サービスを利用することも大切です。

 

これらの情報提供を行うことも、交通事故を未然に防ぐ効果があります。

 

運転免許センターで活躍する看護師

近年、高齢者の自動車事故が多くなってきたことから、平成27年2月に、熊本県が初めて運転適性相談員として、運転免許センターに看護師を配置し、高齢者の自動車事故を減らす取り組みが始まりました。これ以降、宮城県、長崎県、鳥取県、香川県、佐賀県と全国に広がりつつあります。免許センターは、各都道府県内に1~数箇所あり、免許センターごとに2~4名程度配置されています。

 

看護師は運転適性相談員として、運転免許証の更新に訪れる高齢者の健康状態や、質問票の内容から本人やご家族と面談を行います。さらに、行動がおぼつかない高齢者に積極的に声をかけ、必要があれば医療機関の受診を勧めたり、免許証の自主返納を提案しています。
熊本県では、看護師の運転適性相談員を配置してから3ヶ月で、前年度の約1.8倍となる220人の方が運転免許証の自主返納を行いました。

 

●運転免許センターで働くためには

運転適性相談員の募集は、各都道府県警察本部から出ています。

採用条件は、認知症や精神疾患の知識があり、3年以上の実務経験がある方、運転免許証を取得している方など各都道府県によって多少異なるようです。

 

 

* * *

 

自動車を運転する以上、誰にでも事故を起こす危険があります。そのため、運転者には、「気を付けてくださいね」と一言伝えるようにしましょう。実際に、その一言に事故を防ぐ効果があると言われています。
自動車は確かに私たちの生活を便利にしてくれます。しかし、加害者にも被害者にもなる恐ろしいものだということを、今一度認識しておくことも大切ですね。

 

 

【ライター:こたつむし】

 

<参考文献>
(1)高齢者講習における視野検査実施要領の制定について. 警察庁 2009. (2017/1/10アクセス)

(2)中高年者の健康と生活 No.4. 東京都健康長寿医療センター研究所(東京都老人総合研究所) 2014. (2017/1/10アクセス)

(3)結果の概要. 平成26年(2014)患者調査の概況. 厚生労働省. 2014. (2017/1/10アクセス)

(4)認知症の総合アセスメント テキストブック改訂版. 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター. 2014. (2017/1/10アクセス)

(5)急ブレーキと停止距離 | 安全運転技術向上.info. (2017/1/10アクセス)

(6)高齢運転者に関する調査研究(Ⅲ) 報告書. 自動車安全運転センター. 2014. (2017/1/10アクセス)

(7)薬と自動車運転 NPO法人日本身障運転者支援機構WEBSITE. (2017/1/10アクセス)

(8)日本赤十字社 福井赤十字病院/部門紹介/薬剤部/くすりのQ&A. (2017/1/10アクセス)

(9)運転免許自主返納(運転免許の申請取消し)について. 千葉県警察. (2017/1/10アクセス)

(10)高齢者運転免許自主返納サポート協議会加盟企業・団体の特典一覧. 警視庁. (2017/1/10アクセス)

(11)シルバー会員 | フジタクシー. (2017/1/10アクセス)

(12)相互タクシー|高齢者割引サービス. (2017/1/10アクセス)

(13)東京都シルバーパス制度の概要 - 東京都シルバーパスのご案内. (2017/1/10アクセス)

(14)敬老特別乗車証:横浜市 健康福祉局高齢健康福祉部 高齢者福祉の案内. 横浜市健康福祉局(2017/1/10アクセス)

(15)先進政策バンク詳細ページ 政策個表. 全国知事会. (2017/1/10アクセス)

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