患者さんへの「タメ口」はありなのか?

こんにちは、依里楓です。水商売を卒業して……という自己紹介はあまりに夜の世界から離れて時間が経ったのでそろそろ時効ですね。現在は鬱病、パニック障害と共存しながら2年目看護師をしています。パキシル37.5mgはなかなかヘビーです。

 

「○○さん、お熱計るよ~」
「○○さん、お口あーんして」
こういった、看護師から患者さんへのタメ口はどこの病院でもある程度みられるものだと思います。

 

1年目、入職したての時は看護師から患者さんへのこういった態度に強烈な反発感を持っていたのですが、最近はどうも慣れてきてしまっているようで、どことなく居心地の悪い違和感程度になってきてしまっています。なので今回は改めて、看護師の患者さんに対する言葉遣いについて考えてみようと思います。

 

 

元キャバ嬢ナースのとある視点


Vol.13 患者さんへの「タメ口」はどこまで許される?

看護師のタメ口に対する非医療者の反感

GoogleやYahoo!などの検索サイトで「看護師 タメ口」と検索してみると、看護師が患者さんに対してタメ口で話すことに対して違和感や反感を持っている人が、インターネット上には少なからずいることがわかります。

 

また、「幼児言葉が法律違反に!? 障害者差別解消法がスタート」の記事のように、幼児言葉(=タメ口とは限らないものの、類似している場合も多い)を使用した場合に障害者差別解消法に抵触する場合もあります。

 

確かに医療職は、病気を治療することが目的である職種とはいえ、患者さんがいることで病院経営が成り立つサービス業の一種ともいえるでしょう。そういった意味で看護師ひとりひとりはサービス提供者であり、顧客である患者さんへの言葉遣いに配慮することは当たり前ともいえます。

 

そうした「接遇」の観点からみれば、患者さんに対する言葉遣いは、どんなに親しくても敬語を使うことが原則となるはずです。

 

幼児言葉でしか分からない人、タメ口だからできる信頼関係の存在

しかし一方で、人間行動学者である細馬宏通氏が認知症高齢者グループホームでの入居者やスタッフを観察、研究した結果をまとめた「介護するからだ」(医学書院)には、「グループホームの介護スタッフは、自分の体を動かしたり相手の体を表現するときに、しばしば擬音語・擬態語を使う(p.33)」と記されています。

具体的には、入居者さんがお茶を飲む時、介助者は湯飲みを入居者さんの口元で傾けながら「ごく、ごく、ごく、ごく」と言いつつ、最後の「ごく」のタイミングで湯飲みを口元から離し、「ごくん」と言いながら縦に戻すことで入居者さんの喉元が、こくんと動くというものです(pp.31-32)。

 

上記文献は介護施設での研究結果ですが、医療現場でも同じような状況は無いでしょうか。

 

私自身の経験では、経口摂取がうまくいかない認知症の患者さんに嚥下・口腔ケアの認定看護師の介入を依頼した結果、「嚥下機能の低下はなくて、『食事をする』ということへの認知力が低下しているから、『口を開けて』と言っても分からないけど、『あーん』って言いながら一口大の食べ物を口に近付けると食べられる」との指導を受けました。それ以来、食事の時間になると常にその患者さんの病室では看護師の「あーん」という声が響いていました。

 

擬音語、擬態語と幼児言葉の境目が非常に曖昧な中で、障害者差別解消法がどのように関わるのか、とふと感じた記憶があります。

 

また、私自身は常に敬語で話しかけていた、20代ながらも全身の麻痺により褥瘡のある患者さんの入室している大部屋で他の患者さんの対応をしていた際、ベテランの先輩が褥瘡の処置に入っていたようで、患者さんと先輩の「痛ってーんだよババア!」「うるさいわね我慢しなさい!」というやり取りが聞こえてきたことがあります。

 

後から、「大丈夫でしたか?」と患者さんに訊き、「ほんと容赦ないよ○○さんは」と笑いながら答えられた時、先輩とその患者さんの間に信頼関係ができている様子が良く分かり、これもコミュニケーションのひとつなのだと納得させられつつ、敬語に拘っていた私は何なんだろうと感じました。

 

サービス業と相互関係のバランスの中で

看護職はサービス業であり、一方では患者さんの日常の一部となる存在でもあります。

 

上記の「痛ってーんだよババア!」のやり取りは患者さんより年下の私では絶対にできないもので、また人としてご本人より未熟である私はやはり敬語を使い続けましたが、患者さんご自身が、看護師をサービス提供者と捉えているか、人として信頼したいと捉えているかはきっとそれぞれでしょう。

 

患者さんとの関係性・信頼関係が作られていく過程でタメ口が許容されていき、それが親しみとさらなる信頼関係の深化につながっていく、ということはあると思います。


とは言え、関係構築のスタート時点は敬語が基本であるべきだし、上記のような人間関係の深化とタメ口の関係は、患者さんと看護師の間柄に特別なものではなく、人間関係一般に言えることなのではないでしょうか。少なくとも、看護の現場で当然のようにタメ口でOKではないと思っています。

 

看護師自身も、患者さんに合わせて敬語とタメ口を使い分けているのか、敬語を使う/使わないことに対して信念があるのか、それとも病院の風習としていつの間にかタメ口を使う癖がついているのかを、ひいては目の前の患者さんにとって自分はどのような存在なのかを改めて考える機会を持てたら幸いだな、と感じます。

 

(参考文献)

細馬宏通(2016).介護するからだ.医学書院.

 

【著者】依里楓

東京から2時間くらいの場所にある総合病院の内科系病棟で働く看護師。水商売をしていました。

ブログ:プロセスレコード

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