看護師、23歳、うつ病になりました

こんにちは、依里楓です。水商売を卒業して、2年目看護師をしています。

 

2ヶ月ほど連載が空いてしまい大変申し訳ありません。

この2ヶ月何をしていたかというと、実は「重度抑うつ状態」の診断を受け、実家で休養をしていました。

 

元キャバ嬢ナースのとある視点

Vol.12 看護師、23歳、うつ病になりました

 

看護職の仕事による精神疾患の罹患率の高さについては、看護roo!の中でも取り上げられています

 

看護師が「3K(きつい、きたない、危険)」と言われていた時代を経ても尚、仕事量や質、人間関係の問題といった原因から、精神障害を発症する看護師は数多くいるようです。

 

職場によって仕事や人間関係は大きく変わるため、原因を一括りにして対策を取ることは難しいのでしょうが、実際に精神疾患を発症したひとりの看護師として、発症から現在のことや、うつ病と向き合う中で考えたことを振り返っていきたく思いますので、お付き合いいただければ幸いです。

 

 

誰も気付かなかった心身の異変

今思えば私の場合、最初は「なんとなく最近食欲ないな」から始まりました。

 

普段なら休憩室にあるお菓子を人より多く食べる私が全くお菓子に手を出さず、先輩と「珍しいねえ」「最近食べられないんですよ、夏バテですかね」「まだそんなに暑くないよ~(笑)」なんて会話をしていた6月。

 

朝食や昼食は食べないと身体が動かず仕事にならないので、ひたすら機械的に、朝は納豆ご飯、昼はお弁当を食べていました。いつの間にか夕食は食べなくなりました。

 

 

食欲なんてしばらくすれば戻るだろう、と気にも留めていなかった数週間後、今度は朝起きることがひどく苦痛になりました。

 

1年目の時から、休日は目一杯予定を詰め込んで1秒も無駄なく楽しみたい!というタイプだったにも関わらず、全く起きることができず、思考も働かずに丸1日ベッドで過ごす休日が急激に増えました。仕事の朝は、全身に重りをつけたような気分で、身体を引きずるように出勤していました。

 

2年目になって夜勤も増えて不規則な生活で疲れが溜まっているのだと、仕事は行けているし休日はしっかり休むようにすれば、とそこまで気にはしませんでした。

 

 

今年に入り、受け持ちの患者さんの急変やステルベンに当たることが多く、周りからは「最近依里ちゃんよく『引く』よね」と言われていたのですが、7月あたりからでしょうか、なんで彼等、彼女等は死んでいってしまうのに私は死なないんだろう、あの人たちの代わりに私が死ねれば良いのに、とふとした瞬間に考えることが急激に増えました。

私が出勤すれば誰かが死ぬのではないかと、そんなことを思ったりもしました。

 

それでも、血液内科だから、1ヶ月間に10人以上が亡くなることも珍しくない病棟だから、「引く」期間を乗り越えれば少しは落ち着くから、と、亡くなった患者さんのことを想っては家で号泣し、病棟では絶対に笑顔を絶やさないように努力しました。

 

 

そして遂に8月、用事があって実家に帰り、夜に就寝したはずが翌日の夕方になっても起きてこない、トイレにも行かずに昏々と眠り続ける私に対して母親が違和感を覚えました。

「いい加減にしないと脱水起こすよ!」と母に叩き起こされた私の目は、どろりとして何も見えていなかったそうです。

 

そして翌日の仕事の後精神科を受診し、ついた診断は、重度抑うつ状態。

すぐに休職となりました。メンタルが強い子、と言われ続けていた私のあまりに急なうつ病に、病棟中が騒然となっていたと、後から師長さんに伺いました。

 

 

思い起こせば、予兆はいくらでもあった

食欲不振、意欲低下、起床時の倦怠感、そして希死念慮と、ここまでうつ病の症状が揃っていたにも関わらず、精神が蝕まれていたことに私自身すら気付かなかった原因のひとつは、「看護師だから」という周りや自分自身の職業意識です。

人が亡くなることに慣れなきゃいけないのだ、病棟なんて何が起こるか分からないのだ、交代制勤務で多少心身のバランスが崩れるのは当然のことなのだ、と、何度も何度も言い聞かせた「看護師らしさ」は、私に人としてのバランスを見失わせるのには絶大な効果を発揮していました。

 

また、急変やステルベンの度に「もっと早く何か気付けていれば助かったのではないか」と振り返る癖はいつの間にか「私が殺したのではないか」という罪悪感になっていて、しかし「引いちゃう時期は誰にでもあるよ」という職場の風潮の中で、私は罪悪感を罪悪感と認めることすらできず、ただひとりで泣くのが精一杯で、そして壊れていきました。

 

 

「辛い」を見逃してはいけない

病棟勤務をしている限り、明らかに自分より辛い思いをしているであろう患者さんが目の前にいる状況は変わりません。

 

この連載でも、何度も「看護師だって人間だ」と書いてきたように思いますが、結局1番「看護師らしさ」に飲み込まれていたのは私自身だったのかもしれません。

 

私がうつ病だと、水商売時代のお客様を通して知った、お店のママが電話をくださいました。

「あんたは昔からいい子ちゃんでいようとするから、どうせなんでも自分のせいにしてたんでしょう。そんなの逆に傲慢だよ。病気の人に対しても失礼だよ。少しは肩の力を抜きなさい」という言葉は、私にとってこの上ない真実でした。

 

うつ病に対する投薬、カウンセリング治療は想像を絶する苦しみでしたがそれもひと段落し、体重は6kg近く減ってしまったものの、11月から少しずつ職場復帰をしていきます。

なんでも自分のせいにする私は、看護師には向いていないのかもしれない。それでも、自分の危ういところを補填しながらでも、この業界で息がしたい。

 

 

先日、診断書提出に病棟へ行きました。先輩に「○○さんが心配してるから話してあげられる?」と言われ、顔を出した病室で患者さんに「みんな心配してたのよ。なんで突然いなくなっちゃったの?なんでこんなに痩せちゃったの?」と泣き出しそうな表情で言われた時、「ごめんなさい、私も会いたかった」ととっさに謝ることしかできませんでした。

「はやく元気になって私達の面倒みてね」と微笑んでくれた患者さんを見て、私は人を苦しめるだけの存在じゃではなかったのだと、心から嬉しかったのです。

 

 

取り留めのないエピソードになってしまいました。

誰にとっても、「看護師としての私」と「人間としての私」の間で苦しむことはいつまでも続くでしょう。そこで必要なのは職場内でなんでも言える風潮かもしれないし、ひとりで抱えない勇気かもしれないし、「こうすれば看護師は精神疾患にならない!」なんて解決策はきっと存在しないでしょう。

各々が、感情とうまく付き合っていく方法を模索するしかないのだと心から痛感しています。

 

私の、本当に個人的な経験をつらつらと書き連ねてしまいましたが、最後まで読んでくださった、今日も頑張っている看護師さんに精一杯の感謝と敬意を込めて。

 

 

【著者】依里楓

東京から2時間くらいの場所にある総合病院の内科系病棟で働く看護師。水商売をしていました。

ブログ:プロセスレコード

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