看護師の職務・能力に応じた賃金制度は可能?

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日本看護協会は6月、「病院で働く看護職の賃金のあり方」と題する提言を公表した。看護師個人の能力や専門性、病院への貢献度に見合った給与を支払う仕組みにしようと提案する内容で、先駆的に取り組んでいる医療機関の賃金体系を参考に作成した。協会は今後、2016年度中に研修テキストなどの導入支援ツールを作成した上で、全国の病院への周知と導入支援に乗り出す方針だ。

(末田 聡美=日経メディカル) 

 

 

看護師の職務・能力に応じた賃金制度は可能?

提言の背景には、「長年同じ病院で働いているのに給料が上がらない」「苦労して認定看護師の資格を取得したのに、給料は以前と変わらない」「自分は夜勤を多く担当しているのに、夜勤ができない職員と給与があまり変わらず、納得できない」――といった、看護師たちの不満の声がある。

 

そもそも看護師の賃金制度については、幾つもの問題が指摘されてきた。

 

1つ目は、看護師の能力やキャリアを客観的に評価し、それを給与に反映することができていない点だ。

日本看護協会が全国の病院に実施した「2012年 病院勤務の看護職の賃金に関する実態調査」(n=2651)によれば、経験者の中途採用に当たって、入職時に経験年数を考慮している病院は46%だったものの、採用後に実際の能力を再評価している病院は22%にすぎなかった。また、専門・認定看護師特定行為の研修修了者に対して、給与面で評価している病院もいまだ少ない。経験年数などで一律に評価する仕組みで賃金制度を運用している病院が多い。

 

さらには、長年勤務していても、看護師は他の医療職と比較して賃金カーブ(賃金上昇の度合い)が緩やかだといわれている。病院職員の多くを看護職が占める中、人員規模に対する管理職のポスト数が少なく、昇進の機会が限られる。看護師をひとまとめにした賃金制度とし、管理職になるまではほぼ同一の階級として処遇しているパターンが少なくないため、給与額はほとんど変わらなくなる。

 

こうした課題に加えて、最近ではワークライフバランスに力を入れる医療機関が増えており、その弊害として職場で不平等感が生まれるケースが出てきている(関連記事)。多様な働き方を希望する一部の職員の希望を受け入れることで、そのしわ寄せがほかの職員に及んでいる。みなが納得感を得ながら働けるように、働き方改革と併せて、給与体系も柔軟に変えていくことが求められているのだ。

 

職務・役割に応じ3群に分けて処遇

冒頭で挙げた、日本看護協会が提案している賃金の見直し案は、

(1)複線型人事制度と等級制度を組み合わせた賃金体系モデルでの評価

(2)多様な働き方を支援するための賃金処遇

――の2点だ。

 

1つ目の新たな賃金体系モデルについては、看護師をその職務・役割に応じて、一般の看護師を想定した「専門職群」、看護師長などマネジメントを担う「管理・監督職群」、専門・認定看護師や特定行為研修を修了した看護師などの「高度専門職群」の3つの群に分けた複線型人事とする。さらに、それぞれの群ごとに、能力の高さや職務・役割の大きさによって複数のステップに分けた「等級制度」で評価していく、という流れだ。等級を決定するための評価には、看護師の経験や能力に応じて臨床現場で果たす役割を定めた「クリニカルラダー」を活用することを勧めている。

 

日本看護協会労働政策部看護労働課の岡戸順一氏は、「看護師をひとまとめにした単線制度を採用する病院が多いが、自らキャリアを選択できるようにするためには、役割によって評価法を変えるべきだ。等級についても、昇進の機会が多くなるよう7段階程度の細かい分類が必要だろう」と話す。

 

夜勤労働の手当は今より手厚く

2つ目の、多様な働き方を支援するための賃金処遇については、最近増えている短時間勤務の正規職員への処遇が不利にならないような賃金制度を整備するとともに、夜勤労働者への手当を今より手厚くするというのが要点だ。

 

短時間勤務の正規職員の基本給は、フルタイム勤務の正規職員の基本給を参考に、労働時間に比例した金額に設定する。さらに、諸手当や賞与の算定の際には、労働時間の制約(夜勤は不可、休祝日の勤務は不可など)の有無などに応じてポイント数を設定し、点数の高さに応じて評価を変える、といった提案をしている。

 

具体的には、フルタイム勤務と短時間勤務に分け、フルタイム勤務で労働時間に制約がなければ3ポイント、フルタイム勤務で労働時間に制約があれば2ポイント、短時間勤務で労働時間に制約があれば1ポイント、といった具合だ。

 

労働時間に制約のある職員が増えれば、当然、残された職員の夜勤の負担は増える。夜勤労働者の確保は看護現場にとって今後重要な課題であるとの認識から、協会では、夜勤労働については賃金処遇で現行より高く評価することを提案。1回当たりの夜勤手当の増額、深夜割増賃金を引き上げる、夜勤負担の程度に応じて賞与算定の評価に反映する、といった取り組みのほか、夜勤専従者では基本給は下げずに1カ月の所定労働時間を減らす(上限144時間)、といったことも勧めている。

 

ナースの貢献度を客観的に評価できるか

ただ、新しい賃金制度を医療機関に導入するためには、幾つもの課題をクリアする必要がある。まず欠かせないのが、クリニカルラダーの整備と、それに基づき看護師の能力を客観的に評価できる人材の育成だろう。ある急性期病院の元看護部長は「看護師は人を評価することが苦手で、臨床現場でアウトプットに基づく評価をするのはかなり難しい」と指摘する。被評価者が公平感と納得感を感じられるような仕組みを作れるかがポイントになる。

 

特に小規模病院の場合、大規模病院での評価指標をただ当てはめてもうまくはいかない。各医療機関の実情に合った評価方法を工夫して作成し、現場に根付かせることが必要だ。

 

また、結局は夜勤を多く担う看護師が給与面で大きく評価されると、質の高い看護師が賃金で評価される仕組みとは言い難くなる。例えば、効率的に稼げるとして一部の看護師に人気の夜勤専従は、基本的に院内の委員会活動やカンファレンスなどに参加せず、受け持ち患者がいないケースも多く、スキルアップの機会はどうしても少なくなる。一方、地道にキャリアアップしても、それに伴う昇給額は夜勤手当などと比較すると微々たるものになる可能性もある。

 

新たな賃金制度を導入してみたものの、結果的に現場の看護師が「自分の頑張りが給与で報われた」という実感を得られなければ、現場のモチベーションアップにはつながらない。厳しい財政事情の下で今後、診療報酬の大幅アップは望めない以上、病院の収入は限られる。医療機関としては、院内のコスト削減や各種助成金の活用などで、給与の原資を生み出す努力も必要になりそうだ。

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

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