緩和ケア 7つの誤解|誤解3◆緩和ケアは痛みの緩和
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取材した緩和ケア医から挙がった「緩和ケアの誤解」の中でもとりわけ多かったのが、「緩和ケアは痛みの緩和をすること」という誤解だ。癌患者に表れる症状は痛みだけでなく、悪心・嘔吐、消化管閉塞、呼吸困難など様々だ(別掲記事参照)。
(満武 里奈=日経メディカル)
緩和ケア 7つの誤解
誤解3◆緩和ケアは痛みの緩和
余宮氏によると、悪心を訴える患者に対して原因検索もせずに、漫然と制吐薬を処方しているケースが散見されるという。オピオイド投与中で下痢を起こしていた原因が、実は便秘だったというケースも少なくない。余宮氏は「緩和ケアでも、原因検索、原因治療、症状緩和を行う点は日常診療と何ら変わらない」と説明する。
表3の通り、癌患者の悪心の原因は複数ある。余命と患者の希望を踏まえた上で原因治療を行うかどうかを検討することが大切だ。
表3 癌患者の悪心の原因(余宮氏による)
在宅患者の場合は容易に検査ができないことも多い。すぎもと在宅医療クリニック(名古屋市千種区)院長の杉本由佳氏は、「瞬時に情報を収集して、限られた環境でどう対応するかを判断する能力が必要」と話す。患者が貧血を訴えている場合は、トイレに黒色便が付いていないか、ゴミ箱に血を吐いた跡がないかを確認するといった観察眼も求められる。
すぎもと在宅医療クリニックの杉本由佳氏は、在宅での緩和ケアについて「瞬時に情報収集して判断する能力が必要」と指摘する。
在宅医は看取りまで行う覚悟を
「自宅で穏やかに死を迎えたい」という患者の思いを叶えるため、緩和ケアを提供できる在宅医に往診を依頼していた。にもかかわらず、息を引き取る直前の様子がとても苦しそうに見え、家族が慌てて救急車に連絡。患者は病院に搬送されて蘇生処置を受けるはめに──。
そんなケースをこれまでいくつも見てきた立川在宅ケアクリニックの井尾氏は、「緩和ケアのゴールは症状緩和でなく看取り」と訴える。
上記のような、在宅での緩和ケアでよくある悲劇を起こさないためには、在宅医から患者と家族への十分な説明が欠かせない。井尾氏は、患者が安らかな最期を迎えられるようにするため、最初の面談で1時間以上を掛け、詳細に説明するようにしている。
具体的には、在宅での看取りは基本的に点滴などの延命治療はしないこと、痛みや苦しさは十分に取り除けること、緊急対応はするが看取りは家族が行うこと、24時間いつでも死亡確認に訪問して死亡診断書を書くこと──を家族に伝える。
例えば、家族による看取り方法については、「家族みんなで看取ってください。呼吸が徐々に弱くなり一生懸命呼吸するようになった後、無呼吸の時間が長くなり、やがてスーッと最後の呼吸が来て手足が冷たくなってきます。1分間ほど呼吸がなかったら、私に連絡してください」と教えている。
立川在宅ケアクリニックの井尾和雄氏は、「緩和ケアのゴールは症状緩和でなく、看取り。24時間対応する覚悟を持つように」と訴える。
近年は独居老人を在宅で診るケースも増えており、在宅で緩和ケアを提供する医師は、死亡診断書まで書く覚悟を持つ必要がある。
井尾氏によると、十分な覚悟を持たない在宅ケア医が増えた結果、途中まで在宅医が診ていたにもかかわらず、最期は誰に看取られることもなく独りで死亡する「孤独死」が続出しているという。緩和ケアも十分に行われずに1人死んでいくのは、「穏やかな死」からほど遠いといえるだろう。
同クリニックが存在する立川市における2012年の自宅死亡数は270件。このうち、72.6%(196人)は自宅死といっても死体検案された孤独死事例であることが明らかになっている(図3)。
図3 2012年の立川市における自宅死亡の状況(井尾氏による)
※自宅で検案された死亡例196人のうち、癌患者6例、老衰は16例でいずれも在宅医が関与していた可能性がある。
※看取られた患者74人のうち、56人は立川在宅ケアクリニックで、18人は他院で看取った。
「緩和ケアを在宅で行う医師は24時間対応して、死亡診断書まで書くのだという覚悟を持つべき」(井尾氏)だ。
患者に「理想の最期」を聞く
緩和ケアを行う上では、患者やその家族がどういった最期を迎えたいと考えているのかを把握することが欠かせない。最近では、患者がどのようなケアを望んでいるのか、終末期は誰とどこで過ごしたいと考えているのかなど、事前に将来のケアについて患者・家族と多職種チームが十分に話し合う「アドバンス・ケア・プランニング」という取り組みが注目されている。
例えば廣橋氏の施設では、患者とその家族に対し、(1)これからどこで過ごしたいか、(2)最期をどこで迎えたいか──について、それぞれの希望を確認。両者の希望がずれていた場合は、在宅医や病院ができるサポート内容を紹介し、患者の願いを実現できるような提案を行っている。
永寿総合病院の廣橋猛氏は、患者とその家族に、これからどこで過ごしたいか、最期をどこで迎えたいのかをそれぞれに確認している。
余宮氏の施設では患者・家族の緩和ケアへの理解を助けるために「緩和ケア★ポケットガイド」(写真1)を2015年12月に院内に設置。患者・家族が自由に手に取れるようにしている。
写真1 埼玉県立がんセンターで配布している「緩和ケア★ポケットガイド」
余宮氏は「今後の経過を知りたい」という患者には図2(各疾患の転帰)のような図を見せながら、「今、あなたがどの時点にいるのかは誰にも分からない。でもこの段階(▼)になると、体力が急激に落ちて、食欲がなくなる。だからやりたいことは先延ばしせずにやっておいたほうがよい」と説明している。
痛み以外の諸症状への対処法
様々なつらさを和らげる選択肢を知っておく
癌の終末期には、疼痛の他に腹水や食欲不振、呼吸困難、悪心・嘔吐、消化管閉塞、せん妄、全身倦怠感など様々な症状が出現する。このとき、各症状に対してそのつらさを緩和する手法を知っていれば、患者にその選択肢を提示することが可能だ。このとき、「これが最善」と患者に押し付けるのではなく、患者の状態と希望を踏まえることが大切だと平方氏は説明する。同氏による、終末期に出現する各症状への対処法を表Aにまとめたので参考にしてほしい。
表A 呼吸困難や腹水、消化管閉塞への緩和ケアのアプローチ(平方氏による)
【緩和ケア 7つの誤解】
<掲載元>
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