日本発の褥瘡評価スケールが世界標準に|リポート◎進化する褥瘡・創傷ケア(前編)
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褥瘡・創傷ケアの発展に伴い、日本の褥瘡有病率は大きく低下した。一方で、医療関連機器圧迫創傷やスキンテアなど、新たな課題も明らかになってきており、こうした病態にいち早く取り組んできた諸外国に学ぶ点は多い。
昨年末、横浜市で開催された看護セミナーで紹介された、改訂版「国際褥瘡予防・治療ガイドライン」のポイントと、スキンテアに関する知見を2回にわたりリポートする。
(森下紀代美=医学ライター)
2014年、改訂版「国際褥瘡予防・治療ガイドライン」が発表された。
初版は2009年に米国褥瘡諮問委員会(NPUAP)とヨーロッパ褥瘡諮問委員会(EPUAP)が作成し、5年ぶりとなった今改訂では、新たにPan Pacific Pressure Injury Alliance(PPPIA)が作成に加わった。
改訂版には、褥瘡の予防および治療方法に関し、エビデンスに基づく575の推奨が記載されている。医療従事者がすぐに臨床で活用できるよう、クイックリファレンスガイドも同時に発行されており、英語版はEPUAPのウエブサイトから入手できる。
2014年12月に開催された照林社看護セミナー「褥瘡・スキンテア(皮膚裂傷)・失禁のスキンケア:世界の最前線2014」に登壇した、東京大学大学院医学系研究科 健康科学・看護学専攻 老年看護学/創傷看護学分野教授の真田弘美氏は、褥瘡状態のアセスメント、寝床内環境、褥瘡の発生予防、医療関連機器圧迫創傷などについて、初版からの変更点を中心に、注目すべきポイントを解説した。
「DESIGNとDESIGN-Rが国際的に使用できるスケールとなったことを誇りに思う」と話す東大の真田弘美氏。
真田氏がまず触れたのは、褥瘡状態のアセスメントについて。
ガイドライン上には「妥当性・信頼性のある褥瘡アセスメントスケールで治癒過程を評価すること」(エビデンスレベルB:臨床での症例検討がある)と記載され、そのツールとして、NPUAPによるPressure Ulcer Scale for Healing(PUSH)などに加え、日本褥瘡学会が作成し国内で汎用されている褥瘡状態評価スケール、「DESIGN」と「DESIGN-R」が新たに盛り込まれた。
これについて真田氏は、「DESIGNとDESIGN-Rが国際的に使用できるスケールとなったことを誇りに思う」と述べた。
新たな項目としてガイドライン上に盛り込まれたのは、「寝床内環境」に関する記載。
体圧分散寝具は、これまで「いかに圧力を分散させるか」に主眼が置かれていたが、改訂版では「体圧分散寝具を選ぶ際には、湿度や温度の調整機能などの追加機能の必要性を考慮する」という記載がなされた。同時に、寝具のカバーを選ぶ際にも、これらの必要性を考慮すること、加温する機器は皮膚や褥瘡に直接当てないことなども明記された。
「日本では冬に電気毛布が使用されることも多い。直接褥瘡に当たると代謝が亢進し、痛みを感じる可能性がある。こうした注意を推奨として使えるのではないか」と真田氏は話した。
「ドレッシング材=四角形」とは限らない
また、褥瘡の発生予防について、新ガイドラインには「予防的ドレッシング」という新しい概念が加わった。
従来ドレッシング材は、既に発生した褥瘡・創傷のケアに用いられてきたが、「今後は予防のためのドレッシング材が普及すると予測される」と真田氏。
ガイドライン上には「摩擦やずれにさらされやすい部位の褥瘡予防のために、骨突出部へのポリウレタンフォームドレッシングの貼付を考慮する」(エビデンスレベルB、以下B)と記載された。
折しも、国内外ではさまざまな形状のドレッシング材が販売されるようになってきた(写真1)。
(写真1)
真田氏は「これまで私たちは創傷に四角いドレッシング材を使ってきた。しかし、予防の点から考えると、動ける患者さんも多く、一人一人にできるだけフィットしたドレッシング材を選ぶ必要がある」とも付け加えた。
同様に、予防については、「摩擦やずれを軽減するために、綿や綿含有素材のものより、シルクのような素材のものを使うことを考慮する」(B)とも明記された。実際、「通常ケアのみの群」と比べて、「通常ケアに摩擦の少ない下着、靴下を併用した群」では、褥瘡の予防効果が高くなり、皮膚が脆弱な人100人当たり、約1200万円の医療費を削減できたことが報告されているという。
一方、医療機器の使用に伴って発生する「医療関連機器圧迫創傷」については、「周囲組織の圧に関連する損傷のサインがないか、医療関連機器の下や周囲の皮膚を1日に最低2回は観察する」(エビデンスレベルC:間接的なエビデンス[他の慢性創傷のヒトでの試験など]および/またはエキスパートオピニオン、以下C)と記載された。
加えてその対策として、
- (1)医療関連機器の下の皮膚は、乾燥させ清潔を保つ
- (2)圧分散や、ずれ力の軽減を目的に、個人に合わせて医療機器の位置を調整する
- (3)避けられない場合以外は、医療機器が直接皮膚に触れないようにする
と明記された(いずれもC)。医療機器が直接皮膚に触れないようにするため、海外ではジェル状のインターフェイスデバイスが用いられている。
そのほか、ガイドラインでは褥瘡の疼痛管理についても言及。
「疼痛を発生させうる処置の際はいつでも、『ちょっと休憩して!』と言ってよいことを(患者に)促す」(C)、「創部を覆って湿潤を保つことや、非固着性ドレッシングの使用により、疼痛を軽減する」(B)と記載された。
褥瘡に関する疼痛には、創部そのものの痛みだけでなく、体位変換後の同一体位による痛みもある。しかし、処置や体位変換で看護師から「もう少しで終わるから」と言われると、患者は「ちょっと休ませて」「元の体位に戻して」という言葉が言えなくなり、我慢してしまう。真田氏は「遠慮しがちな日本人患者には特に伝える必要がある」と話した。
また、日本でも増加傾向にある肥満患者については、「カテゴリーI、IIの褥瘡と、間擦疹性皮膚炎(ITD)を区別する」(C)ことの必要性が明記された。
肥満患者では、身体に加わった外力に皮膚が圧迫されて褥瘡が発生するだけでなく、自分自身の皮膚と皮膚が圧迫しあうことでも発生する。
こうした患者では、乳房の下、腋窩、頚部など、皮膚と皮膚が重なり合う部分の皮膚障害も褥瘡として扱われる。さらに排泄物などの湿潤環境が加わって発生する、失禁関連皮膚障害(IAD)も判別する必要がある。
NPUAP、EPUAP、PPPIAは、11月20日を「国際褥瘡対策の日」とし、医療従事者だけでなく国民に向けてのメッセージを出している。真田氏は「私たちも、創傷と褥瘡の予防について、もっと国民の理解が得られるような努力をしていかなければならない」と話した。
<掲載元>
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