「准看護師の養成は時代にそぐわない」|インタビュー◎どう考える?准看護師問題

 

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どう考える?准看護師問題

 

 

●インタビュー

准看護師の養成は時代にそぐわない―洪愛子氏(日本看護協会常任理事)に聞く

 

病院団体が「日本准看護師連絡協議会」の設立を表明したり、自民党の議員連盟が准看護師の養成促進を呼び掛けるなど、准看護師を巡る議論がにわかに活発になっている。看護職不足の解消を図るのが狙いのようだが、准看護師の養成について日本看護協会はどう考えているのか。常任理事の洪愛子氏に聞いた。

(聞き手:富永紗衣=日経メディカル)

 

洪愛子(こう・あいこ氏)◎日本看護協会常任理事

 

――地域の看護職が足りないから准看護師を養成すべき、という意見がありますが、日本看護協会の見解を聞かせてください。

「准看護師の新規養成は停止し、看護師に一本化すべき」というのが協会の考えです。

 

そもそも、准看護師制度は第2次世界大戦後に看護師が不足している状況下で創設されました。当時は高校進学率が低かったため、中学校卒業を入学要件としました。しかし医療技術の進歩と共に、看護のニーズは年々複雑化・多様化しています。求められる看護実践能力も高くなっており、従来の准看護師養成の教育水準ではもはや対応できなくなっています。

 

高校進学率が97%を超え、理学療法士や診療放射線技師、歯科衛生士など他の医療関係職種の養成も大学教育に移行する中、60年以上前に作られた准看護師制度が存続している方が問題です。

 

――准看護師と看護師の養成は、何が違うのでしょうか。

最短の修業年限が准看護師は2年、看護師は3年であり、履修時間や実習時間は当然違いますが、そもそも教育の目的が全く異なります。

 

看護師養成では、患者の全身をアセスメントして、自律的に判断し先を予測する能力を身に付けることが求められます。これに対し准看護師養成は「医師または看護師の下で安全に実施できる能力を養う」という、指示を受けて働くことを前提とした教育です。自律的判断は教育目的に含まれていません。

 

注射を例に挙げれば、准看護師は安全に実施する方法を中心に学びますが、看護師は安全な手技はもちろん、人体の構造や薬剤の薬理作用、体内動態も一通り学びます。到達内容や基礎科目が全く異なるわけです。また臨床での看護実践に欠かせない「看護過程」についても、准看護師養成課程では必修ではありません。

 

このように教育内容がかなり異なるにもかかわらず、准看護師は法律上では、指示の有無以外は看護師と全く同じことができてしまいます。養成所で学んでいないことを現場で求められるので、准看護師は各自の努力で学ぶしかなく、当人にとっても大変な負担になっているようです。

 

2006年に保健師助産師看護師法が改正され、看護師の名称独占が法律上で規定されたにもかかわらず、両者の区別がなされていない施設などが存在するというのもおかしな話です。准看護師も誠実に働いているからこそ、「この仕事はどこまでやっていいのか」という立場の曖昧さに葛藤があると聞いています。

 

地域医療にこそ看護師が必要

――社会人を中心に准看護師養成所への入学希望者が増えている、という話も聞きますが。

確かに入学者の中には、社会人経験者も多いようです。ただ、准看護師養成所の卒業生の約3割は、就業せずに看護師の養成課程に進学しています(図1)。就業しながら看護師を目指す人もいます。准看護師養成所に入学したものの、実際に授業を受けてみて看護師との違いに気が付き、進学している人もいるのだと思います。

 

准看護師養成所の卒業・進路状況(出典:平成25年看護関係統計資料集[日本看護協会出版会])

図1 准看護師養成所の卒業・進路状況(出典:平成25年看護関係統計資料集[日本看護協会出版会])

 

学費の面で2年制の准看護師養成所を選ぶ人もいるようですが、経済的負担についてはむしろ、3年制の看護師養成課程における授業料の減免策などを講じて解消すべきと考えます。

雇用保険法の改正により、看護師養成所の学費を補助する制度も開始されましたので(関連記事:存在感増す「社会人ナース」)、うまく活用できる環境を整える必要があるでしょう。3年間、学問だけに集中する時間が確保できないというのであれば、定時制4年課程など、時間をかけて学べる体制の整備も必要です。

 

また現役生について言えば、准看護師と看護師の違いをあまり理解しないまま、進路指導の先生方が「看護師よりも准看護師養成所のほうが難易度が低い」と安易に受験を勧めてしまう傾向もあるようなので、適切な情報提供も必要だと感じています。

 

――人手不足感の強い介護現場や在宅など、地域における准看護師の活躍を期待する意見もあるようですが。

高度急性期病院は看護師で、介護や在宅はあまり難しい判断は迫られないから准看護師で、というイメージがあるのかもしれませんが、現実は異なります。介護施設などは医師や看護職員が少ないため、1人での判断や予測が迫られる場面がむしろ多いのです。在宅においても、医療依存度の高い患者が急増していますし、診療所の外来で求められる機能も高まっています。

実際、診療所や介護施設などでは、准看護師よりも看護師の求人や就業者数が増えています。

 

つまり、地域医療にこそ資質の高い看護師が求められており、看護師側もやりがいを感じられる職場があれば進んで就職すると思います。

 

准看護師の看護師資格取得を推進

――准看護師を求める声の中には、「看護師不足を解消するため」というものがあります。

地域や施設によって看護師が充足していない、いわゆる偏在については、その根本に働き続けるのが難しい環境があるのだと思います。

ですから、働き続けられる環境の整備や潜在看護師の就業促進が重要だと考えています。今年10月から始まる離職者のナースセンターへの登録制度(関連記事:速報・医療介護総合確保推進法が成立)も、離職率を下げ就業を継続するための施策の1つです。

 

ちなみに潜在率については、看護師よりも准看護師の方が高く(2012年厚労省科研報告)、単純に准看護師の養成者数を増やしても効果的ではないと思います。

 

また2014年から始まった地域医療介護総合確保基金を、看護師養成を支援し離職を防ぐ事業に充てるよう、基金を運用する都道府県に対して働きかけているところです。例えば、新人看護師の研修制度に関連した事業に対する基金の交付が実現しています。

 

――協会としての今後の取り組みを教えてください。

まず、現在働いている准看護師の方々が看護師になるための支援をさらに充実させることが必要です。

 

協会でも、看護師学校養成所2年課程(通信制)進学者に対する奨学金制度を創設し、貸与額の増加や返還期間の延長を実施するなど充実を図っています。また、都道府県協会でも、准看護師を対象としたスキルアップ研修・交流会の開催など、支援に取り組んでいます。

 

准看護師の新規養成の停止については、単に養成所を廃止するのではなく、看護師課程への転換を目指して活動しています。既に福井県や沖縄県では転換が進み、結果的に准看護師養成を停止しました。

 

1996年に開かれた旧厚生省「准看護婦問題調査検討会」の報告書では、「21世紀初頭の早い段階をめどに、看護婦養成制度の統合に努める」と提言しています。しかし当時は法改正までは至らず、准看護師養成所のカリキュラムなどの見直しに留まりました。

 

看護師養成の一本化については、多くの会員からも要望が挙がっています。准看護師養成停止の必要性を、医師も含めた多くの関係者に理解していただくために、引き続き働きかけていきたいと考えています。

 

看護師へのアンケート結果

 

洪愛子氏プロフィール
こう あいこ氏◎日本看護協会常任理事。大阪大学医学部附属病院勤務を経て、2004年東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科博士課程修了(医学博士)。2000年日本看護協会に入職し、09年から現職。


 

 

●アンケート

看護師の7割が准看護師の養成促進に「反対」

当事者である看護師は、准看護師制度についてどう考えているのか。昨秋、日経メディカルAナーシングで看護師会員を対象に調査した結果、回答した124人中73%が准看護師養成の促進に「反対」と回答した(図A)。 

 

図A 准看護師養成の促進について

准看護師養成の促進に賛成?反対?

 

反対理由としては、「私は准看を経て正看となったが、教育内容に差がありすぎる」(臨床経験年数25年超、病院勤務)といった教育内容の差を指摘する声や、「准看と正看は違う。『とりあえず准看護師で』という考え方はやめてほしい。在宅を支えるなら、それこそしっかりしたアセスメント力や判断力が求められる」(同20~25年、訪問看護ステーション)といった、地域医療こそ看護師としての能力が必要との声が目立った。

 

一方、賛成意見には「49歳で准看護師の資格を取った。大卒看護師を増やすことも必要かもしれないが、働きながらでも取得できる、やる気のある者の進む道を閉ざさないでほしい」(同1~3年、介護系施設・事業所)など、社会人が看護師を目指す場合の受け皿として活用を願う声もあった。 

 

 

図B 准看護師養成制度について

 

准看護師養成制度そのものに対しては、「新規養成をやめた方がいい」とする看護師が全体の64%を占めた(図B)。それ以外の答えは、「看護師免許の取得を目指すことを条件にするなら、養成を続けてもいい」が19%、「これまで通り准看護師養成を続けたほうが良い」が14%だった。

 

そのほか、自由意見として「看護師における認定、専門、特定看護師のように、准看も業務範囲を区分して勤務領域を分けるなどするとよいと思う」(同25年超、介護系施設・事業所)といった、業務の範囲を明確にする要望が挙がっていた。養成制度は従来のままで良いとする看護師の中にも、実際の業務などについて何らかの制度改革を希望する人は少なくないようだ。 

 

主な「反対」理由

  • ●医師がすぐそばにいない「地域」だからこそ、緊急時に判断できるだけの知識と経験が必要になるので、准看の養成促進には反対。看護師より早く資格が取れるというのは、利点ではなく学ぶ機会が少ない欠点であると捉え、准看制度は廃止もしくは看護師資格取得までのつなぎと考える方が、日本全体での看護師のレベルアップにつながるのではないか。(臨床経験年数3~5年、病院)
  •  
  • ●以前、准看養成の講師をしていたが、学生の資質(主に学力)、設備(養成のための)、実習施設と指導者の不足など看護職の専門性を考えると現行の内容では賛成できない。(同25年超、企業の健康管理センター)
  •  
  • ●私は准看を経て正看となったが、教育内容に差があり過ぎる。准看教育はただ処置をこなすだけの看護教育。全人的に捉え生活支援者としての看護教育は准看学校ではされなかった。ただのお手伝いなら看護師ではない。(同25年超、病院)
  •  
  • ●正看と准看の業務内容は現場では同等であることが多いと感じる。であるなら、統一した教育内容で知識、レベルの差を少なくする方が臨床での看護提供にも差が出なくてよい。(同15~20年、自治体・公的機関)

 

主な「賛成」理由

  • ●看護師は今でも不足しており、今後さらに少子高齢化が進み不足が懸念される。准看でもできる業務内容は多くある。(臨床経験年数10~15年、病院)
  •  
  • ●他職種を経験し、30歳で准看学校に入学した。一度社会人になると正看の3年や4年の学校に入学するのは学力も含めてかなり難しい。また生活がかかっていると、3~4年も仕事なしで授業料を負担するのは困難。その点、准看学校は良い。また他職種経験者が看護師になるメリットも大きいし、何より仕事に対して真剣に取り組む(簡単には辞めない)人が多いと思う。(同5~10年、介護系施設・事業所)
  •  
  • ●地域では療養病棟、クリニック、介護施設で准看が勤務している。看護師における認定、専門、特定看護師のように准看も業務範囲を区分して勤務領域を分けるなどするとよいと思う。働きながら資格を取りたい人にも良い。(同25年超、介護系施設・事業所)

 

(調査概要)

日経メディカルOnline Aナーシングで看護師会員を対象にウェブアンケートを実施。期間は2014年8月19日~9月15日、回答数は124人。勤務先の内訳は、病院47.6%、大学などの教育・研究機関16.1%、自治体・公的機関7.3%、診療所・クリニック5.6%、企業などの健康管理センター4.8%、介護系施設・事業所4%、訪問看護ステーション3.2%、その他8.1%、働いていない3.2%。

 

 

<掲載元>

日経メディカルAナーシング

Aナーシングは、医学メディアとして40年の歴史を持つ「日経メディカル」がプロデュースする看護師向け情報サイト。会員登録(無料)すると、臨床からキャリアまで、多くのニュースやコラムをご覧いただけます。Aナーシングサイトはこちら

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