多嚢胞性卵巣症候群とは・・・
多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん、polycystic ovary syndrome;PCOS)とは、黄体ホルモン(luteinizing hormone;LH)高値によりアンドロゲンの産生が亢進し、卵胞発育不全、多嚢胞卵巣、月経異常、男性化兆候などを来す内分泌疾患のことである。
原因・病態・症状
多嚢胞性卵巣症候群の詳しい原因はまだ分かっていない。
発症機序としては、以下の2つがある。
(1)視床下部ホルモンであるゴナドトロピン放出ホルモン(gonadotropin releasing hormone;GnRH)高値により、女性ホルモンである黄体ホルモン産生が亢進する。これにより、卵巣細胞の莢膜細胞(きょうまくさいぼう)が増殖し、莢膜細胞が男性ホルモンであるアンドロゲン産生を亢進する。
アンドロゲンにより卵巣の発育が阻害され、また卵巣を覆う白膜が肥厚することで排卵困難、多嚢胞卵巣、月経異常を来し、さらには男性ホルモンそのものの作用である男性化兆候(多毛、にきび、声の低音化など)が生じる。
(2)肥満によりインスリン抵抗性(脂肪細胞が産生する物質によりインスリンが効きにくくなる状態)が上昇し、高インスリン血症となるためアンドロゲン産生が亢進する。
上記病態に加えて卵胞刺激ホルモン(follicle-stimulating hormone;FSH)産生抑制や、副腎でのアンドロゲン産生などが関係している。生じる主な症状は、(1)と同様である。
検査・診断
以下の必須項目を全て満たす場合に多嚢胞性卵巣症候群と診断される。
(1)月経異常
(2)多嚢胞卵巣
(3)血中アンドロゲン高値、または黄体ホルモン(LH)基礎値高値かつ卵胞刺激ホルモン(FSH)基礎値正常
必要な検査として、卵巣超音波検査、血液検査で上記ホルモン値の測定を行う。
治療
患者の挙児希望の有無で治療方針が異なる。
肥満(BMI≧25)を伴っている場合は、挙児希望の有無にかかわらず、まず減量が推奨される。
挙児希望あり
排卵異常による妊娠困難例が多いため、排卵誘発法を行う。第一選択としてクエン酸クロミフェンの経口投与を行う。無効の場合はゴナドトロピン療法(hMG注射薬投与)あるいは手術療法(後述)を行う。ゴナドトロピン療法では一度に多数の卵胞が大きくなるため、多胎妊娠や卵巣腫大に伴う卵巣過剰刺激症候群(ovarian hyper stimulation syndrome 以下OHSS)が発生しやすい。
排卵誘発に抵抗を示す場合は、腹腔鏡下卵巣多孔術などの手術療法を行う。永久的効果は望めないものの、卵巣表面に多数の穴を開けることにより排卵しやすくする手術である。
挙児希望なし
無排卵の結果エストロゲン単独分泌が続けば子宮体がんのリスクが高まるため、検査結果に合わせて、ホルムストロム療法や療法や低用量ピルなどによるホルモン治療を行う。