血圧低下時の対応として、必ずしも下肢挙上がよいわけではない…なぜ?

『エキスパートナース』2017年3月号<バッチリ回答!頻出疑問Q&A」>より抜粋。
血圧低下時の下肢挙上について解説します。

 

岩本満美
北海道大学病院看護部

 

血圧低下時の対応として、必ずしも下肢挙上がよいわけではない…なぜ?

 

下肢挙上により、心拍出量の増大・動脈血圧の上昇がそれほど期待できないとする研究もあります。
“一時的に血流を保持するための対応”であることに注意し、すぐに原因別対応に移行することが必要です。

 

〈目次〉

確認しておこう:下肢挙上の「目的」

下肢挙上は血管迷走神経反射による血圧低下に効果があり、ショック時の応急処置として実施されることがあります。

 

それではなぜ血圧が低下したとき下肢挙上を行うのでしょうか?

 

それは、脳血流を保持するためです。脳血流が低下すると、脳が虚血状態になり不可逆的な障害を残します。ショック時の下肢挙上は、まず脳血流を保持することを最優先として行われます。

 

確認しておこう:下肢挙上による「効果」

下肢挙上は、重力によって下肢の静脈血が右心房圧を増大させることにより、心拍出量が増大し、それにより動脈血圧を上昇させると考えられています。

 

しかし、下肢挙上時の心拍出量は、仰臥位と比較して、20秒後に増大するものの、7分後には仰臥位と同様になることが報告されています1。また、下肢挙上時の心拍数および1回拍出量は仰臥位姿勢時と明らかな差がなく、増大した下肢からの静脈血は腹部の下大静脈に貯留され、下大静脈に貯留される血液量が心臓への還流量を調節する可能性があるという報告もあります2

 

したがって下肢挙上は「①単純に下肢の静脈還流が心拍出量を増加させ血圧上昇させているというわけではないこと」「②下肢挙上がいつまでも血圧上昇に効果があるわけではないこと」も押さえたうえで実践することが大切です。

 

下肢挙上が役立つ場面

下肢挙上は、緊急時の応急処置として簡便であり、例えば以下の場面で多く用いられます。

 

  • 採血時の「VVR(血管迷走神経反射)」
  • 血圧低下を伴う「失神
  • 透析導入時の「低血圧

しかし、ショックに対しては、次の治療につなげるまでの時間稼ぎでしかありません。分類別にその影響を見てみましょう(表1)。

 

表1ショックの分類別治療

ショックの分類別治療

 

「①循環血液量の不足によるショック」では、下肢挙上は一時的ですが効果があるといえます。「②血液分布異常性ショック」の場合も、末梢血管抵抗が低下することで、静脈に血液が貯留され静脈還流が減少し、その結果、循環血液量が減少する病態であるため、下肢挙上によって心拍出量を増加させることは効果があるといえます。

 

心不全を伴う「③心原性ショック」、あるいは「④閉塞性ショック」の場合、前負荷が必要になります。したがって、下肢挙上による心拍出量の増加は、応急処置として適切です。

 

なお、心原性ショックで急性左心不全を起こした場合、“前負荷を増やすこと”は本来の治療とは逆行します。しかし、ショックによる脳虚血を防ぐための下肢挙上は行われます。本来の治療である薬剤投与、補助循環まで脳血流を保持するために実施します。

 

***

 

下肢挙上はあくまでも応急処置です。同時に意識・呼吸の確認を行い、血圧低下の原因をアセスメントし、ショックを離脱すべく治療が必要です。

 


[引用文献]

 

 


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P.17~18「血圧低下時の対応として、必ずしも下肢挙上がよいわけではない…なぜ?」

 

[出典] 『エキスパートナース』 2017年3月号/ 照林社

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