熱中症【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【15】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
→熱中症【ケア編】はこちら
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
〈目次〉
熱中症ってどんな疾患?
熱中症は湿度も関係する
熱中症は主に夏に発症するものです。毎年、6~9月までの間に30~40万人の熱中症患者が発生しています。特に、高齢者が熱中症を起こすと重症化することが多くあります。
表1に示すように、人間の体は体温を調節する機能が4つありますが、そのうち最も大きな役割を果たしているのが「汗による蒸発」です。暑い時には人間は汗をかき、それが蒸発する時に生じる「気化熱」によって熱が体外に放出され、体温が下がります。しかし、外気の湿度が高いと気化熱は生じにくくなり、その分体温の調節機能が低下します。熱中症が湿度の高い梅雨時に発症しやすい理由はここにあるわけです。
そのほかにも放散や対流、伝導という熱の処理方法がありますが、これらはいずれも気温が生体より高い場合には効果が薄くなります。このため、熱中症は気温の高い日に発症しやすくなります。また、気温が1日で3℃以上、上昇した日には熱中症患者は急激に増加します。
そのため、熱中症の発症しやすさは単に気温だけではなく、①気温、②湿度、③日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境を取り入れた指標、「暑さ指数(WBGT=湿球黒球温度)」で評価されます。暑さ指数が28℃を超える場合(外気温の目安で31℃以上)は、すべての生活活動で熱中症を生じる危険性があります。
熱中症とは
熱中症とは、日本救急医学会の熱中症診療ガイドライン(1)には「暑熱環境における身体適応の障害によって起こる状態の総称」と記載があります。つまり、「暑さによって体に何らかの症状が出る中で、ほかの原因となる疾患を除外したものを熱中症と診断する」とされています。熱の産生が熱の喪失を上回った時に生じるということでもあります。
熱中症の分類
熱中症の分類については、日本救急医学会が示す熱中症分類(図1)があります。
この分類は、現場での応急処置で対応可能かどうか(Ⅰ度)、救急搬送が必要かどうか(Ⅱ度)、入院が必要かどうか(Ⅲ度)、の3点に主眼が置かれています。身体所見や症状、検査所見から分類されるのは、熱失神、熱痙攣、熱疲労、熱射病の4つの病態があります(表2)。これら4つの病態が、日本救急医学会の推奨する熱中症分類のどれに当たるかについても図1に示されています。
熱中症の処置・治療法
熱中症の診断
暑い環境の中で何らかの症状が生じた場合には、まず熱中症を鑑別に挙げます。熱中症の症状としては、めまい、失神、こむら返り、意識障害、頭痛、嘔吐など、さまざまです。また、体温上昇は重要な手がかりではありますが、体温が上昇していないからといって熱中症を否定はできません。熱中症を発症する危険因子としては、表3に示すようなものがあります。
つまり、高齢で弱った人が熱中症に陥りやすいということです。
特に、抗精神病薬や鎮静薬など、抗コリン作用を持つ薬剤を服薬している場合、発汗が抑制されるために、熱中症を発症しやすくなります。
しかし、熱中症診断は高齢者には困難な場合があります。高齢者は重症化するまで症状がでないことがあり、一旦診断されたときには重症熱中症ということを多く経験します。
熱中症の検査所見
検査所見に異常が出るのは、ほとんどが重症熱中症の場合です。血液検査では血液濃縮、すなわち、Hb(ヘモグロビン)、Hct(ヘマトクリット)の上昇がよく見られます。腎機能障害(急性腎障害)、肝機能障害が見られることもあります。時に横紋筋融解症が見られることもあります。凝固機能障害が出現すれば、最重症と考えて対応すべきです。
熱中症の治療
病院前救護での対処法
病院前救護における熱中症に対しては、まず水分の補充が重要です。汗でナトリウムを中心とした体液が失われているため、塩分を含んだ水分(経口補水液)の摂取が、一般的に勧められています。
水分のみの補充では低ナトリウム血症がむしろ進行し、痙攣が起こりやすくなるといわれています。患者は涼しいところ(木陰、室内など)に移動させましょう。
もし、熱中症が重症であり、高体温と分かったら、大量の水を噴霧させるなどして、できるだけ早期から冷却処置を行う必要があります。
病院での治療(表4)
熱中症で体温上昇を来している場合、できるだけ早期に熱を下げる必要があります。高体温の時間が長くなると予後が悪くなるためです。これについては体温モニターが必要です。
体温モニターは表面体温ではなく、深部体温で測定する必要があります(表5)。
深部体温は直腸、膀胱、血液などの温度を指します。一般的には直腸温か、膀胱温を測定することが多いと思います。目標体温は38℃台です。
冷却方法として特別に推奨されているものはありませんが、液体浸漬、水を噴霧して風を送る水冷式体表冷却、アルコール冷却などが現実的です。血管内冷却カテーテルを用いた深部冷却もあります。
熱中症は循環血液量が減少していることが多く、十分な輸液が必要となります。輸液は失われた細胞外液成分が中心となりますので、リンゲル液が初期治療液として適切です。また、深部体温が39℃以上の場合には冷却輸液を行います。
熱中症における臓器障害は循環、肝、腎、中枢神経、凝固機能異常などがあります。これらに対する治療で特異的なものはなく、体温コントロールと輸液に加えて対症的に行われます。例えば、急性腎障害では血液浄化療法、中枢神経障害には脳低温療法、凝固機能障害には補充療法などが行われることがあります。
・熱中症は暑い・じめじめする時に多く発生します。
・体温が低いからといって熱中症は否定できません。病歴を重視しましょう。
・高齢者は重症化しやすいものです。高齢者で熱中症を考えたら、気管挿管や人工呼吸、昇圧剤など、十分にサポートできる準備を行いましょう。
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子