食中毒【疾患解説編】|気をつけておきたい季節の疾患【9】
来院された患者さんの疾患を見て季節を感じる…なんて経験ありませんか?
本連載では、その時期・季節特有の疾患について、治療法や必要な検査、注意点などを解説します。また、ナースであれば知っておいてほしいポイントや、その疾患の患者さんについて注意しておくべき点などについても合わせて解説していきます。
→食中毒【ケア編】はこちら
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
〈目次〉
- 食中毒ってどんな疾患?
- 食中毒の原因と分類
- 細菌性食中毒
- 自然毒による食中毒
- ヒスタミン中毒
- 食中毒の処置・治療法
- 問診により原因菌が分かることもある
- 食中毒の治療
- 食中毒の予防
- ナースに気をつけておいてほしいポイント
食中毒ってどんな疾患?
食中毒とは、食べた食物に含まれる毒素によって引き起こされる疾患です。季節性があり、夏に多く発生すると思われがちですが、食中毒で最も多いノロウイルスは冬期に好発します。主な症状は腹痛、吐き気、嘔吐、下痢であり、発熱は来すものとそうでないものがあります。
食中毒の原因と分類
食中毒の原因は、細菌、ウイルス、自然毒、化学物質(ヒスタミン)、寄生虫などがあります(表1)。
食中毒の発生しやすい要因として、最近の旅行(特に海外)、野外活動における飲水、水産物や非加熱・不十分な加熱食品の摂取などがあります。また、学校や老健施設、保育園などはいったん発生すると集団発生となる危険があります。
今回は、細菌性食中毒としてよく診る可能性が高いものや自然毒による食中毒を中心に解説します。なお、ウイルス性食中毒であるノロウイルスについては、9月に掲載予定ですので、詳細はそちらに譲ります。
細菌性食中毒
細菌性食中毒の原因菌はさまざまで、大きく感染型と毒素型に分類されます。食品内で細菌が産生した毒素を食品と共ともに摂取して食中毒を起こすのが毒素型、一定菌数以上にすでに増殖した細菌を食品とともに摂取して食中毒を起こすのが感染型です。
細菌性感染型食中毒
細菌性感染型食中毒には、サルモネラ、赤痢菌、コレラ菌、カンピロバクター、大腸菌などがあります。
細菌性感染型食中毒は、食物中に細菌が存在し、それを食べた後に毒素を産生します。症状として嘔吐は少なく、腹部の疝痛がしばしばあります。毒素は食物または便から検出されることが多いです。
細菌性毒素型食中毒
細菌性毒素型食中毒には、黄色ブドウ球菌やセレウス菌、ボツリヌス菌などがあります。食品内ですでに毒素が形成されているため、潜伏期は短く(1~6時間)、症状としては嘔吐や下痢が多く、発熱を来すのはまれです。食べずに残った食物から毒素が検出されることが多いです。
自然毒による食中毒
フグ毒
フグ毒はテトロドトキシンという神経毒で四肢体幹の横紋筋が麻痺し、放置すれば呼吸停止を来して死に至ります。トラフグの卵巣が有名ですが、ほかのフグや一部の巻き貝にもテトロドトキシンは含まれており、素人の知識で食べるのは危険です。また、テトロドトキシンは加熱しても失活しません。
麻痺性貝毒、下痢性貝毒
二枚貝の中には麻痺や下痢毒を有するものがあります。主に二枚貝(ホタテガイやカキ、アサリなど)は、毒素を持った植物プランクトンを餌として食べ、体内に毒素を蓄積させます。すなわち、季節や地域によって、同じ貝を食べても食中毒となる例もあればそうでない例もあるということです。毒素が蓄積した貝類を人が食べると、下痢や麻痺といった症状を引き起こすことがあります。
シガテラ毒、パリトキシン
シガテラ毒はドクウツボ、オニカマス、バラフエダイ、イシガキダイなどに含まれる神経毒です。パリトキシンはアオブダイやハコフグに含まれる横紋筋融解症を来す毒です。
植物性自然毒
植物性自然毒の中で最も有名なのは毒キノコです。キノコ毒はさまざまな症状を呈します。神経麻痺、溶血、急性脳症、肝不全、幻覚、けいれん、下痢などです。
ヒスタミン中毒
ヒスタミンは、赤身魚に多く含まれるヒスチジンに酵素が作用して変換されることで生成します。そのため、ヒスチジンが多く含まれる食品(まぐろ、かつお、さばなど)を常温に置くとヒスタミンが生成され、これを食べることで全身の発赤や血圧低下が生じます。ヒスタミンは熱に強く、一度生成されると防ぐことはできません。
食中毒の処置・治療法
問診により原因菌が分かることもある
下痢を来す食中毒では、問診により原因菌の手がかりが発見されることがいくつかあります。
例えば、最近、「海外旅行に行った」という場合には、サルモネラ、赤痢菌、コレラ菌、カンピロバクター、大腸菌が疑われます。「十分に加熱調理していないハンバーガーを食べた」ということからは、志賀毒素を産生する大腸菌が、「油で揚げた米を食べた」ときにはセレウス菌が疑われます。また、厳密には食中毒には分類されませんが、最近の入院歴や、抗菌薬投与があった場合の下痢症ではクロストリジウムディフィシル(Clostridium difficile)が疑われます。
表2は潜伏期間別にまとめた食中毒原因菌の一覧です。潜伏期間を厳密に分類することは不可能ですが、大まかな指標として知っておくと良いでしょう。
消化器症状以外の症状を呈する食中毒では、ビブリオ・バルニフィカス(Vibrio bulnificus)があります。これは特に夏期、肝硬変症や糖尿病が基礎疾患としてある人が、主に海産物を生食することで発症し、死亡率の高い感染症です。その症状としては、四肢や体幹に水疱を伴う紫斑が出現し(図1)、急速に敗血症から敗血症性ショックに移行します。
食中毒の治療
細菌性およびウイルス性食中毒の治療は、基本的にはバイタルサインを維持するよう、対症療法を行うことが中心です。
食中毒では、繰り返しての嘔吐や下痢を来すことから、脱水症状に陥る可能性があるため、対症療法として電解質を含む水分を投与することが重要で、経口摂取または点滴静注で行われます。なお、下痢を来しているからといって、止痢薬などでこれを止めることは毒素を腸管内にとどめておくことになり、推奨されません。
ブドウ球菌やセレウス菌、クロストリジウム感染では抗菌薬治療の必要はなく、対症療法のみとなります。また志賀毒素産生型の大腸菌は、抗菌薬を投与することで溶血性尿毒症症候群(HUS)発症のリスクが上がるといわれているため、抗菌薬投与は勧められていません。ボツリヌス中毒では抗毒素投与が行われます。
抗菌薬が必要あるいは有効といわれる食中毒には、大腸菌(腸管毒素型)、コレラ菌、赤痢菌、カンピロバクター、エルシニアがあります。サルモネラ患者への抗菌薬投与は、全身への播種症状があったり、免疫能が低下した場合に考慮されます。
ノロウイルスやロタウイルスには抗菌薬や抗ウイルス薬は投与されません。
さらに、自然毒による食中毒のほとんどにおいては、拮抗薬や抗毒素といった特異的な治療はありません。対症療法のみとなります。
食中毒の予防
食中毒は、汚染した手から伝播することも多いため、予防として手洗いや、食品を扱う場合は手袋を着用することが重要です。
また、肉類による食中毒は加熱で殺菌されることが多いため十分に加熱すること、さらに外気温・湿度が高い場合には細菌増殖・毒素産生が促進されるため、このような環境に食物を置かないことが重要です。
嘔吐や腹痛というのは、非特異的な腹部症状なので、まず食中毒以外の疾患を考慮する必要があります。病歴聴取で食中毒の可能性がある場合には、いつ・どこで・何を・誰と食べたかを聞いておくことは重要です。また、最近の旅行歴がある場合は、危険な食中毒が考えられます。食物摂取歴は、当日の食事から少なくとも1週間前の食事まで聞くようにしましょう。
学校や施設、会社食堂など集団生活の下で発症した可能性があるときには、集団発生として救急外来での対応が必要となることも考えなければいけません。特に、便を通じて感染性を持つ食中毒(コレラ、赤痢菌、ロタウイルス、ノロウイルスなど)には、伝播しないような注意が必要です。食中毒の疑いで下痢を来して受診した患者に対しては、便の扱いに十分配慮しましょう。医療従事者は、手洗いを徹底した接触予防策が重要となります。
[参考文献]
- (1)Maxine A. Papadakis,et al.Current medical diagnosis and treatment 2017.McGraw-Hill Education,2016,1305-08.
- (2)青木 眞.レジデントのための感染症診療マニュアル.第3版.医学書院,2015,1600p.
- (3)厚生労働省ホームページ.食中毒.
[監 修]
辻本登志英
日本赤十字社和歌山医療センター 集中治療部長 救急部副部長
芝田里花
日本赤十字社和歌山医療センター 副看護部長 救命救急センター看護師長
[Design]
高瀬羽衣子