コンパートメント症候群|“コレ何だっけ?”な医療コトバ
『エキスパートナース』2015年4月号(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
コンパートメント症候群について解説します。
織田 順
東京医科大学病院救命救急センター長/主任教授
コンパートメント症候群とは・・・
- 救急領域でよく聞くコトバ
- 急激な6つの「P」症状に注意
- ギプスでの腫れが原因で起こることも!
〈目次〉
コンパートメント症候群(compartment syndrome、区画症候群)とは?
コンパートメント症候群(compartment syndrome、区画症候群)とは、骨・筋膜・骨間膜に囲まれた“隔室”の内圧が、骨折や血腫形成、浮腫、血行障害などで上昇して、局所の筋・神経組織の循環障害を呈したものをいいます。
コンパートメント症候群はなぜ起こる?(メカニズム)
「コンパートメント」は区切られた小部屋・隔室の意味で、「区画」と表現されることもあります。コンパートメント症候群と区画症候群は同義です。
上述の、隔室を構成する骨・筋膜・骨間膜はいずれも強靱ですから、この中に出血、浮腫などが起こると圧上昇をきたします。したがって、この中を通る血管や神経は圧迫され障害されます。循環障害により壊死をきたしたり、神経障害が後遺障害となることもあります。
特に前腕に起こるものは「Volkmann拘縮」(図1)と呼ばれ、よく知られています。
コンパートメント症候群はどんなとき起こる?
コンパートメント症候群は骨折・脱臼などの外傷で起こることが多いです。
ほかにも、主要血管の損傷、重症熱傷、電撃傷、蛇咬傷でも急激な腫脹をきたし、コンパートメント症候群に至ることがあります。
さらに医原性のものとして、ギブス固定後に腫脹をきたしたものや、包帯による過度の圧迫に注意すべきです。
コンパートメント症候群ではどんな症状が出る?
コンパートメント症候群は急激に発症する「P」症状(表1)が特徴的です。
表1コンパートメント症候群の急性期の症状
コンパートメント症候群のポイント
“長時間の圧迫”のあとにも起こりやすい
上記の外傷のほかに、長時間の圧迫(圧挫)により起こるものにも注意しなければなりません。
例えば脳血管障害や薬物中毒、代謝障害や偶発性低体温症などが原因となり、「長時間同じ体位をとっていた」際には、圧挫面が褥瘡となることと同様に、体の一部で挟まれた四肢にコンパートメント症候群を生じることがしばしばです(図2)。
関連する「クラッシュ(圧挫)症候群」に注意
圧挫が広範囲・長時間になると、筋挫滅による細胞崩壊により、細胞内部からカリウム、ミオグロビンが流出し、高カリウム血症、ミオグロビン尿症、急性腎不全などをきたします。
さらに傷害された細胞が膨化して、浮腫を形成するため、大量の体液シフトを生じショックに陥る、といった全身症状を伴う「クラッシュ(圧挫)症候群」の状態となります。
この場合、適切な処置を講じなければ、しばしば致死的です。
コンパートメント症候群にはどう対応する?
コンパートメント症候群への対応
血行の改善を図るべく、包帯やギプスが強すぎるなら除去し、患肢を挙上することになります。ただし挙上しすぎると血流が悪くなるので、適度な挙上に留めます。
骨折、脱臼が残存していれば整復、それでも循環不全が改善しない場合には筋膜切開による減張切開となります。
いつ減張切開を決めるかは、末梢の血流をドップラーで検出したり、直接的に筋に針を穿刺して圧モニターと接続しコンパートメント圧を測ったりします。
クラッシュ(圧挫)症候群への対応
ショック、高カリウム血症、ミオグロビン尿症などの全身症状を呈する場合には、集中治療が必要となります。
厳密なモニタリング、大量輸液、ときに緊急血液浄化と進むことになります。
本記事は株式会社照林社の提供により掲載しています。/著作権所有 (C) 2015 照林社
P.30~「コンパートメント症候群」
[出典] 『エキスパートナース』 2015年4月号/ 照林社