副雑音の特徴|基礎編(7)

 

聴診器を使用する際のコツや、疾患ごとの聴診音のポイントについて、呼吸器内科専門医が解説します。
構成は、聴診器の使い方から呼吸器の構造を解説した【基礎編】と、疾患の解説と筆者が臨床で遭遇した症例の聴診音を解説した【実践編】の2部に分かれています。基礎編は全8回にまとめましたので、初学者はまずはここからスタートしてください。

 

[前回の内容]

正常な呼吸音の特徴|基礎編(6)

 

第7回目は、「副雑音の特徴」についてのお話です。

 

皿谷 健
(杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授)

 

これまでの解説で、正常な呼吸音の特徴と副雑音の分類については理解できたと思います。

 

はい。健康なヒトだと、気管と気管支領域で高い音が聴こえて、肺胞領域では低い音が聴こえます。
反対に、例えば、喘息の患者さんだと、健康なヒトでは音が低く聴こえる肺胞領域で、高い音が聴こえたりします。

 

完璧です! それでは、ここで副雑音の特徴をマスターしておきましょう。

 

頑張ります。ここをマスターすれば、次はいよいよ実践的なお話に入るんですね。

 

今回の解説を入れて、基礎編も残すところ、あと2回です。
音の解説は今回が最後になるので、実践編に行く前にわからないことがないよう、しっかりと覚えておいてください。

 

〈目次〉

 

副雑音にはラ音と胸膜摩擦音がある

副雑音にはラ音と胸膜摩擦音があり、ラ音は捻髪音、水泡音、笛音、いびき音の4つに分けられます。ラ音にはさまざまな特徴や細かな違いがありますが、重要なポイントのみで構いませんので、覚えておいてください。

 

太い気管支では低いラ音が聴こえる

それぞれのラ音の詳しい特徴については後述しますが、まずはそれぞれのラ音の音の高さの違いについてはとても大切ですので、まずは表1を覚えてください。

 

表1ラ音と音の高さ(周波数)の関係

 

 

ラ音の種類 音の高さ(周波数) 発生部位
水泡音・いびき音 低い音(低調性) 太い気管支
(中枢速の気管支が太い部位)
捻髪音・笛音 高い音(高調性) 細い気管支
(末梢の気道径が狭い部位)

太い気管支で発生するラ音は低い音が聴こえ、細い気管支では高い音が聴こえます。

 

音の高さと持続時間が異なる捻髪音と水泡音

代表的な副雑音というと、捻髪音と水泡音が挙げられます。カルテや看護記録でも、これらの名前を見たことがあると思います。この2つの音の特徴は、表2の通りです。

 

表2捻髪音と水泡音の特徴

 

 

  捻髪音 水泡音
音が聴こえるタイミング 吸気(後半にかけて強くなる) 吸気初期または初期~中期、吸気全般で同様、呼気相で聴取することもある
音の聴こえ方 チリチリ、パリパリ ゴロゴロ、プツプツ
音の高さ(周波数) 高音
(500-1,000Hz)
低音
(250-500Hz)
長さ 5msec 15msec
呼吸の影響 深吸気で増強 少ない
体位(重力)の影響 腹臥位で減弱、仰臥位で増強 なし
咳嗽の影響 消失しない 分泌物が原因であれば減弱、消失することがある(いびき音と同様に)
主な原因疾患 過敏性肺炎、特発性肺線維症、じん肺、膠原病肺、放射性肺炎 肺水腫、急性呼吸窮迫症候群、肺炎、びまん性汎細気管支炎、気管支拡張症、慢性気管支炎

音の高さ(周波数)の違いが注目ポイントです。

 

捻髪音と水泡音の最も大きな違いは、音の高さ(周波数)です。捻髪音は高い音、水泡音は低い音という特徴があります。また、もう一つの特徴的な違いは、音の持続時間です。捻髪音の長さは約5msec(0.005秒)で、水泡音の長さは約15msec(0.015秒)です。つまり、水泡音の方が長く聴こえます

 

捻髪音は、「チリチリ、パリパリ」という音が聴こえます。水泡音は、吸気初期または全吸気時に「ゴロゴロ、プツプツ」という音が聴こえるのが特徴です。捻髪音は呼気時に閉塞した末梢気道が吸気時に開放する音水泡音は気道内の水泡がはじける音と覚えましょう。

 

なお、水泡音は、末梢肺(肺胞または間質領域の病変)でも聴こえるという例外があることに注意してください。

 

memo「msec」は1,000分の1秒

msecとは、時間の単位のことで、「ミリセコンド」と読みます。1msecは、1,000分の1秒です。そのため、5msecは、0.005秒になります。

 

目指せ! エキスパートナース疾患によって聴こえる音の高さは違う

疾患によって、聴診で聴こえる音の高さ(周波数)は異なると言われています。

 

Dr. Munakataらは、特発性肺線維症(idiopathic pulmonary fibrosis:IPF)の患者さんの聴診音は高い音(高周波数)で、慢性気管支炎(chronic bronchitis:CB)の患者さんの聴診音は低い音(低周波数)になると文献に示しています(1)

 

音の発生位置が異なる笛音といびき音

捻髪音や水泡音のほかに、異常な呼吸音として、笛音といびき音があります。この2種類の音の特徴は、表3の通りです。2つの音の最も大きな違いは、音が発生する場所(狭窄している部位)が異なることです。

 

表3笛音といびき音の特徴

 

 

  笛音 いびき音
呼吸相 主に呼気終末期 主に呼気、吸気でも聴取
音の聴こえ方 ヒューヒュー、キューキュー、ピーピー グーグー
音の高さ(周波数) 高音
(400Hz以上)
低音
(200-250Hz以下)
狭窄部位 細くて硬い気道 太くて柔らかい気道
病態 気道狭窄 気道狭窄、気道内分泌物
主な原因疾患 気管支喘息、COPD、うっ血性心不全、分泌物の貯留、(腫瘍による狭窄) 気管支喘息、COPD、慢性気管支炎、DPB、気管支拡張症、分泌物の貯留、腫瘍による狭窄

 

笛音は、末梢側の細くて硬い気道で音が発生するため、比較的、病変部に限局した音になります。そのため、喀痰などの分泌物の影響をあまり受けません。これは、咳払いをしても音が変わらないということです。

 

いびき音は、より中枢の気道で音が発生します。そのため、気道内の分泌物の影響を受けやすく、咳払いをした後には音が弱くなることがあります。

 

memo喘息の患者さんは笛音を確認しよう

喘息の患者さんの90%のヒトで、頸部で笛音が聴こえます。喘息の患者さんを聴診する場合には、笛音の確認と、咳払いをしても音が変わらないかどうかを確認してみましょう。

 

なお、患者さんによっては、音の高さや持続時間が異なるという例外を覚えておいてください。

 

memo時報放送の音の高さと笛音の高さの関係

NHKの時報放送は、440Hzと880Hzの2つの音を組み合わせた独特の音(プッ、プッ、プッ、ピーン)です。笛音は、この“プッ”(440Hz)と同等か、または高い音として覚えておきましょう。

 

(ファイル:Time Signal.ogg - Wikipedia. より引用)

 

笛音といびき音の区別が付かない場合は諦めも肝心

笛音といびき音を区別するための簡単な分類図が図1です。音を区別する際には、この図を思い出してください。

 

図1笛音といびき音の分類図

 

笛音といびき音の分類図

 

このように、笛音といびき音にはそれぞれ特徴があります。しかし、聴診をしていると、どちらの音に分類すれば良いか迷う時があります。これは、私たち、人間の能力(聴力)に限界があるため仕方がないことです。特に、私たちの耳は、200-400Hzの間の音を聴き分けることを苦手としています。

 

そのため、音を聴いてみて、笛音かいびき音か、どうしてもわからない場合は、聴き分けることを諦めて、どちらかの音に割り切ることも大切です。その後、ドクターや上司に相談しましょう。

 

目指せ! エキスパートナース笛音といびき音を判定する研究

臨床現場で、笛音かいびき音かを判定するのは難しい場面があります。

 

このような場合、Dr. 塩谷らは、呼気時間が長くなる(呼気延長)場合は笛音と判定して、呼気延長がない場合はいびき音として判定すると良いと述べています。

 

また、患者さんにを行ってもらい、聴診音が変化する場合はいびき音であると判断できると解説しています(2)ので、参考にしてください。

 

胸膜摩擦音は胸膜が擦れ合う音

胸膜摩擦音は、肺に密着している内側の膜である臓側胸膜と、その外側の膜である壁側胸膜が触れて擦れ合う音です(表4)。

 

表4胸膜摩擦音の特徴

 

 

音が聴こえるタイミング 吸気時
音の聴こえ方 バリバリ、パリパリ、ギュギュ
音の特徴 やや高い音(靴底の軋む音、雪を握るような音など)
病態 臓側胸膜と壁側胸膜が呼吸に応じて付いたり剥がれたりすることが原因
主な原因疾患 胸膜炎の炎症初期や吸収期

*胸膜摩擦音はYoutubeでも公開されています(『Breath Sounds』)。

 

memo胸膜と胸腔の関係

肺には、肺に密着している内側の膜の臓側胸膜と、その外側の膜の壁側胸膜があります(図2)。これらの膜と膜との間の空間を胸腔といいます。

 

図2臓側胸膜と壁側胸膜の位置

 

臓側胸膜と壁側胸膜の位置

 

この胸腔内で発症する代表的な疾患には、胸膜炎や気胸などがあります。

 

Check Point

  • 捻髪音は高い音で、水泡音は低い音。また、音の持続時間は水泡音の方が長い。
  • 笛音といびき音は、音が発生する場所が異なる。
  • 胸膜摩擦音は、胸膜炎の患者さんなどで聴こえる。

 

実際に聴こえる副雑音は、この後に解説する実践編で詳しく紹介します。
さまざまな疾患の患者さんの実際に聴こえる音を紹介していきますので、楽しみにしていてください。

 

[次回]

聴診器を当てるべき場所(疾患別)|基礎編(8)

 

 


[文 献]

 

 


[執筆者]
皿谷 健
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科臨床教授

 

[監 修](50音順)
喜舎場朝雄
沖縄県立中部病院呼吸器内科部長
工藤翔二
公益財団法人結核予防会理事長、日本医科大学名誉教授、肺音(呼吸音)研究会会長
滝澤 始
杏林大学医学部付属病院呼吸器内科教授

 


Illustration:田中博志

 


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