嗅覚検査|耳鼻咽喉科系の検査
看護師のための検査本『看護に生かす検査マニュアル』より。
今回は、嗅覚検査について解説します。
高木 康
昭和大学医学部教授
〈目次〉
嗅覚検査とはどんな検査か
鼻疾患あるいは中枢疾患により、器質的な変化が嗅覚器官のどこかに起こったり、機能的に嗅覚異常が起こり嗅覚障害をきたす。
嗅覚脱失および嗅覚減退
最も多く頻発する。原因には末梢性のものと、中枢性のものとがある。
(1)末梢性嗅覚障害
- ①呼吸性嗅覚障害
嗅裂が機械的にふさがれているため、嗅素がこの部分に到達することができないために起こる。粘膜の炎症性腫脹、鼻中隔奇形、腫脹、鼻汁などが原因となる。 - ②嗅粘膜性嗅覚障害
嗅裂における嗅細胞が侵され、機能の減退または廃絶した状態をいう。粘膜の急性または慢性の炎症、とくに篩骨蜂巣炎と関係が深い。また、刺激性がガス吸入による職業性嗅覚障害や、インフルエンザ後や、高齢者に見られる。 - ③混合性嗅覚障害
①と②が混在するもの。
(2)中枢神経性嗅覚障害
嗅覚中枢または、中枢までの経路が器質的(腫瘍、外傷など)、あるいは機能的(ヒステリー、心身症など)に障害されることによって起こる。また、嗅覚過敏や錯嗅・嗅覚倒錯などの判断の手がかりともなる。
嗅覚検査の目的
嗅覚障害を訴える患者に対して、嗅覚障害の程度の判断や正常嗅覚者の選別、治療効果の判断を行う。
嗅覚検査の実際
基準嗅覚検査
- T&Tオルファクトメータを用いて調べる標準的嗅覚検査である。
- A〜Eの5種類の基準臭による検査を標準とする(表1 )。
- 各嗅素ビンには、5〜−2までの番号がつけられ、10倍の単位で8段階の濃度が作られており、5は最高濃度(Bだけは4)である。各嗅素とも正常嗅覚者が検知できる濃度を0番としている。また無臭の対照液がセットされている。
- 実際の検査方法は、におい紙(幅7cm、長さ15cmの無臭の濾紙)を用いて基準臭のA、B、C、D、Eの順に行う。
- 各基準臭におけるにおいの閾値の測定は、一番低濃度から順次高濃度に変えて、初めて何かにおいの感じられたときの濃度である検知閾値と、何のにおいであるか判断できる濃度である認知閾値を測定する。その結果をオルファクトグラムに記入する(図1 )。
- 臨床的には、5種類の嗅素の認知閾値の嗅力損失の総和を5で割った値(認知平均嗅力損失値)を用いて、嗅覚障害の程度を正常、軽度・中等度・高度減退、脱失と段階的に分ける(表2 )。
- なお、基準値の5の強さを感じないものを6として計算する。ただし、Bは4までしかないので、それを感じないものは5とする。
静脈性嗅覚検査
- ニンニク臭のアリナミンを静脈注射して静脈経由での嗅覚を検査する。
- 肺からの呼気中の嗅覚を検査する。肺からの呼気中のにおい分子が、後鼻孔から嗅粘膜に達することが主な要因とされている。
<実際の測定法>
- ①アリナミン注射液10mg(2mL)を等速度で左肘正中皮静脈に20秒間注射する。
- ②被検者には安静な鼻呼吸を続けてもらい、アリナミン特有なにおいが感じられたら合図させる。
- ③静脈注射時間開始からアリナミン臭の発現時間までを潜伏時間、発現から消失までの時間を持続時間として測定する。
- 静脈性嗅覚検査では、潜伏時間は嗅覚閾値に関係し、正常者8〜9秒間である。持続時間は嗅覚閾値と嗅覚疲労に関係し、正常者では1〜2分である。
- 嗅覚障害者では潜伏時間は延長し、持続時間は短縮する。また、完全嗅覚脱失者ではアリナミン臭は得られない。
- この検査でにおいを明確に感じる場合は、比較的予後がよい。
嗅覚検査前後の看護
(1)患者への説明
- においを嗅ぎ分ける検査であること。2つの方法を行うこと。
- 5種類のにおいが8段階に分かれている。このにおいがそれぞれどの段階で分かるか調べる検査。
- 特有のにおいをもつビタミン剤の注射を行う。注射後においを感知するまでの時間、においがなくなるまでの時間を測定する。
(2)準備するもの
(検査室に置いてある場合もある)
・T&Tオルファクトメーター
・におい紙
・基準臭(5種類、8段階)
・脱臭装置
・記録紙
・アリナミン注射液
・アルコール綿
・駆血帯
・テープ
・ストップウォッチ
(3)検査後の管理
- 特になし。
嗅覚検査において注意すべきこと
- 検査前の食事では極端ににおいの強い物や刺激の強い食事は避ける。
- においの強い化粧品、オーデコロン、整髪料等の使用を控える。
- 検査前60分前から水以外の飲食を避ける。
- 検査前30分前から検査終了まで喫煙を控える。
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本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 看護に生かす検査マニュアル 第2版』 (編著)高木康/2015年3月刊行/ サイオ出版