グッド・ドクターのメッケル憩室|けいゆう先生の医療ドラマ解説【2】
執筆:山本健人
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医療ドラマを題材に、看護師向けに医学的知識を紹介するこのコーナー。
今回も、前回に引き続き「グッド・ドクター」を取り上げたいと思います。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
けいゆう先生の医療ドラマ解説
Vol.2 憩室(けいしつ)が引き起こすさまざまな病態
©フジテレビ
2018年8月2日に放送された「グッド・ドクター」第4話では、尿膜管遺残とメッケル憩室という2つの疾患が登場します。
尿膜管遺残とは、胎生期に臍と膀胱をつなぐ尿膜管が、出生後も閉鎖せずに残ってしまう病気。ここが感染して膿瘍が形成され、これが破裂して腹膜炎になってしまう、というストーリーでしたね。
膿瘍のドレナージと、尿膜管の摘出手術が必要になったのですが、手術中に患者が出血性ショックに陥ってしまいます。
©フジテレビ
ここで主人公の新堂湊(山崎賢人)が疑ったのは、消化管出血でした。
彼は、事前の腹部CTで患者の小腸にメッケル憩室があることに気づいており、憩室からの出血を疑ったからです。
湊のおかげで無事にメッケル憩室を見つけ、切除することで手術を終えることができたのでした。
尿膜管遺残に対する術前検査で、誰もが注目していなかった小腸の憩室に気づいた、彼の鋭い洞察力が表現されたのですね。
さて、今回のキーとなった「憩室」について、みなさんは正確に理解しているでしょうか?
憩室があるとどんな問題が起こるか、知っていますか?
今回は、憩室が引き起こす病態について学んでいきましょう。
メッケル憩室とは?
「憩室」とは、管腔臓器から外側に飛び出た袋状の突起の総称です。
今回のドラマで問題となった「メッケル憩室」は、小腸にできる先天性の憩室で、その発生過程に特徴があります。
胎児には、小腸と臍の間に管がある時期があり、これを「卵黄管」と呼びます。
出生後、通常ならこの管は閉鎖して退縮してしまうのですが、一部に退縮せず残ってしまうことがあります。
これが残ると、小腸に憩室として突起が残るため、これを「メッケル憩室」と特別な名前をつけて呼んでいます。
回腸末端から口側100cm以内にできることが多く、長さは5~6cmが多いとされています。
2~3%の人が持っていますので、この記事を読む皆さんの中にも、数人はメッケル憩室を持っている人がいるはずです。
メッケル憩室は、それが存在するだけでは無症状のため、他の目的で行われた画像検査で偶然発見されたり、他の手術で腹腔内を観察した際に偶然見つかったりすることもあります。
今回のドラマのように、出血や炎症などの問題を起こすと切除が検討されます。
切除といっても、一般的にはリニアステープラーで憩室の根元を挟み込んで刃を走らせるだけで済むことが多く、それほど大がかりな手術が必要というわけではありません。
手術で使うステープラーには、リニアステープラーとサーキュラーステープラーがあり、リニアは直線的なステープラーで、サーキュラーは円形のステープラーです。
これを医療現場では総称して自動縫合器と言ったり、単にステープラーと言ったりします。
仕組みはホチキスに似ているのでこう呼ばれます。
臨床的に問題となりやすいのは結腸憩室
臨床的に最も問題になりやすい、圧倒的に頻度の高い憩室が結腸憩室です。
中には結腸全体に数え切れないくらい多数の憩室を持っている患者もいます。
術前検査などで、大腸に憩室が多発しているのが偶然発見されることもよくあり、大腸癌に対する腸管切除の際、吻合の妨げとなって外科医を悩ませることもあります。
憩室が多数存在している病態を「憩室症」と呼びますが、やはり憩室があるだけでは症状はありません。
問題となるのが、「出血」と「炎症」、すなわち、憩室出血と憩室炎です。
憩室出血とは?
憩室出血は、下部消化管出血の最も多い原因で、17~40%を占めるとされています。
一般的に痛みはなく、血便を主訴に受診されます。
70〜90%のケースで自然に止血するとされているため、バイタルが落ち着いていて活動性出血が疑われない場合は、内視鏡的止血は必要となりません。
一方出血量が多い場合は、まれにショックに至り、緊急内視鏡検査が必要となるケースもあります。
ちなみに、造影CTを行っても血管外漏出像(extravasation; 造影剤が血管の外に漏れているのが映る=活動性出血の所見)が見られるのは、15〜36%と高くはありません。
つまり、造影CTを撮影しても、下部消化管出血の原因が憩室であると特定できるケースは多くない、ということです。
下部消化管出血で受診された患者さんに対し、看護師からCTの必要性について問われることがよくありますが、「優先度としては高くない」ということと、「まずはバイタルを確認し、ショックの傾向がないかどうかを確認した上で、内視鏡的止血術の適応を判断することが重要」と覚えておきましょう。
憩室炎とは?
一方、憩室に細菌感染を起こして生じる、憩室炎も頻度の高い疾患です。
多くのケースでは抗菌薬投与によって治療が可能ですが、大きな膿瘍を形成した場合はドレナージ治療の追加が必要になりますし、穿孔によって汎発性腹膜炎を生じたケースでは緊急手術が必要となります。
また、憩室炎は結腸の全域に起こりうるため、盲腸や上行結腸に憩室炎を生じた場合、身体所見ではしばしば急性虫垂炎との鑑別が問題となります。
急性虫垂炎は、手術によって虫垂の切除が必要となるケースが多くありますが、結腸憩室炎では憩室だけを切除する、ということはできませんので、治療方針は全く異なります。
(一般的には抗菌薬治療が主体で、手術が必要なら結腸切除+吻合、または結腸切除+人工肛門造設、となりますが、この詳細はまた別の機会に書きましょう)
画像検査(CTがゴールドスタンダード)での正確な鑑別が必要になる、というのが重要なポイントです。
・メッケル憩室は2〜3%の人が持ち、出血や炎症によって時に切除が必要となる!
・憩室で最も多いのは結腸憩室。憩室出血や憩室炎で受診する人は非常に多いため、病態と治療方針は頭に入れておこう!
(参考)
・大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン/日本消化管学会
・MSDマニュアルプロフェッショナル版「メッケル憩室」
・専門医のための消化器病学 第2版/医学書院
illustration/宗本真里奈
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
山本健人 やまもと・たけひと
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
※2018/12/10 著者プロフィールを更新しました。
※2019/02/05 連載バナーを更新しました。
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