いまさら聞けない「ステージ」と「スキルス」の意味|けいゆう先生の医療ドラマ解説【3】
執筆:山本健人
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医療ドラマを題材に、看護師向けに医学的知識を紹介するこのコーナー。
今回は、大ヒットとなった「劇場版コード・ブルー」を取り上げたいと思います。
コード・ブルーでは、医療現場への綿密な取材をベースに脚本が書かれているため、セリフにリアリティがあるのが特徴です。
そのため、何気ない会話にも重要なヒントが隠れています。
今回は、劇中のセリフに触れつつ、看護師が知っておくべき重要な疾患について解説します。
(以下、ネタバレもありますのでご注意ください)
けいゆう先生の医療ドラマ解説
Vol.3「劇場版コード・ブルー」スキルス胃がんと患者への説明
スキルス胃がんについて知っておくべきこと
劇場版コード・ブルーの前半で、終末期の胃がんの患者さんが出てきます。
飛行機が乱気流に巻き込まれ、その最中の胸部外傷で救命センターに搬送された、という経緯でした。
病名について女性は自分で、「スキルス胃がん、ステージIV」と説明します。
さて、このセリフを聞いて、どんながんのどんな進行度であるか、きっちり理解できるでしょうか?
胃がんの分類
一口に胃がんといっても、さまざまな種類の病態が含まれます。
そこで、胃がんを分類する必要があるのですが、この方法には主に3種類あります。
進行度分類、肉眼型分類、組織型分類です。
結論から言うと、「ステージIV」とは進行度分類によるもの、「スキルス」とは肉眼型分類によるものです。
進行度分類
進行度分類である「ステージ」は、IA〜IVまで8段階あり、数字が大きい方が進行したがんであることを意味します。
覚える必要はありませんが、進行度分類を載せておきます。
(京都大学医学部附属病院 消化管外科 ホームページの図を参考に編集部作成)
胃がんは、胃の壁の表面(粘膜層)から発生し、そこから深く潜りこんでいきます。
また、胃の壁の中を走るリンパ管に入ってリンパ節転移を起こしたり、血管に入って他の臓器に転移したりします。
胃の壁を貫通し、お腹の中にがんがこぼれ落ちて広がる腹膜転移(腹膜播種)という形態をとることもあります。
そこで、
・深達度(がんが胃壁の中をどのくらい深く潜り込んでいるか)
・リンパ節転移の有無と個数
・遠隔転移の有無
の3項目によって、ステージ分類を行います。
なお、遠隔転移がある、すなわち胃以外の臓器や、胃の周囲を超えた領域のリンパ節(所属リンパ節以外のリンパ節)にがんが転移していれば、全てステージIVという扱いです。
劇中で出てきた「ステージIV」は、前述の通り遠隔転移があるものを指します。
胃がんでは、肝転移や腹膜転移(腹膜播種)がよく見られます。
劇中では、外傷による臓器損傷の検索目的で撮影したCTを見た白石と緋山に対して女性が、
「結構写ってるでしょ」
と言うシーンがあります。
おそらく、こうした遠隔転移がCT上明らかにわかるくらい、広範囲に広がっていることが推測されます。
肉眼型分類
胃がんそのものの肉眼的な「見た目」からがんを分類しよう、というもので、ボールマンという病理学者が100年以上も前に提唱した分類方法です。
0型〜4型まで5種類、あるいは分類できないものを5型、とすることもあります。
スキルス胃がんとは、「4型」とされるタイプのことです。
明瞭な潰瘍形成がなく、胃壁全体が肥厚して硬くなり、病変部位と周囲の正常粘膜との境界が不明瞭なのが特徴で、他の型とはかなり異なる外観を呈します。
胃の粘膜下をはうようにがんが広がることが原因です。(「スキルス」とは「硬いもの」を意味するギリシャ語が語源)
進行したスキルス胃がんでは、CTで胃全体の壁が分厚くなる様子が観察されるため、女性のセリフである、
「結構写ってるでしょ」
は、胃そのものに対して言った可能性もあります。
ちなみに、同じ胃がんであっても初期の段階であればCTでは検出できません。
内視鏡検査や胃造影検査(バリウムによる)でなくては検出できない胃がんも多くあることに注意が必要です。
組織型分類
胃がんの組織を顕微鏡で見て、その姿、形で分類する方法を「組織型分類」と言います。
乳頭腺がん、管状腺がん、低分化腺がん、印環細胞がん、粘液がんといった分類名が当てられます。どのタイプのがんなのかは、病理診断科の医師が診断します。
ただし、専門的な言葉が並ぶため、患者さんは組織型分類までは覚えていないことが多いです。
看護師も詳細に知っておく必要はないでしょう。
予後を問われた時のセリフに学ぶ
映画では、女性の交際相手から予後を聞かれた白石が、
「統計を超えて生きる人もいるし、明日何かが起きるかもしれません」
と言うシーンがあります。
そのまま現場で使われることもあるような、非常に重要なセリフです。
ステージIVの胃がんの5年生存率は、統計データ上は7%台です(全国がん(成人病)センター協議会の生存率共同調査より引用、報告によってデータは異なります)。
しかし、あくまで統計ですから、その患者さん自身がどういう経過をたどるかは、正確には誰にも分かりませんし、データより長く生きられる人はいます。
「統計を超えて生きる人もいる」という楽観的な情報提供だけで済ますのは許されません。
終末期に近い進行度の患者さんは、突然全身状態が悪化することもあります。
「明日何かが起きるかもしれない」
とは、一見残酷に聞こえるかもしれませんが、このような終末期の患者さんの場合は、万が一の事態を想定していただくこともまた、患者さんやご家族のために必要なことです。
予後に関するこうした相談は、医師に尋ねにくいために看護師に尋ねる、という方は少なくありません。
その際、無用に患者さんに期待感を抱かせるような発言をすると、トラブルの元になる危険性もあります。
上記のような説明が望ましい、ということを頭に入れておきましょう。
・「スキルス胃がん」「ステージIV」の意味がわかるよう、胃がんの分類方法は簡単に頭に入れておこう。
・終末期のがん患者さんからの予後に関する質問に答える時は注意が必要!
(参考文献)
・胃癌取扱い規約第15版/金原出版
・胃癌治療ガイドライン第5版/金原出版
illustration/宗本真里奈
編集/坂本綾子(看護roo!編集部)
※2020/09/14 最終更新
山本健人 やまもと・たけひと
(ペンネーム:外科医けいゆう)
医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterやInstagram、Facebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。
※2018/12/10 著者プロフィールを更新しました。
※2019/02/05 連載バナーを更新しました。
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