【緊急収録】免疫療法について看護師が知っておくべき3つのこと

■免疫療法について看護師が知っておくべき3つのこと

1. 「免疫チェックポイント阻害剤」と「それ以外の免疫療法」を明確に区別する必要がある

 

2.  まだ適応疾患は限られている

 

3.  免疫チェックポイント阻害剤が効果を示す患者の割合は、現状まだ多くはない

 

執筆:山本健人

(ペンネーム:外科医けいゆう)

 

看護師の皆さんは患者さんから、

「ノーベル賞を受賞した免疫療法は私に使えませんか?」

と言われたらどうしますか?

 

今、本庶佑先生のノーベル賞受賞によって「がん免疫療法」がますます注目を浴びています。

 

外来や病棟で悪性腫瘍に対して化学療法中の方や、あるいは化学療法を家族が受けている方から、免疫療法について質問を受ける機会が多くなるでしょう。

 

「医師への質問はためらわれるが看護師には何でも相談しやすい」という患者さんが多いのは、皆さんもよくご存知だと思います。

 

知識が不確かな場合は「医師に相談してください」と答えるのが望ましいのですが、免疫療法の場合、患者さんがかなり危険な誤解をしているケースがあるため、看護師も最低限の基礎知識は持っておいた方がいいでしょう。

 

免疫療法については、今から書く3つのポイントをおさえておいてください。

※化学療法を専門とする部署の看護師は、もう少し詳しい知識が必要となる場合もあるためご注意ください。

 

 

 

 

1. 「免疫チェックポイント阻害剤」と「それ以外の免疫療法」を明確に区別する必要がある

今回の功績となった免疫療法は、

「免疫チェックポイント阻害剤」と呼ばれる薬剤の治療です。

 

現在、多くの種類の免疫チェックポイント阻害剤が承認されています。

代表的なものとしては、ニボルマブ(オプジーボ®)、ペムブロリヅマブ(キイトルーダ®)、イピリムマブ(ヤーボイ®)などがあります。

 

しかし、

世の中で「免疫療法」と呼ばれている治療は、免疫チェックポイント阻害剤以外にもたくさんあります。

 

実際、「免疫療法」でGoogle検索すると、

樹状細胞ワクチン療法

・活性化リンパ球療法

・NK細胞療法

・ペプチドワクチン療法

など、

患者さんにとっては違いの分かりにくい名前の治療が「免疫療法」として扱われています。

 

患者さんはこうした情報を仕入れ、これらが今回のノーベル賞の功績に含まれる、と誤解している可能性があります。

 

そこで必ず説明すべきなのは、

「現時点で効果が認められ、国で承認されている免疫療法は、免疫チェックポイント阻害剤を含むごく一部の治療法だけ」

ということです。

 

こうした効果が認められた薬剤は、病院で保険診療の範囲内で使用できます。

自由診療で行われている、一部の高額な免疫療法とは混同しないよう、注意が必要です。

 

こちらの記事で勝俣範之先生(日本医科大学武蔵小杉病院腫瘍内科 教授)が、「受けてはいけない免疫療法」を見分けるコツとして、下記の3点を挙げ、注意喚起を行っています。

 

■受けてはいけない免疫療法を見分けるコツ

1. 保険がきかない自由診療であること

 

2. 患者の体験談が載っていること

 

3.「副作用が少ない」「がんが消える」などネットで効能効果をうたっていること

「ノーベル賞受賞で相談殺到 誤解してほしくない免疫療法」より抜粋

 

看護師の皆さんも、この3点について十分に理解しておいてください。

 

 

2. まだ適応疾患は限られている

免疫チェックポイント阻害剤が適応となるのは、現時点ではごく一部の悪性腫瘍のみです(1)

 

■免疫チェックポイント阻害剤が適応となる悪性腫瘍の例

・悪性黒色腫(メラノーマ)

・非小細胞肺癌

・腎細胞癌

・胃癌

・ホジキンリンパ腫

・頭頸部癌

・尿路上皮癌

など

 

標準治療となっている癌種もありますが、適応のない癌種もあります。

たとえば、我が国で最も多い癌となった大腸癌や、女性に最も多い乳癌には、現時点では適応はありません(2)

 

大腸癌や乳癌治療中の患者さんから免疫療法について質問を受けた場合には、このことを適切に説明する必要があります。

(もちろん、「将来的に適応を有する可能性がありますが」と説明を加えてもいいと思います)

 

また、適応に含まれる疾患であっても、「目の前の患者さんに対して適応があるかどうか」は全く別問題です。

 

たとえば、本庶先生の功績である「ニボルマブ(オプジーボ®)」は、2018年1月に改定された「癌治療ガイドライン」に標準治療として採用されました(3)

 

しかしここでは、

切除不能進行・再発胃癌に対して「三次治療以降としてニボルマブを推奨する」となっています。

 

切除不能進行・再発「以外」の胃癌(手術によって切除可能な進行度の胃癌)に対して使用しないのは当然のことですが、「三次治療(サードライン)以降に適応」とするのも重要なポイントです。

 

どんな悪性腫瘍でもそうですが、化学療法にはファーストライン、セカンドライン、サードラインと、推奨される治療に順番があります。

 

たとえば、ファーストラインとして「S-1+シスプラチン」といったレジメンで化学療法を受けている胃癌患者さんから、「オプジーボ®を使ってもらえないか」という質問があれば、

・現時点でオプジーボ®が適応となるのはサードライン以降であること

 

・ファーストラインの治療継続が可能な状態にあるなら、それを続けることが最も望ましいこと

を説明する必要があります。

皆さんの部署で扱っている悪性腫瘍について、事前にこうした適応について知識を整理しておくことが大切です。

 

 

3. 免疫チェックポイント阻害剤が効果を示す患者の割合は、現状まだ多くはない

悪性腫瘍治療中の患者さんが、免疫チェックポイント阻害剤を「夢の治療」とする報道を、大きな期待感を持って見るのは当然のことです。

 

しかし医療者には、本庶先生ご自身も会見で話されたようにまだ発展途上」という認識も必要です。

 

実際、免疫チェックポイント阻害剤が効果を示すのは、臨床試験の結果を合わせると全体の2割程度とされ、よく効く人とそうでない人がいるのが事実です(4)

 

また、免疫に作用する薬であるため、自己免疫疾患に似た特有の副作用が現れる、という問題もあります。

場合によっては重篤な副作用が生じるため、そのマネジメントには専門的知識が必要です。

 

患者さんの期待感をくじくのは良くありませんが、治療法のメリット・デメリットについて正しく情報提供することが求められます。

ぜひ、このポイントをおさえて患者さんとコミュニケーションをとってみてください。

 

【文献】

1) 免疫療法 もっと詳しく知りたい方へ(国立がんセンター がん情報サービス)

2) 2018年のがん統計予測(国立がんセンター がん情報サービス)

3) 胃癌治療ガイドライン速報(ニボルマブに対する速報版)(日本胃癌学会)

4) Defining the Most Appropriate Primary End Point in Phase 2 Trials of Immune Checkpoint Inhibitors for Advanced Solid Cancers: A Systematic Review and Meta-analysis. JAMA Oncol. 2018 Apr 1;4(4):522-528.

編集/坂本綾子(看護roo!編集部)


山本健人 やまもと・たけひと

(ペンネーム:外科医けいゆう)

山本健人 (やまもと・たけひと) 先生のプロフィール写真

医師。専門は消化器外科。平成22年京都大学医学部卒業後、複数の市中病院勤務を経て、現在京都大学大学院医学研究科博士課程。個人で執筆、運営する医療情報ブログ「外科医の視点」で役立つ医療情報を日々発信中。資格は外科専門医、消化器外科専門医、消化器病専門医など。
「外科医けいゆう」のペンネームで、TwitterInstagramFacebookを通して様々な活動を行い、読者から寄せられる疑問に日々答えている。

※2018/12/10 著者プロフィールを更新しました。

 

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