生活不活発病|震災時に起こりやすい健康問題と予防法[2]
地震などの震災時、特に起こりやすい病気や健康問題があります。平時であれば、それほど問題にならなかったり、すぐに医療機関を受診して軽症ですむものが、震災時にはさまざまな条件が加わり、悪化してしまうのです。
そのため、災害にかかわる医療従事者は、震災時に起こりやすい健康問題にどのようなものがあるかを知り、少しでも早く徴候を見つけて対応する能力や、予防方法を指導できる知識が求められます。
勝見 敦
(武蔵野赤十字病院救命救急センター部長・日本赤十字社災害医療コーディネーター)
震災時に起こりやすい健康問題と予防法[2]
生活不活発病
[目次]
生活不活発病とは
どういう症状が出現するか
どういう被災者に起こりやすいか
どうやって予防するか
生活不活発病とは
生活不活発病とは、動かないこと(生活不活発)によって全身や頭、心の働きの低下が起こることです。
震災時、被災者は環境の変化によりさまざまな面で不自由さを強いられ、日常の活動範囲が制限(生活不活発)されてしまいます。特に高齢者や障害者は活動が低下してしまい、その中で動かずにいると、ますます「全身がだるい」「少し動いただけで息が切れる」「足元がふらつく」など全身の機能が低下します。
生活不活発病という概念を知っておくことは支援する上で重要なことです。過度な支援は生活不活発病を引き起こす可能性があります。
災害時、私たち支援者が「良かれ」と思ってやった支援が、「生活不活発病を引き起こす可能性がある」という意識を持つことが大事です。
一人ひとりの少しの支援が多く集まると、被災者には多大な支援となり、生活不活発病を引き起こすことにつながるかもしれないのです。
支援が逆に被災者に悪影響を引き起こす可能性がある…たとえば、避難所でご高齢の方が立ち上がる時に、手を貸してあげることも良い支援とは限らないのです。
ちょっと難しいですね。支援って。
特に震災時は、以下の理由から被災者は動かない、もしくは動けない状態になりやすくなります。
(1)環境が変わった
- ・街中にがれきが散乱していて歩きづらい
- ・家の中で物が散乱していて歩けない
- ・余震などが起こるため、できるだけ動きたくない
- ・避難所は通路に物があふれているなど、歩きにくい
(2)周囲への遠慮
- ・自分が動くと人の手を借りることになり、周囲に迷惑がかかる(特に高齢者や障害者)
- ・避難所は足音が気になるため歩き回りづらい
- ・周囲の人やボランティアが代わりにやってくれる
(3)家庭や地域で役割がない
- ・家事や庭の手入れなど、自宅での役割がなくなった
- ・地域の付き合いやイベントなどがなくなった
避難直後に上記のような理由から動かなかったために、中・長期的な避難生活が続くとさらに動けなくなり、生活不活発病となっていきます。
これは避難所生活をしている人だけではなく、仮設住宅や自宅で生活をしている人の場合でも起こります。
TIPS
「生活不活発病」の学術的な正式名称は「廃用症候群」といいますが、一般の方にも分かりやすいよう、「生活不活発病」という名称が使用されるようになりました。
どういう症状が出現するか
生活不活発病の主な症状は表1のとおりです。
大川弥生.内閣府:防災情報のページ「災害時支援の新たなターゲットとしての 生活機能」より
表1の「身体の一部に起こるもの」の「関節拘縮」や「筋力低下」などはよく知られていますが、生活不活発病は、どれか一つが分かりやすく出現するとは限りません。
また、「精神や神経の働きに起こるもの」のうつ状態や知的活動低下、周囲への無関心などが本当は生活不活発病が原因であるのに、「認知症を発症した」と思われ、生活不活発病に気づかれない場合が多いので、注意しましょう。
どういう被災者に起こりやすいか
高齢者や障害者、要介護者などに起こりやすいといわれますが、以下のような被災者がハイリスク者と考えられます。
・高齢者、病人、障害者、要介護者
生活行為の低下がある人
家庭内の役割が減った、外出しなくなった人 など
・環境限定型自立の人
自立していても、自宅近くしか歩いていない、壁や家具の伝い歩きのみの人 など
生活不活発病は予防・改善できる病気です。
そのため、早い段階で生活不活発病を起こしやすい人などを見つけ出す必要があります。災害直後や自宅避難者への訪問時などに「生活不活発病チェックリスト」(PDF)を用いて生活不活発病の可能性がないかどうかをチェックしましょう。
どうやって予防するか
生活不活発病は「活動が不活発になる」ことにより発症します。そのため、予防するには活動を活発にすることが有効です。
しかし、「活動を活発にする」というのは、単に「動けばいい」というだけではありません。環境が多いに影響しているのでコミュニティ―、地域単位での環境整備が必要となります。なかなか難しいのですが、被災者の家族や地域のコミュニティ-など、被災者の背景について、少しでも知った上でかかわることができればベストです。
生活不活発病を予防するためには「生活行為(活動)の向上」と「家庭・地域での役割への参加」の両方の仕組みを作っていかなければなりません。
生活不活発病を念頭に置きながら避難所、仮設住宅生活など、地域復興の大きなプロジェクトを考える必要があります。
1)生活行為(活動)の向上
避難所などでの不自由な状況であっても、その状況や本人に合った動く方法を具体的に指導しましょう。
たとえば、歩くのに不安がある方に、すぐに車いすを使用したり、介護サービスを提供するのではなく、介助しながら、もしくは杖などを使いながら歩くなど、できるだけ自分の身体を動かすような方法を勧めるようにしましょう。
2)家庭・地域での役割への参加
家族の中、もしくは地域や避難所の中などで役割を果たすことで、生活の活発化を図ることができ、本人も満足感を得ることができます。
ただし、その場合は複数の選択肢を提示し、あくまで本人の意思で選んでもらうことが必要です。
3)病人などの場合
病人や外傷がある人の場合「安静にしておかなければならない」などの理由から、生活不活発病を発症するリスクが高くなります。
そういった人には、安静度の指導だけではなく、医師と連携を図りながら、「どれくらいなら動いても大丈夫か」「どういう動きをしてはいけないか」「(動くことで)どういう症状に気をつけないといけないか」を伝えるようにしましょう。
[参考]
1)厚生労働省ホームページ.厚生労働省老健局老人保健課「東北地方太平洋沖地震による避難生活に伴う心身の機能の低下の予防について」
2)内閣府:防災情報のページ.災害時支援の新たなターゲットとしての 生活機能
3)障害保健福祉研究情報システム.生活不活発病(廃用症候群)―ICF(国際生活機能分類)の「生活機能モデル」で理解する
4)障害保健福祉研究情報システム.大川弥生.生活機能低下予防マニュアル~生活不活発病を防ごう~
【勝見 敦 (かつみあつし) 】
経歴
1985年3月 岩手医科大学医学部卒業
1999年4月 日本赤十字社東京都支部武蔵野赤十字病院救命救急センター 副部長
2009年4月 東京医科歯科大学医学部臨床教授
2011年10月 日本赤十字社東京都支部武蔵野赤十字病院第二救急部長
2013年12月 岩手医科大学非常勤講師
災害医療に関する資格
日本赤十字社医療コーディネーター
日本DMATインストラクター、東京DMAT講師、日赤DMATスタッフ
MIMMSインストラクター
日本集団災害医学会評議員